ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

天皇を象徴とした典拠~小堀桂一郎氏

2017-01-18 10:26:03 | 皇室
 大東亜戦争の敗戦後、我が国を占領したGHQは、占領政策の目的を、日本が再び米国及び世界の脅威とならないようにすることにおいた。一言で言えば、日本の弱体化である。最大のポイントとされたのは、天皇の権威を引き下げ、天皇の権限を少なくし、天皇と国民の紐帯を弱めることだった。
 現行憲法において、天皇は「日本国の象徴」にして「日本国民統合の象徴」と規定されている。だが、その象徴とは何かについて憲法は規定していない。
 もともと我が国は祭政一致を伝統とする。天皇は本来、民族の中心として祭祀を司るとともに、歴史的には親政を行ってきた。貴族や武士に政権を委ねても、最も重要なことは、天皇が裁可した。本来の天皇は、象徴以上のものである。
 GHQに押し付けられた憲法に天皇は象徴と規定されたので、昭和天皇は、象徴天皇はどうあるべきかをお考えになり、ご公務に尽くされた。今上陛下は、先帝陛下の御事績を踏まえて、象徴天皇のあるべき姿を、誠実に実践究明されている。
 しかし、憲法に象徴という語が使われるようになったのは、GHQの起草者に深い考えがあったからではない。憲法の原案起草に携つたケーディスは「天皇は政治的権限を行使することができないのなら、一体どんな存在となるのか。国の象徴とか国民統合の象徴といった表現は、実は私たちがその起草の段階でふっと考えついてつくり出したものなのです」と語っている。
 この点に関して、昨年秋、東京大学名誉教授の小堀桂一郎氏が詳しく書いたものを、以下に掲載する。

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●産経新聞 平成28年11月3日

http://www.sankei.com/column/news/161103/clm1611030005-n1.html
2016.11.3 13:00更新
【正論】
「天皇は国民統合の象徴」…その隠れた典拠を解く 東京大学名誉教授・小堀桂一郎

 以下に述べる事は筆者が年来機会ある毎に筆にしてゐる見解であつて、それを今更反復するのは学問人としては元来慎しむべき挙であるが、筆者の旧説などは世の識者方の記憶に留まつてはゐまいと思ふので、敢へて又記しておく。

≪ケーディス氏の記憶の空白≫
 古森義久氏は昭和56年にアメリカの或(あ)る研究機関の研究員として米国に滞在中、同じく滞米中の江藤淳氏の熱心な勧めにより、曽(かつ)てGHQ民政局次長として日本国憲法の原案起草に携つたケーディスに長時間会見し、米占領軍民政局による憲法起草作業の内幕についての打ち明け話を聞く事を得た。その結果は江藤淳編『占領史録』(昭和56~57、新装版平成7、講談社学術文庫)の「憲法制定経過」の章に収められてゐる。
 古森氏とケーディスとの間の質疑応答は前文、天皇条項、戦争放棄条項の多岐に亙つたが、就中(なかんづく)、〈天皇は政治的権限を行使することができないのなら、一体どんな存在となるのか。「国の象徴」とか「国民統合の象徴」といった表現は、実は私たちがその起草の段階でふっと考えついてつくり出したものなのです〉とのケーディスの告白的回想は古森氏にとつて衝撃的だつた様である。古森氏はつい最近月刊誌『WiLL』でその思ひ出を語られたので、天皇の象徴規定とはそんな時の弾みから生れたものだつたのか-との驚きを人々の間に捲き起したらしい。本稿で筆者が持説を再言する動機もやはりここに関はつてゐる。
 ケーディスは地味で誠実な人柄だつたらしく、この時も古森氏に対し決してうそを言ふつもりもその必要もなかつたであらう。ただその〈ふっと考えついて〉の裏には本人も判然とは意識してゐない、記憶の空白があるのではないか、といふのが筆者の推測である。この推測は当つてゐなくても構(かま)はない、結果として偶然の符合であつてもよい事なのだが、この時彼の潜在意識の中からその文案に暗示を与へてゐたのは、新渡戸稲造による日本の天皇と国民との関係の説明だつたのではないか。

≪新渡戸稲造が示した認識≫
 新渡戸のその説明は昭和6年、彼がジュネーヴでの国際聯盟事務局での7年の勤務を終へるに際し、或るイギリス人の友人の慫慂(しょうよう)に応へて著した『日本-その問題と発展の諸局面』と題する英文の著述で、ロンドンのアーネスト・ベン社から出た。同じ年にニューヨークでも別の社から刊行されてゐる。この書がもし昭和21年にGHQの憲法起草委員達の手許にあつたとすれば、おそらく彼等の日本語通訳として作業に協力してゐた当時22歳のベアーテ・シロタが東京市内の図書館から借り出して提供したものであつたらう。
 この書の第4章「政府と政治」に〈かくて天皇は国民の代表であり、国民統合の象徴である。而して人々を統治と臣従の関係に統一してゐる絆の真の本質は、第一に神話に示された血縁関係であり、第二に道徳的結びつきであり、三番目が法的義務である〉といつた定義的な説明が見えてゐる。
 新渡戸が〈天皇は国民統合の象徴〉であるとの認識を示したのはこの書に於いて初めてではなかつた。該書より遙かに高名な、英文での著書『武士道』(明治34)でもブートミーが『英国民』でイギリス王室について〈それは権威の表象(イメージ)であるのみならず、国民的統一の創造者であり象徴(シンボル)である〉と説明してゐる一節を引いて、彼は〈この事は日本の皇室については二倍にも三倍にも強調せらるべき事柄である〉と注記してゐる。
 新渡戸の『日本』は昭和60年の全集刊行まで邦訳が無かつた。『武士道』は邦訳も明治41年が初版だつたといふ古さの故に概して忘れられてゐたので、新渡戸が天皇の存在を夙(つと)に〈国民統合の象徴〉と呼んでゐたといふ事蹟はとかく国民の認識から洩れてゐた。

≪過激な変革を要さない表現≫
 それ故に、総司令部案の邦訳が日本国憲法の草案として世に知られた時、その要綱では、天皇は日本国の元首の地位にあるとしたマッカーサー原案を伏せた形で、天皇は国家の象徴であり〈国民統合の象徴〉であると書かれてゐた事に識者達は大きな困惑を覚えた。
 この事態に最も真摯(しんし)に対処した知識人達の代表とも云ふべき和辻哲郎は、昭和20年から23年にかけて「国民全体性の表現者」を中心とする連作の論文を以て、象徴と表現する事が天皇の地位の革命的変化を意味するわけではないとの見解を展開した。もしこの時彼が新渡戸の過去の業績を知つてゐたならば、論策の有力な支柱となり得てゐたであらうが、それが無かつたから、和辻は〈日本国民の総意〉といふ字眼に力点を置き、総意の形成は歴史の所産であるとの立論を以て、国体は変更を受けてゐない事の論証に肝胆を砕いた。
 新渡戸、和辻両先達の学問上の考察を踏まへて問題を見てゐる私共は、象徴天皇制といふ枠組の維持には別段過激な変革を必要とするわけではない事を知つてゐる。国民の総意との観点に立てば帝国憲法と旧皇室典範に定められた皇位継承の慣例は依然有効である。(東京大学名誉教授・小堀桂一郎 こぼり けいいちろう)
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「人権――その起源と目標」を完結

2017-01-16 10:06:45 | 人権
 拙稿「人権――その起源と目標」は、第4部第12章「人権の理論と新しい人間観」の連載を終え、マイサイトに掲示しました。既に掲載してある第11章の後に追加しました。通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i-4.htm

 拙稿「人権――その起源と目標」は、これを以って全体の連載を完結しました。4年6か月にわたり、ご愛読ありがとうございました。目次を、下記に掲載しました。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
 4部構成、約92万6千字の大作です。全体の要旨を記すとーー人権の起源は、近代西欧における普遍的・生得的な権利という観念にあるが、人権の実態は歴史的・社会的・文化的に発達してきた権利である。生まれながらに誰もが持つ「人間の権利」ではなく、主に国民の権利として発達する「人間的な権利」である。「発達する人間的な権利」としての人権の目標とすべきものは、個人の自由と選好の無制約な追求ではない。個人においては人格的な自己実現であり、国家においては共同体の調和的発展、人類においては物心調和の文明、共存共栄の世界の実現である。こうした目標を追求するには、新しい人間観として心霊論的人間観の確立が必要であるーーと主張するものです。
 本稿が、従来の人権に関する多くの主張の誤りや人権を掲げた左翼的な運動の偏りを正し、日本の再建と人類の調和的発展に、少しでも寄与できるならば幸いです。

※お知らせ
 ほそかわ・かずひこの<オピニオン・サイト>は、下記に移転しました。
http://khosokawa.sakura.ne.jp
 リンクの登録更新をお願いいたします。
 従来のアドレスのサイトは、平成29年4月に閉鎖予定です。
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「トランプ時代の始まり~暴走か変革か」をアップ

2017-01-15 09:55:17 | 国際関係
 昨年12月4日から本年1月14日にブログとMIXIに連載したドナルド・トランプ米次期大統領に関する拙稿を編集して、マイサイトに掲示しました。通してお読みになりたい方は、下記へどうぞ。

■トランプ時代の始まり~暴走か変革か
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion12-3.htm
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か19

2017-01-14 08:39:03 | 国際関係
 最終回。

●日本への影響とそれへの対処(続き)

 外交・安全保障についても同様である。特に対中国の政策に関して、それが言える。
 トランプは、選挙期間中から「大統領就任初日に中国を『為替操作国』に認定する」「中国のハッカーや模造品に規制強化する」「中国の輸入品に45%の関税を課す」「中国の覇権主義を思いとどまらせる。米軍の規模を拡充し、南シナ海と東シナ海で米軍の存在感を高める」等々と述べてきた。
 トランプは、単に経済的な利益の追及のためだけで、中国に強い姿勢を示しているのでなく、軍事力を増強して、中国に対抗しようとしている。米軍の戦力を陸、海、空で増強し、最新のミサイル防衛システムを開発することが必要だとし、「米軍の大増強」に着手する考えを明らかにしている。南シナ海に中国を圧倒する海軍力を配備して断固とした交渉をすること、日・韓・東南アジア諸国と共同ミサイル防衛網の構築を行うこと、その上で中国に対して国際的な規範を逸脱する行動に断固抗議して抑制を迫ることなどを実行することが予想される。
 トランプは、軍事費を約300億ドル(約3兆3237億円)増額させ、米軍の大増強を図り、日本などの同盟国には負担増と役割増を求めるだろう。わが国は、単に米国から求められる負担増・役割増を受け身で担うのではなく、憲法を改正して日本人自身が日本を守る体制を回復し、米国のためではなく、日本とアジアのために、自らの意思で行動しなければならない。また集団的自衛権は国際標準で行使できるようにしていかねばならない。それが、日本を守り、アジア太平洋の平和を維持する道である。
 本年(平成29年)1月に始まるトランプ時代には、これから2020年代にかけて行われるであろう米国と中国の地球規模の覇権争いが、鮮明になる時代となるに違いない。超大国・米国は確かに低迷・衰弱しつつある。だが、その経済力・軍事力は、以前として世界一である。一方、躍進著しい中国はAIIBの創設、人民元のSDR入り等を進め、経済大国として巨大化しつつあるようにみえるが、国内経済はバブルの崩壊が進行し、不良債権の増大、失業者の増加、暴動の頻発等で危険な界域に突入している。レーガン政権は軍拡競争で、停滞するソ連の経済をさらに悪化させ、赤い帝国を崩壊に導いた。トランプ政権がその例に学んで、中国解体を目標とする経済政策のボディブローを打ちまくれば、中国は苦悶して昏倒することになるかもしれない。軍事力を増強して中国の動きを封じ、経済力による兵糧攻めで崩壊させる。今のアメリカには、まだそれを敢行し得る力がある。人類の平和と繁栄のため、総大将に決戦も辞さずという覚悟と、大戦略を持った軍師がいるかどうかだろう。
 わが国は、トランプ政権のスタートによって加速される大動乱の時代に、しっかり対応しなければならない。それには、なによりもまず憲法を改正し、自らの手で自国を守る体制を確立する必要がある。日本が経済・外交・安全保障等を総合した戦略的な構想力を発揮し得るのは、日本人の手で憲法を改正し、まっとうな独立主権国家のあり方を回復したときのみである。どんでん返しを食らうTPPについては、もともとTPPと国家安全保障は、基本的に別の問題である。わが国は改憲と国家の再建を断行しない限り、米国へのさらなる従属の道か、中国の暴力的な支配に屈する道か、いずれかになる。日本の運命を切り開く選択は、自らの手で憲法を改正する以外にない。そして、充実した防衛力に裏付けられた外交力を力強く発揮する必要がある。日本がこの困難な時代を生き延びるために、日本人が日本精神を取り戻し、一致団結することが求められている。
 日本人がこの苦難苦境にひるみ、たじろぎ、自らの意思で運命を切り開くのでなければ、米国へのさらなる従属の道か、中国の暴力的支配に屈する道かのいずれかになる。それは、日本という国家の消滅であり、また日本人という民族の消滅に結果するだろう。21世紀の半ばを迎えるころ、日本が世界を物心調和・共存共栄の新文明に導く国家として輝かしい活躍をし得ているか、それとも世界の大動乱の中で他国に呑み込まれて衰滅してしまうかーーそれは、日本人が日本精神を復興・発揚できるかにかかっている。(了)
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人権401~精神的・道徳的な向上を促す力が待望される

2017-01-13 08:49:12 | 人権
 最終回。

●精神的・道徳的な向上を促す力が待望される

 物心調和の文明、共存共栄の世界を建設する上で、最大の道徳的な課題は、人類はそれぞれの共同体的な集団におけるような、家族的生命的なつながりを基にした同胞意識や連帯感を、ネイション(国家・国民)やエスニック・グループ(民族)を越えて保持し得るかということだろう。
 世界人権宣言には、「human family」という用語が使われている。正確に訳すなら、「人類家族」である。人類は、果たして一つの家族としての同胞意識・連帯感を持ち得るだろうか。 現在の世界人口を70億人とすると、70億人で一つの社会とはなっていない。人類社会は、複数の社会の集合である。主権国家及びそれに準ずる政治組織は、190を越える。これらの集団間には様々な差異があるが、その一つとして人口の差がある。この差は非常に大きい。人口10億人以上の国家、1億人以上の国家、1千万人以上の国家、百万人以上の国家、百万人未満の国家と多様である。10億人の人口を持つ国家は、500万人の人口を持つ国家の200倍の規模である。200とは、地球上の国家と地域の数に近い数字である。
 人間は血統や地域や生活を共にすることによって、相互扶助・協力協働の関係を築く。また、家族愛や友愛を育む。集団生活における直接的な交流は、数百人から数千人程度が普通である。数百万人、数千万人と直接交流する人は、ごく少ない。多くの人間は、直接的で具体的な経験を超えて、他者への理解や同情を持つことは難しい。直接的で具体的な経験なくして、同胞意識や連帯感を持てるようになるには、共感の能力の開発による大きな精神的・道徳的な向上が必要である。そのために教育・啓発活動の役割は大きい。だが、よほど強力な感化力を持った思想や宗教でなければ、既成観念にとらわれた人々の意識の変革はできないだろう。そこで、多くの人間の自己実現・自己超越を促進する精神的な巨大なエネルギーが求められる。人間の精神に感化を与え、破壊的・自滅的な思考回路を消滅させ、恐怖をもたらすトラウマを癒して、精神を健全に発達させる力が待望されている。
 その力はまた人類を物心調和の文明、共存共栄の世界の建設に導く力でもある。宇宙には秩序と発展をもたらす力が存在する。この力は万物を貫く理法に基づいて働く。ここで理法とは、第11章の結びに書いた古代ギリシャのノモスやシナ文明の道(タオ)、日本文明の道(みち)または道理に通じるものである。また、その力は、万物を理法に沿った調和へと導く力である。その力が人類に作用して、人類の知能や文明・科学等が発達してきたと考えられる。子供は成長の過程において、最初は肉体が成長し、後に精神が成長する。それと同じように、人類の文明も、最初は物質文化が発達し、次は精神文化が発達する。人類がその力を求め、受け入れる時、かつてない精神的・道徳的な向上が始まるだろう。
 この力とは、宇宙の万物を生成流転させている原動力である。宇宙本源の力である。その宇宙本源の力を受けることによる精神的・道徳的な向上は、一部の人たちから始まり、また一部の国から広がるだろう。経済中心・物質中心の価値観から物心調和の価値観に人々の価値観が変化する。そうした国々で物心調和の文明の建設が始まる。この新たな文明が、その他の国々にも広がる。それによって、共存共栄の世界が実現されていく。諸個人・諸国家・諸民族の調和的な発展によって、国家間の富の収奪が抑制され、過度の不平等が是正されていく。国際間の平和と繁栄が共有され、国家間の格差が縮小される。物心調和の文明、共存共栄の世界が建設される過程で、諸国家における国民の権利が発達する。戦争・内戦等の人為的原因で発生する難民が減少する。こうして諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される社会が実現する。このサイナジックな社会において、物心調和の文明、共存共栄の世界の建設は一層大きく進むことになる。それによって、また諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される。こうした循環が螺旋的に進行するに従って、人類は飛躍的な進化を体験することになるだろう。
 人権とは、それ自体が目標ではなく、人格の成長・発展、ネイションの調和的発展、物心調和の文明と共存共栄の世界の実現という目標を達成するために必要な条件である。

●結びに

 本稿は、ブログとMIXIに平成24年(2012)7月8日から、約4年6か月にわたって連載した。第1部で人権の基礎理論、第2部で人権の歴史と思想、第3部で人権の現状と課題、第4部で人権の目標と新しい人間観について書いた。目次と本文を下記に掲示している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
 全体の要旨を再度記すと、人権の起源は、近代西欧における普遍的・生得的な権利という観念にあるが、人権の実態は歴史的・社会的・文化的に発達してきた権利である。生まれながらに誰もが持つ「人間の権利」ではなく、主に国民の権利として発達する「人間的な権利」である。「発達する人間的な権利」としての人権の目標とすべきものは、個人の自由と選好の無制約な追求ではない。個人においては人格的な自己実現であり、国家においては共同体の調和的発展、人類においては物心調和の文明、共存共栄の世界の実現である。こうした目標を追求するには、新しい人間観として心霊論的人間観の確立が必要である、と主張するものである。
 本稿が、従来の人権に関する多くの主張の誤りや人権を掲げた左翼的な運動の偏りを正し、日本の再建と人類の調和的発展に、少しでも寄与できるならば幸いである。(了)
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か18

2017-01-12 09:32:12 | 国際関係
●日本への影響とそれへの対処

 結びに、来るべきトランプ政権の日本への影響とそれへの対処について書く。
 私は、東日本大震災の発生後、平成23年(2011)5月に、「日本再建をめざして~実行すべき課題」を発表し、マイサイトに掲載している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinionaa.htm
 5年以上経過するが、残念ながらそれらの課題の取り組みは遅々としており、日本の再建は、良く進んでいない。本稿の各項目に、トランプの政策の日本への影響とこれへの対処について書いたことは、それらの課題に加えてなすべきことや、状況を踏まえた補足となることである。各項目に書いたことをここで集約しつつ、私見を述べたい。まずTPPを含む経済面、次に外交・安全保障面、そして根本的な対処の順に書く。

 最初にTPPを含む経済面についてである。オバマ政権は、2009年(平成21年)1月から2期8年続いた。現在の第2次安倍政権は、2012年(平成24年)12月に誕生し、以後、約4年間、オバマ政権と協調して歩んできた。
 オバマ政権は中国を経済的に包囲するという思惑からTPPを推進し、日本を取り込んで、12か国の交渉を主導してきた。ところが、最終段階で、米国は、国民が選んだ新たな大統領トランプにより、TPPから離脱するというどんでん返しになろうとしている。
 TPPは、関税分野だけでなく、投資やサービスなど幅広い分野のルールを定めようとするものである。自由貿易を拡大する広域経済協定だが、オバマ政権は米国主導で各国の文化・伝統・価値観を排除し、グローバリゼイションを徹底的に進めようとした。わが国は、もともと米国主導のTPPへの参加に慎重な姿勢を取っていたが、米国との協調のため、かなり遅れて議論に参加した。米国に安易な妥協をすることは、大きく国益を損なう。TPPで米国の外交圧力に屈すれば、プラザ合意以降の日米経済戦争の最終局面になりかねない。ただし、それでもTPPに大きな意味があるとすれば、台頭する中国への対抗である。とりわけわが国の場合、現行憲法のもと国防を米国に依存しているので、中国の軍事力から国を守るために、最終的には米国の意思に沿わざるを得ない屈辱的な立場にある。
 遅れて参加したわが国は、安倍首相を中心にタフな交渉を続けてきた。だが、明らかに米国追従やむなしという中での部分修正の努力だった。米国は自国主導の姿勢を貫いたので、参加12カ国の交渉は5年半以上もかかり、ようやく2015年10月に、大筋合意に達した。その後は、詰めの交渉が続けられてきたが、最終段階になって、次期大統領のトランプは、TPPから離脱すると宣言した。わが国としては、やむを得ず米国に追従してきて、最後に突き放される格好となる。
 本年1月20日、トランプは、大統領就任と同時におそらくTPP脱退を宣言するだろう。安倍首相は、米国が抜けたTPPは「意味がない」と言っている。では、わが国政府は、米国がTPPを脱退した場合にどうするか。シナリオを準備してきたのだろうか。米国抜きでTPPを日本主導で進め、発効条件や内容の修正を図るのか。日本もTPPをやめて、二国間での自由貿易協定の組み合わせに進むのか。TPPと違って中国が加入する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に軸足を移すのか。
 米国の離脱でTPPが発効しなければ、それによって生じた空白は、RCEPで埋められることになるだろう。RCEPは米国が入っておらず、GDP最大の国は中国だから中国主導となる可能性が高い。
 ここで日本は、米国へのさらなる従属の道でも、中国の暴力的な支配に屈する道でもなく、自らの運命を切り開く主体性を持った戦略的な構想力を求められている。
 トランプの経済政策は、レーガノミクスと共通点がある。わが国はプラザ合意の時と同じような結果に陥らないようしっかり研究して、主体的に対応することが求められる。
 米国は「物を作って売る」という経済の基本的な活動を軽視し、貨幣や証券のやりとりで利益を上げるという金融中心の活動に傾きすぎてしまった。製造業の衰退は、その結果である。米国のエリートは、大地の上に立って汗水流して働くのではなく、人工的な空間で頭を使うことだけで莫大な富を手に入れられるゲームに熱中している。また、米国民の多くが下層に至るまで、海外からの借金で豊かな生活をする生き方に、はまってしまった。基軸通貨を掌握する地球的な覇権国家だから可能になった倒錯状態である。こうしたアメリカ人の生き方、価値観を改めない限り、米国経済の再建は成功しないだろう。必要なのは経済政策の転換よりも、生き方、価値観の転換である。オバマには、米国を根本的に再生しようとする理念も意思も見られなかったが、トランプも同様である。ここに気付かないと、いずれアメリカという帝国は腐敗・倒壊する。
 日本人もまたグローバリゼイション=アメリカナイゼイションの進行の中で、アメリカ人の生き方、価値観を模倣し、本来の経済活動を見失っている。米国型株主資本主義の追従を脱し、明治維新以来、昭和の高度経済成長期まで独自に発展日本型の資本主義、国民全体や企業共同体の利益を追求する経済思想・経済体制に立ち戻るべきである。
 トランプ政権が中国に対してどのような政策を行うにしても、わが国が自らの戦略を以って自らの意思で判断・行動するのでなければ、対米追従の繰り返しになる。中国経済は悪化し、米国の中国マネー依存が薄れ、米国の対中政策が強硬策に転じようとしている。その米国では、米国型資本主義が行き詰まっている。わが国は、米国型資本主義の模倣を脱し、日本型資本主義の再興を図りつつ、対中政策においても、米国に追従するのでなく、米国と対等の立場で連携する姿勢を取るべき時にある。
 わが国はトランプ政権の誕生を前にして、独立主権国家としての真に主体的なあり方を迫られているのである。

 次回が最終回。
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人権400~心霊論的人間観の確立を

2017-01-11 09:31:31 | 人権
心霊論的人間観の確立を

 いったい人生の根本問題とは何か。成長して大人になること、自分に合った伴侶を得ること、子供を産み育てること、よい死に方をすること。私はこれらに集約されると思う。これは、様々な宗教・哲学・思想の違いに関わらず、人間に共通する問題だろう。そして、よい死に方をするためには、自分が生まれてきた意味・目的を知ること、生きがいのある人生を送ること、自己の本質を知ること、死後の存在について知ることが必要になる。人生の根本問題の前半は、なかば生物学的・社会学的なものである。しかし、死の問題は違う。死の問題は、哲学的であり、宗教的な問題である。唯物論は、人生の後半の問題については、まったく役に立たない。むしろ、自己の本質について、根本的な誤解を与える。
 人間は死んで終わりなのか、死後も存在しつづけるのか。死の認識で思想は大きく二つに分かれる。死ねば終わりと考えるのは唯物論であり、死後も続くと考えるのが心霊論である。心霊論には、キリスト教のような人格的唯一神による創造説や、仏教のような縁による発生説がある。人生は一回きりという一生説と、輪廻転生を繰り返すという多生説がある。また、祖霊の祭祀を行う場合と、行わない場合がある。単に思い出、記憶として親や先祖を思うという場合もある。しかし、心霊論は、死後の存在を想定して人生を生きる点では、共通している。
 心霊論的人間観では、死は無機物に戻るのではなく、別の世界に移るための転回点であると考える。身体は自然に返る。しかし、霊魂は、死の時点で身体から離れ、死後の世界に移っていく。人生においては、この死の時に向かっての準備が重要となる。霊魂を認め、来世を想定する心霊論的な人間観に立つと、フロイトの「死の本能(タナトス)」とは違う意味での「死の本能」が想定される。来世への移行本能と言っても良いし、別の次元の生に生きる再生本能と言っても良い。
 身体から独立した霊魂を認めるという考え方は、特異なものではない。近代西欧で唯物論的人間観が有力になるまで、ほとんどの人類は、そのように考えていた。唯物論的人間観の優勢は、物質科学・西洋医学の発展やダーウィンの進化論、マルクス、ニーチェ、フロイトらの思想によるところが大きい。だが、近代西欧にあっても、カント、ショーペンハウアー、シジウイックらの哲学者、ウォーレス、クルックス、ユングらの科学者は、霊的現象に強い関心を表したり、心霊論的信条を明らかにしてきた。20世紀の代表的な知性の一人であるベルグソンは、特にテレパシーの事例に注目した。ベルグソンは「心は体からはみ出ている」として、身体と霊魂の関係を「ハンガーと洋服」の関係にたとえている。テレパシー以外にも臨死体験や体外離脱体験等には、否定しがたい多数の事例があり、それらをもとに、霊魂が身体と相対的に独立し、死後は別の仕方で存在することを主張することができる。超心理学の研究によって、超感覚的知覚(ESP)の解明が進められているが、その研究対象は、霊的存在の領域へと向かっていくだろう。
 今日の人類は、人権の目標を目指すために、心霊論的な人間観を確立する必要がある。心霊論的な人間観に立つと、社会や文明に対する見方は、現在の常識や諸科学の知見とは、大きく異なったものになる。私は、心霊論的人間観を確固としたものにするために、超心理学とトランスパーソナル学のさらなる発展に期待している。また、それらを補助とする新しい精神科学の興隆が、文明の転換、人類の精神的進化の推進力になる、と私は信じる。

●物心調和の文明、共存共栄の世界を築くために

 「発達する人間的な権利」としての人権が国際的に広く保障される世界を建設するためには、人類は二つの面で飛躍的な向上を成し遂げることが必要である。一つは経済的・技術的な向上、一つは精神的・道徳的な向上である。前者は物の面、後者は心の面である。人類は、これら物心両面にわたる飛躍的な向上を必要としている。そして物心調和の新たな文明を創造し得たとき、初めて「発達する人間的な権利」が諸社会に広く保障され、またさらに発展し続けるだろう。
 物質文化と精神文化が調和した物心調和の文明を建設しなければ、人類は自ら生み出した物質科学の産物によって、自滅しかねないところに来ている。この危機を避け、地球に共存共栄の世界を実現するには、心霊論的人間観に基づいて、人格の成長・発展による精神的・道徳的な向上を目指す必要がある。個人個人の人格的な成長・発展なくして、物心調和の文明、共存共栄の世界は建設し得ない。
 それとともに私は、この建設過程で、国家の役割は重要である、と考える。諸国家が自国の国民に国民の権利を保障し、さらに拡充していくときに、人類社会全体が物心両面において発展し、新文明の建設が進められていく。国家の役割を排除して、個人個人の努力のみによるのでは、この過程は進行し得ない。また、国際機関は直接、個人個人の人格の成長・発展を支援し得ない。人権は、国家の否定によってではなく、諸国家の調和的発展によってのみ発達し続けることができると私は考える。
 地球の人類社会は現在、貧困と不平等だけでなく、食糧・水・資源等の争奪、核の拡散、環境の破壊等により、修羅場のようになっている。各所で対立・抗争を生じている複雑で不安定な国際関係の中では、個人の権利を「人間的な権利」として実現することが、非常に困難な状態にある。国家間の平和と繁栄があってこそ個人の権利の保障・拡大ができる。国家間の平和と繁栄は、国家間の努力によってしか実現し得ない。
 国際社会を平和と繁栄の方向に進めるために、近代西欧で発達した自由・平等・デモクラシー・法の支配等の価値は、現在の世界で有効なものと言える。われわれは、各国家・各国民(ネイション)において、それぞれの文化・伝統・習慣に合った形でこれらの価値が実現され、そうした価値を実現しつつある諸国家・諸国民が、それぞれの固有の条件のもとで多種多様に発展し、協調する世界を構想すべきだろう。様々な国家・国民がお互いを尊重しながら協調し、物心調和・共存共栄の新文明が実現されてこそ、人権は大きく発達し、人類はさらに精神的・道徳的に向上する道を進むことができるだろう。

 次回は最終回。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か17

2017-01-10 09:21:43 | 国際関係
(4)中国(続き)

 先に書いたトランプの対中強硬姿勢は、中国指導部に警戒と反発を引き起こしている。特に保護主義的な経済政策は、苦境に陥っている中国経済に追い打ちをかける、との懸念が高まっている。
 トランプは「大統領就任初日に中国を『為替操作国』に認定する」と公言してきた。中国はトランプに「為替操作国」のレッテルを貼られると、米国向けなど輸出面でダメージを受ける。米国は中国を「為替操作国」に指定すれば、単独で人民元の切り上げ要求や制裁関税の措置が発動できる。輸出低迷が続く中国には、強烈な先制パンチとなる。
 さらに、中国は、「為替操作国」の指定が2001年12月のWTO加盟時から悲願だった「市場経済国の地位(MES)」を得られるかどうかに影響すると見て、強く反発している。MESとは、WTOの加盟国が中国の提示する価格をそのまま受け入れる地位を意味する。2016年12月11日に中国はWTO加盟15年を迎えたが、中国はそれによって自動的にMESが与えられると主張してきた。その地位の取得を以って輸出拡大に拍車をかけるつもりだった。中国が一旦MESを得ると、他国は高い関税を課すことが難しくなるし、制裁もできない。だが、米国・EU他数カ国は中国にMESを与えることに同意していない。日本・インドも、ただちにその地位を与えることには慎重である。中国経済は、中国共産党の強力な統制下にあり、真の意味での自由経済になっていないからである。トランプが中国を「為替操作国」に指定すれば、MESの認定は遠のく。
 次に、トランプが中国産品に一律45%の関税を課すならば、中国にとってはメガトン級の痛撃である。中国商務省の張向晨・国際貿易交渉副代表は、昨年11月23日、実施すれば世界貿易機関(WTO)への提訴を辞さないと警告した。「トランプ氏はWTO加盟国としての規則を守る義務があることを思い起こすべきだ」として中国製品への高関税を牽制し、さらに「中国にはWTO加盟国としての権利がある」と述べた。中国としては、トランプが高関税を断行しないように、必死に抵抗するだろう。
 「為替操作国」の指定、一律45%の関税以上に、中国にとって重大なのは、トランプが「一つの中国」原則に縛られない姿勢を示したことである。「一つの中国」原則とは、シナ大陸、マカオ、香港、台湾は不可分の中華民族の国家「中国」でなければならないとする中国共産党の主張である。
 米国は、1972年(昭和47年)の中国との国交正常化と同時に台湾と断交したが、その後も台湾関係法に基づく武器売却などを通じて台湾を支援し、中国による武力侵攻を牽制してきた。ただし、1979年にカーター大統領(当時)が「一つの中国」原則を認識し、異論を唱えないとする立場を取り、以後、米国の歴代大統領は台湾の総統との接触を控えてきた。ところが、トランプはこの慣習を破り、昨年12月2日、台湾の蔡英文総統と直接電話で話をした。蔡氏は昨年5月に総統に就任しており、両者は互いに祝意を述べ合った。また両者は米国と台湾の経済、政治、安全保障面での緊密な結びつきを確認したと伝えられる。
 中国は、トランプ=蔡の電話協議に衝撃を受けた。青天の霹靂だろう。中共は台湾を「核心的利益」の一つとしている。台湾統一は、国民党から武力で権力を奪った共産党政権が正統性を確立するために、必須の課題である。それゆえ、彼らにとって台湾問題は、決して弱腰を見せられない重大問題である。
 王毅外相は昨年12月3日、「『一つの中国』原則は中米関係の健全な発展の基礎だ」と述べて、トランプに反発した。これに対し、トランプは4日、ツイッターに「中国は南シナ海の真ん中に巨大な軍事施設を建設していいかと尋ねたか。私はそうは思わない」と記し、南シナ海で中国が進める軍事拠点化の動きを批判した。中国の通商政策に関しても、「米企業の競争を困難にする通貨の切り下げや、中国向けの米国製品に重い課税をしていいかと尋ねたか」と書き込んだ。また11日放送のFOXニュースのインタビューで、「貿易などで(中国と)合意できなければ、なぜ『一つの中国』に縛られる必要があるのか」「私たちは中国から大変な被害を受けている」「米国が課していない関税を中国が(米製品に)課している」などと述べた。また、蔡総統と行った電話会談について「私が電話してはいけないと、なぜ他国が言うことができるのか。中国には指図してほしくない」と不快感を示した。なお、FOXニュースは、米国で数少ない共和党寄りのメディアである。
 王毅外相は翌12日、「世界の誰であれ、どんな勢力であれ、『一つの中国』原則を壊し、中国の核心的利益を損なおうとたくらめば、最終的には自業自得となるだろう」と述べ、強く反発した。中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は12月12日付の社説で、トランプが「一つの中国」原則を放棄した場合は「どうして台湾の平和統一を武力による回復に優先させる必要があるだろうか」と、武力統一も辞さない姿勢を表した。また、トランプは「子供のように無知だ」と非難し、「一つの中国」原則は売買することができないと主張した。米中関係は、にわかに緊張を高めている。
 トランプが蔡総統と話した電話協議は当初、トランプの思いつきとか、外交知らずの軽挙などと見られた。だが、実は、事前に周到に準備されていたことがわかった。保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」創設者のエドウィン・フルナーが協議の実現に動き、元大統領候補の共和党重鎮、ボブ・ドール元上院議員もトランプ側に台湾との関係改善を半年以上にわたって働きかけていたという。米国の保守派には、彼らのように、親台湾で中国に強硬な姿勢を示す者が、1970年代以降も存在し続けている。
 トランプが米国の対中国強硬派の主張を理解したうえで、選挙期間中から「大統領就任初日に中国を『為替操作国』に認定する」「中国のハッカーや模造品に規制強化する」「中国の輸入品に45%の関税を課す」「中国の覇権主義を思いとどまらせる。米軍の規模を拡充し、南シナ海と東シナ海で米軍の存在感を高める」等々と述べてきたとすれば、本年1月20日の大統領就任後、これらの政策を実行する可能性は高い。
 トランプは、単に経済的な利益の追及のためだけで、中国に強い姿勢を示しているのでなく、軍事力を増強して、中国に対抗しようとしている。米軍の戦力を陸、海、空で増強し、最新のミサイル防衛システムを開発することが必要だとし、「米軍の大増強」に着手する考えを明らかにしている。南シナ海に中国を圧倒する海軍力を配備して断固とした交渉をすること、日・韓・東南アジア諸国と共同ミサイル防衛網の構築を行うこと、その上で中国に対して国際的な規範を逸脱する行動に断固抗議して抑制を迫ることなどを実行することが予想される。
 このことは、中国共産党政権にとって、かつてなく強力な相手が米国に出現したことを意味する。習近平政権は、トランプ新政権に対し、硬軟両面の対抗策を講じていくだろう。

 次回に続く。
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人権399~人権の起源と目標

2017-01-09 08:46:31 | 人権
●人権の起源と目標

 人権の起源は、近代西欧発の普遍的・生得的な権利という観念にあるが、人権の実態は歴史的・社会的・文化的に発達してきた権利である。生まれながらに誰もが持つ「人間の権利」ではなく、主に国民の権利として発達してきた「人間的な権利」である。「発達する人間的な権利」としての人権の目標とすべきものは、個人の自由と選好の無制約な追求ではない。個人においては人格的な成長・発展であり、国家においてはネイションの調和的発展、人類においては物心調和の文明、共存共栄の世界の実現である。ここにおいて、人間が人格的に成長・発展するための条件が、人権と称される自由と権利である。自由と権利は、それ自体が目的ではなく、人格の成長・発展のための条件である。目標とすべき物心調和とは、物質的繁栄と精神的向上の両面の調和であり、共存共栄とは、諸個人・諸国家・諸民族等の調和ある発展である。
 人権の目標である個人的・国家的・人類的な三つの目標を目指すには、人間観の転換が必要である。私は、人間とは何かという問いについて、本章の人権の内容に関する項目に見解を書いた。そこで述べたように、人間には個人性と社会性、生物性と文化性、身体性と心霊性という三つの対で示される性質がある。また、人間は、共通の根に共感の能力を持つ諸能力を発揮する人格的存在である。そうした諸能力は、人間の欲求を実現するために集団において協同的に発揮される。だが、現代で支配的な人間観では、こうした人間の全体像をとらえることができない。そこで、私が必要と考えるのが、心霊論的人間観の確立である。
 心霊論的人間観とは、人間の持つ諸性質を総合的に把握したうえで、その中の心霊性を重視し、人間を単に物質的な存在と見るのではなく、人間には物質的な側面と心霊的な側面の両面があるとする人間観である。心霊論的人間観は、近代西欧が生み出した人間を単に物質的にとらえる唯物論的人間観の欠陥を是正する。心霊論的人間観においては、個人の人格は死後も霊的存在として存続する可能性を持ち、また共感の能力は、身体的な局所性に限定されず、時空を超越し、波長の異なる領域にも及び得ると理解する。こうした人間観を確立することによって、人権の目標である個人的・国家的・人類的な目標を達成するために必要な人間観の転換を果たし得る、と私は考える。

●人間観の転換が必要

 世界人権宣言の人間観のもとになっているのは、ロック=カント的な人間観であり、それが現代の国際社会の人間観に基本的な枠組みを与えている。ロック=カント的な人間観とは、人間は、生まれながらに自由かつ平等であり、個人の意識とともに、理性に従って道徳的な実践を行う自律的な人格を持つ、という人間観である。今日支配的な人間観は、ロック=カント的な人間観を個人主義的に解釈し、社会を個人中心・個人本位に考える傾向がある。また、人間の諸性質のうち生物性と身体性を重視し、経済的・物質的な欲求の充足を目指す傾向がある。
 だが、ロック=カント的な人間観の元になったカント自身の思想は、唯物論ではない。カントは心霊論的信条を抱き、感性界・現象界と超感性界・叡智界を区別し、霊魂の不滅を要請し、人格を死後も霊的存在として存続するものと考えた。カントにおける人間は、感性的であると同時に超感性的であり、市民社会の一員であると同時に、霊的共同体の構成員である。「目的の国」は、感性界で完結するものではなく、超感性界につながっている社会である。今日支配的になっているロック=カント的人間観は、こうした心霊論的側面を排除し、唯物論的に人間をとらえる傾向にあるものである。
 今日支配的な個人主義的かつ唯物論的な傾向を持つ人間観の枠組みでは、人間を総合的に理解することができない。私は、人間の総合的理解を深めるには、マズローの理論を参考にすべきと考える。マズローの欲求段階説については、本稿で何度か述べてきたが、マズローは人間の5つの欲求の最上位に、自己実現の欲求を置く。そして自己実現こそ人生の最高の目的であり、最高の価値であるとマズローは説く。また人間が最も人間的である所以とは、自己実現を求める願望にあると説く。
 この理論は、単なる欲求とその充足の理論ではなく、人格の成長・発展に関する理論と理解することができる。人間は人格的存在であり、人格を形成し、人格的に成長・発展することを欲求として潜在的に持つ。人格の形成は親の愛情、言語・習慣・道徳等の教育による。人格の基礎が出来れば、さらに成長・発展したいという欲求が働く可能性が生まれる。自己実現の欲求は、人間に内在する人格的な欲求であり、道徳的な能力の発現である。人間には自己実現を達成する能力が潜在しており、その能力が発揮されることによって、人格の高度な成長・発展が可能となる。自己実現の欲求が働くとき、人は自己実現を目指して、自らの人格を成長・発展させようとする。この欲求は、基本的には下位の欲求が充足された後に追及されるが、人によっては、下位の欲求の充足如何に関わらず、自己実現の欲求の実現を求める。例えば、宗教的修行者、賢者等にそれが見られる。
 自己実現には、具体的な人格的目標が必要である。父母、祖父母、教育者、集団の指導者等が目標となり得る身近な存在である。また、しばしば釈迦、孔子、プラトン、イエス、ムハンマド等の精神的な指導者が目標とされる。それらの指導者への感動、敬服、憧憬等の感情を通じて人格的感化を受ける。人格的感化は、近代西欧的な理性の働きだけでなく、感性の働きによるものであり、相互間の共感の能力によるところが大きいと考えられる。
 マズローの事例研究によると、自己実現を成し遂げた人は、しばしば、さらに自己超越を求めるようになる。自己超越の欲求とは、自己を超え、自分自身を超えたものを求める欲求である。そして、他の多くの人々のために尽くしたり、より大きなものと一体になりたいと願ったりする。自己超越とは、自己が個人という枠を超えて、超個人的(トランスパーソナル)な存在に成長しようという欲求である。それは、悟り、宇宙との一体感、宇宙的な真理や永遠なるもの、社会の進化や人類の幸福などの、より高い目標である。古今東西の宗教や道徳でめざすべき精神の状態とされてきたものである。
 マズローは、自己実現の心理学から、自己超越の方向に進み、個を超える、より高次の心理学を提唱した。これがトランスパーソナル心理学である。マズローは、「トランスパーソナル」とは「個体性を超え、個人としての発達を超えて、個人よりもっと包括的な何かを目指すことを指す」と規定している。
 人間には、こうした自己実現を経て自己超越に向かう人格的な欲求が生得的に内在している。その欲求は、アニミズムやシャーマニズムと呼ばれる原初的な精神文化にもさまざまな形で表れている。人類史に現れた諸文明は、より発達した宗教をその中核に持ち、多くの宗教は、死後も人間は霊的な存在として存続することを説いている。マズロー以後、トランスパーソナル心理学は、心理学という枠組みを超え、さまざまな学問を統合するものとなり、包括的な視点に立って人間のあり方を模索する学際的な運動となっている。これをトランスパーソナル学と呼ぶ。トランスパーソナル学では、人間は霊性を持つ存在であることを認めている。繰り返しになるが、本稿で霊性は心霊性と同義である。人間に生死を超えた心霊性を認めてこそ、人間観は身体的な局所性を超えて、真に時空に開かれたものになる。死をもって消滅するものは、真の人格とは言えない。人権論の基礎に置くべき新しい人間観は、こうした霊的な存続可能性を持つ人格を中心にすえたものとならねばならない。
 人権の目標を目指すには、人間には自己実現・自己超越の欲求が内在し、また人間は霊的存続可能性を持つ人格的存在であるという人間観に転換する必要がある。

 次回に続く。
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トランプ時代の始まり~暴走か変革か16

2017-01-07 08:45:49 | 国際関係
(4)中国

 トランプが米国の政策を転換することで最も大きな影響を受ける国は、おそらく中国だろう。トランプ政権の対中国政策については、既に経済政策、外交・安全保障政策の項目で触れたが、ここであらためて中国への影響という観点から書きたい。
 まずオバマ政権の対中政策への評価から始めたい。米国は世界最大の債務国であり、外部からの資本流入に依存している。中国は、2008年に日本を抜いて最大の米国債保有国になった。リーマン・ショック後、オバマ政権は、中国に対して低姿勢を取り、中国に米国債を買い続けてもらった。そのため、中国の南シナ海への進出や北朝鮮への国連制裁無視などに対して弱腰の対に終始し、人民元のIMF特別引き出し権(SDR)入りも承諾した。中国は「中華民族」の復興を唱え、経済面ではアジア・インフラ銀行(AIIB)、「一帯一路」構想を進めているが、オバマ政権は、こうした中国を抑えることができず、中国は米国の覇権に対して挑戦的な姿勢を強めている。
 また軍事面でも、オバマ政権の再均衡(リバランス)政策は、中国の海洋進出の封じ込めに失敗した。米国は北朝鮮やイランの非核化等の課題取り組みに中国に協力を求め、その影響力増大を歓迎してきたからである。南シナ海、東シナ海では、再均衡戦略が、中国の傍若無人の振る舞いと地域の不安定化をもたらす結果になっている。
 もちろん、オバマ政権が何もしなかったわけではない。南シナ海では「航行の自由作戦」を行った。東シナ海では、尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象であることを大統領が自ら公言した。北朝鮮に対しては「斬首作戦」の米韓合同演習を行った、韓国への地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の配備を決めた。等々である。だが、結果として、オバマ政権は、中国の勢いを抑えられていない。根本的に弱腰なので、相手への威嚇に十分な効果を生んでいないのである。
 先に書いたように、2016年の大統領選挙を前に、米情報当局関係者によると、アメリカの国防総省と軍は、オバマ政権の「対中腰抜け政策」に激怒していた。また、オバマ政治を継続するヒラリー・クリントンが大統領になることを容認できなかった。クリントン夫妻は中国に極めて近いから、FBIも、国防総省と同じく、ヒラリーには「ノー」だった。FBIのジェームズ・コーミー長官は、ヒラリーの私用メール問題で、11月8日の投票日直前に議会に捜査再開の書簡を送り、10日後には「不正はなかった」との書簡を送って、ヒラリーの勢いを止めた。クリントン夫妻、彼らの取り巻き、オバマ政権が密かにシヴィル・クーデタを実行することを知ったCIAとFBIは、カウンター・クーデタを行ったという情報もある。
 オバマ政権の対中国政策に批判的な勢力は、親中的なヒラリーの大統領当選を阻止し、トランプを大統領にして、中国に強い姿勢を示そうと考えたのだろう。トランプ自身、選挙期間中、中国を強く非難する発言を繰り返した。「大統領就任初日に中国を『為替操作国』に認定する」「中国のハッカーや模造品に規制強化する」「中国の輸入品に45%の関税を課す」「中国の覇権主義を思いとどまらせる。米軍の規模を拡充し、南シナ海と東シナ海で米軍の存在感を高める」等々である。また、大統領選を通じ、トランプは中国に対するオバマ米政権の弱腰姿勢を批判し、米国に「強さと賢明さ」があれば南シナ海での動きは阻止できたと述べた。
 米情報当局関係者によると、トランプは中国との激突も辞さない強硬政策を決断し、安倍首相にも協力を求めたようだという極秘情報が流れており、各国情報機関は、これこそが「安倍=トランプ会談の核心だ」と見ているという。
 トランプは、大統領当選後も中国への強硬姿勢を続けている。TPP離脱は中国に経済的利益を与える可能性が高いが、一律45%の関税、「為替操作国」の指定等を実施すれば、中国に直接的なダメージを与えるだろう。また、大規模な軍事力の増強を実施すれば、南シナ海・東シナ海で中国の覇権主義を力で封じ込める可能性が高まるだろう。さらに、トランプは、台湾の蔡英文総統と電話協議し、米国と台湾の経済、政治、安全保障面での緊密な結びつきを確認した。これを批判する中国に対して、「一つ中国」という原則に縛られないという強い姿勢を示した。

 次回に続く。
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