陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

イスラエル戦闘機がシリアを空爆

2007-09-20 00:56:56 | 中東問題
 あちこちのブログで話題になっているイスラエル戦闘機のシリア空爆、多くはNYT、WPやFT、ガーディアンなどの記事を参考にして議論されているが、ysbeeさんはニューズウィーク誌の情報について詳細に紹介している。

 ここに来て、ようやく日本のメディアもこの問題を取り上げるようになった。だが、随分あっさりした内容だ。9月19日付け毎日新聞によると、

シリア核:「イスラエルが攻撃」の欧米報道巡り謎の緊張

 【エルサレム前田英司】シリアを巡り「不可解」な緊張が高まっている。同国が今月初め、イスラエル軍機による領空侵犯を公表したことが発端だが、その後、両国が沈黙する中で欧米メディアが「イスラエルがシリアの『核関連施設』を攻撃した」と報じ始めた。核開発で北朝鮮がシリアに協力したとの憶測も流れ、混迷する中東情勢を反映した「情報戦」の様相も呈している。

 シリアが領空侵犯を公表したのは6日。同軍機が「爆発物を投下した」としたが具体的な被害も場所も特定しなかった。

 真相が不明な中、北朝鮮が11日、イスラエルを非難する異例の声明を発表。これを機に欧米メディアのシリア・北朝鮮関係の報道が過熱した。

 12日付の米紙ニューヨーク・タイムズは米政府筋の話として、イスラエルの偵察機が最近、シリア国内の核関連とみられる施設の写真撮影に成功したと伝えた。15日付の米紙ワシントン・ポストは中東専門家の話として「シリア北部の『農業研究施設』を攻撃したとみられる」と報道。イスラエルはこれをウラン抽出施設とみており、攻撃の3日前に北朝鮮からシリアに核関連機器が輸送されていたと解説した。

 シリアは核を巡る北朝鮮との関係は否定したが、その他については言及を避け、イスラエルも沈黙している。欧米メディアの「空中戦」に、ある外交筋は「恣意(しい)的な情報リークがあると勘ぐってしまう」と話した。

 【ワシントン笠原敏彦】米国内の報道では、イスラエルのシリア「空爆」を既成事実化し、その標的が北朝鮮のシリアへの核開発協力と関係するものかどうかに焦点が当てられている。しかし、北朝鮮のシリアへのミサイル供給は知られているものの、核分野での協力関係はこれまで表面化したことがなく、証拠を欠いたまま観測報道が先行しているのが現状だ。

 18日付のニューヨーク・タイムズ紙も、北朝鮮の貨物船がシリアの港に入るのをイスラエル情報機関が追跡し、その貨物が運ばれた場所が攻撃されたと報じたものの、「積み荷の中身は不明だ」だと指摘。疑惑については、イスラエルが標的を「北朝鮮が協力する核施設だと見ている」と説明するにとどまっている。

 情報はイスラエルが収集したものが大半で、米政府もこの情報を厳しく管理。このため、北朝鮮が6カ国協議の核交渉進展をにらみ売れるものを売ろうとしている▽米強硬派が6カ国協議をつぶすため意図的なリークをしている--などと憶測を呼んでいる。

 北朝鮮が19日開催予定だった6カ国協議の延期を求めたのも憶測をエスカレートさせた。現時点でこの問題が6カ国協議にどう影響するかは未知数で、マコーマック米国務省報道官は18日、報道陣の質問に対し、一般論として「6カ国協議で拡散問題を取り上げることは可能だ」などとあいまいな姿勢に終始した。
毎日新聞 2007年9月19日 14時02分
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070919k0000e030067000c.html


 六カ国協議が開催されようとするこの微妙な時期だけに、北朝鮮はシリアとの核連携を強く否定している。

「とてつもない誤報」北朝鮮がシリアへの核協力疑惑を否定

 【ソウル=竹腰雅彦】朝鮮中央通信によると、北朝鮮の外務省報道官は18日、北朝鮮がシリアの核開発に秘密裏に協力しているとの米メディア報道について、「とてつもない誤報だ」と否定し、「6か国協議と朝米関係の前進を願わない勢力が再びでっち上げた稚拙な陰謀だ」と反発した。

 同報道官はまた、「我々は責任ある核保有国として、核移転を徹底して許さないと言明し、その通り行動している」と主張した。
 北朝鮮は6か国協議をテコに、米国のテロ支援国指定解除など、体制維持のための米朝関係改善を急いでいる。

 報道官の発言には、同様に米国からテロ支援国に指定されているシリアへの核協力疑惑が拡大し、北朝鮮ペースで進む現在の6か国協議の障害になることを阻みたい思惑があるものとみられる。
(2007年9月18日19時8分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20070918id22.htm


 どんな爆撃をしたのか、場所はどの辺かについては、毎日の記事では分からない。これらに関連し防衛評論家である太田述正氏のブログでは、コラム#2068においてかなり詳しい情報が要約された。それを読んでみると

(以下部分引用)

2 ほぼ明らかになった事実

 表向きはセメントだけ積載だが、北朝鮮の核開発用資材も積載した1,700トンの、北朝鮮旗を掲げた貨物船(1965年就役)がレバノンのトリポリ港経由で9月3日、シリアのタルトゥス(Tartous)港に入港した。
 この核関連物資は、シリア北部のユーフラテス川畔の「農業研究センター」に運ばれたが、そこではウラン抽出が行われることになっていた。
 この数ヶ月間、北朝鮮は同じようなことを繰り返し行ってきた。
 また、北朝鮮の技術者達がシリアに派遣されているが、彼らが核開発を支援している可能性がある(米国国務省核不拡散担当のセンメル副次官補職務代行)。
 米国は約6ヶ月前に上記の予兆を探知していた。
 イスラエルの諜報機関モサドも上記の予兆を探知し、オルメルト首相に今春末報告していた。
 イスラエル政府は、シリアが核開発に成功し、核弾頭を北朝鮮製のスカッドCに搭載するようなことになることは絶対避けなければならないと決意した。
 そこで、イスラエルは6日未明、マーヴェリック空対地ミサイル(AGM-Maverick)と500ポンド爆弾を搭載した F-15とF-16戦闘機からなる8機編隊を地中海上空から超音速でシリア北部に侵入させ、シリアのレーダーと防空ミサイルを回避しつつ、「農業研究センター」を爆撃し、これを完全に破壊した。
 帰投する際、この戦闘機編隊は、トルコ領内へ、切り離した予備燃料タンクを落下させた。
 イスラエルは、この編隊を掩護するため、シリア高空に電子偵察機も侵入させた。
 また、空軍コマンド・チームを爆撃の数日前に現地に潜入させ、当日、レーザー・ビームを「農業研究センター」にあてて、戦闘機編隊を誘導させた。
 イスラエル政府は本件について完全黙秘を貫いているが、米国政府筋はかなり積極的にリークしている。
 これは、北朝鮮との核交渉の成り行きに懸念を持っている米国内の勢力に対し、米国が北朝鮮をきちんと監視していることをアピールするためだと考えられる。
 他方、北朝鮮が核開発用資材をシリアに密輸出してきたのは、シリアの懇請に答えると同時に、6か国協議の過程で破棄させられることとなる資材をあらかじめ隠匿しカネに替えるため、と考えられる。
 北朝鮮外務省が11日、イスラエルによるシリア空襲について、「非常に危険な挑発であり、シリアの主権に対する侵害で地域の平和と安保に脅威となる行為だ」と異例の激しい非難を行ったことは、北朝鮮の狼狽ぶりを示していると考えられている。
 なお、シリアは国連安保理にイスラエルの領空侵犯を訴えたが、常任理事国、非常任理事国を問わず、この訴えは完全に黙殺されている。

 (以上、
http://www.chosunonline.com/article/20070917000001、
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903949.html、
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903975.html、
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903955.html、
http://www.haaretz.com/hasen/spages/903966.html、
http://www.guardian.co.uk/israel/Story/0,,2170766,00.html
(いずれも9月17日アクセス)による。

(部分引用終り)


 太田氏も指摘しているように、これらの情報は米国政府筋から流れている。陰ながらイスラエルと連携して軍事行動の支援を出来るのは、国防総省のみである。恐らく、彼らはライスーヒル組の画策する六カ国協議進展にブレーキを掛けようとしているのではないか。

 イスラエルによる空爆が事実であったとしても、それは予想される対シリア戦の北侵演習、そしてイランへの長距離爆撃演習のようなものであり、シリアは勿論イランもこの問題には知らぬ振りをするのではないだろうか。北朝鮮がシリアから核開発用資材の代金をまだ受け取っていなければ、損をするのは北朝鮮であるから彼らが非難するのは当然だ。小ブッシュ大統領は、この時期中東で更に大事を起こしたくないはずで、イスラエルからの事前通告があったとしても限定爆撃として黙認したのではと想像する。

 この問題は、中東大戦争の発端にはならぬと推測するが、恐らく中共政府は益々北朝鮮に不信感を抱くだろう。今回の事件は、2005年9月19日の第4回六カ国協議・共同声明の直後に、BDA資金凍結問題が起こり、米国国務省の方針にブレーキが掛かったことを思い出させる。

(追記:9月21日)

 やはり小ブッシュ政権は、イスラエルの空爆を了承していたようだ。シリアもイランも反撃をしないと読んでのことだろう。トルコも上空飛行を黙認したのではないか。来週から始まる六カ国協議で、米国は早く核施設を破棄しろと北朝鮮へ圧力を掛けるのだろうが、北朝鮮の大いなる反発が予想される。

ブッシュ政権、イスラエルのシリア空爆容認か…米紙報道
9月21日19時18分配信 読売新聞

 【ワシントン=五十嵐文】21日付の米紙ワシントン・ポストは、イスラエルがシリアの核関連施設を空爆したとされる問題をめぐり、ブッシュ米政権が事前にイスラエルと情報を共有していたと報じた。

 施設では、シリアが北朝鮮の支援を得て核開発を進めていたとの情報が浮上しており、事実とすれば、北朝鮮による核拡散を懸念する米政権が、北朝鮮をけん制するためシリア空爆を容認した可能性が高い。

 同紙によると、空爆は今月6日に行われ、標的はトルコ国境に近いシリア北部の施設。また、今回の空爆との関連は不明であるものの、空爆の3日前に核関連物資を搭載しているとみられる北朝鮮籍の船舶がシリアのタルトゥース港に入港したという。

最終更新:9月21日19時18分
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070921-00000211-yom-int
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3 コメント

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深まる懸念 (ysbee)
2007-09-20 13:19:31
茶絽主さん、こんにちは。
本文中での丁寧なご紹介、たいへん感謝しております。
また、非常に参考になるエントリーをありがとうございました。

米国のイラン攻撃は、昨年来何度も浮上してきた話題ですが
ブッシュもいよいよ残すところあと1年ちょっとになってきたので
多分任期中に何としてでも、最終目標のイランに侵攻する事由を作り上げるでしょう。

ただ戦争に対する世論の風当たりが非常に強いので
私の素人考えですが、まずイスラエルのシリア侵攻で口火を切って
戦局が激しくなった時点で、その支援として米軍派兵、
あるいはその前に、連合艦隊から爆撃機を飛ばせて空爆、
という計画ができあがっているように思えます。

シリアがイスラエルの挑発に乗って、何事かを起こさないことを祈るばかりです。
ではまた明日!
返信する
米国はイラン侵攻に踏み切るでしょうか (茶絽主)
2007-09-20 16:29:14
ysbee様
コメント及びTBを有難うございます。
何時も精力的なお仕事に感銘を受けております。
イスラエルは、近郊のアラブ諸国が少しでも核兵器を準備すると、それを潰そうとします。以前はイラク空爆をやりました。

アラブ民族ではないが、イランの核施設も早く潰したいとの願望があるのでしょう。今年1月に、英国の新聞がイスラエルは地中海経由ジブラルタルまで行く長距離爆撃演習をやっていると報じ、これはイラン攻撃の準備かと大いに話題になりました。結局、米国にはその気が無かったのでイスラエルを説得して止めさせたのではないか。

そうした不満がイスラエルには根強くあるから、国防総省の一部(ネオコン)が国務省のシナリオに対抗する形で今回のシリア空爆をやらせたのではと想像します。一種のガス抜き工作とも取れますね。

昨年からの米国の動きを見ると、
(1)米軍によるイラク治安の確保困難
(2)米国民自身の厭戦気分
(3)財政赤字は限界レベルにある
(4)州兵まで動員しなければならない兵力不足
(5)米国陸軍と同海軍の中にある戦略的軋轢
などがブレーキになって、イラン侵攻に踏み切れないのだろうと考えます。そしてイラン侵攻にどれだけの国が参加するか危惧している。小ブッシュ大統領は、随分臆病になりました。

イラン核に関しては、常任理事国+ドイツによる会議がなお継続中でもありますし、米国のイラン攻撃は単独では難しいのではないでしょうか。

私は、これ以上米国が新たな戦争を起こして、中東で人殺しをしない事を願っています(自国兵士の無駄死にも含めて)。

 中東大戦争が起これば、核の使用はあり得るわけで、パキスタンを巻き込む形で中東は壊滅します。米国は、ここは隠忍自重、イラン攻撃よりもイラクから撤退するのが賢明と感じています。

またご教示下さい。
返信する
イランは待つだけ (米崩壊)
2007-09-22 02:17:34
今の米にイラン爆撃なんかできる筈がない
アフガン・イラクでさえ手に負えない状態に国民に厭戦気分が広がっている
英やフランスやドイツなんかにもイラン爆撃は不可能
イランは米がイラクから撤退するのを待つだけ
じっくりと構えて核開発するだけ爆発させてしまえば
もうイランの勝ち -- イランは核保有国
もしイスラエルから爆撃があれば石油が暴騰している今、アラブに有利

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