陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

イランによるホルムズ海峡封鎖の危険性

2012-01-11 06:07:19 | 中東問題
 1月8日、イランは同国フォルドウの地下に建設したウラン濃縮施設を近く稼動させると発表。実際には、既に稼動が始まっているのだろう。それに対する欧米の反発は、益々エスカレートしつつある。米国は、昨年暮れから関係諸国にイランからの石油輸入を禁止するよう求めていた。イランは、石油輸出が出来ない状態になれば、ホルムズ海峡を封鎖すると宣告、英国はもしそうなれば、武力行為も排除しない強い姿勢に出ている。

 欧米対イランのぎりぎりのせめぎ合いは、イラン核開発を巡って進行して来た。イランは、原発用にウラン濃縮をすると言うし、欧米は同国が核兵器を製造するためだと危惧の念を深める。

 この核開発を巡る「チキン・レース」は、日本にとって迷惑な話である。米国の要請で、既に大金を投じたイラン国内のアサデガン油田開発から日本は権益大幅に縮小せざるを得なくなった(2010)。ホルムズ海峡封鎖となれば、短期的には備蓄石油の取り崩しで対応出来るものの、海峡封鎖が3ヶ月以上になれば日本経済への影響は深刻化する。

 米国が、4次に亘る国連経済制裁を主導し、なお厳しいイラン経済封鎖に動いているのは何故なのか?イランが核兵器製造をする可能性が低いことは、小ブッシュ政権末期に認めているし、IAEAもそれを確認している。ようやくイラクからの撤兵も完了したのに、ここでまた米国がイランと戦争を始めるようでは、オバマ大統領の内外評価は低下するだけだろう。

 どうも核施設問題がイラン経済封鎖の理由ではないように感じる。米国は、経済封鎖によりイラン国内の混乱を企図し、アフマディネジャド政権を失脚させるのが狙いではないか?それにより、イランが石油売買代金をドル以外の外貨で決済するのを阻止しようとしているように思われてならぬ。

 米国とイランの抗争が本格化すれば、ホルムズ海峡封鎖が実際に行われるかもしれない。その時は、ギリシャ、イタリアなど地中海諸国の経済は立ち行かなくなる。EU諸国の中でも、イラン石油の輸入禁止策に強く反対する国々があるのは、そうした事態を危惧するからだ。

 ロイター通信によると、

イラン、原油禁輸措置回避に焦り
2012.1.6 01:18

 【カイロ=大内清】欧州連合(EU)がイラン産原油禁輸で原則合意したことで、イランはEUに代わる輸出相手を探す必要に迫られる。一方でイランは最近、新たな制裁が発動されれば、中東地域の主要な原油供給ルートであるホルムズ海峡を封鎖すると繰り返し恫喝(どうかつ)し、禁輸措置回避へ焦りの色を濃くしている。

 国営イラン通信などによると、イランのホセイニ経済財務相は5日、「欧米諸国はイランとの経済戦争を計画している」と述べ、EUによるイラン産原油の禁輸合意を強く非難した。

 米欧は禁輸への協力を求めて各国への働きかけを強めており、イランが新たに大口の輸出相手国を確保するのは容易ではない。外貨収入の約8割を占めるとされる原油輸出が滞れば、すでに国連安全保障理事会による4度の制裁決議で打撃を受けている経済がさらに疲弊するのは必至だ。

 イランからの報道によれば、同国では通貨イラン・リアルが急落し、市民は外貨確保に躍起になっているという。

 一方で、イランは新たな制裁への報復としてホルムズ海峡封鎖をちらつかせるとともに、昨年末から同海峡周辺で大規模軍事演習を実施、新型の地対艦巡航ミサイルの試射にも成功したとし、核開発問題でも強気の姿勢を崩していない。

 ただ、イランとしても米欧との軍事衝突は避けたいのが本音。強硬姿勢を貫き揺さぶりかける以外、有効な手立てがない状況だ。

 モスクワからの報道によると、イランのアフマディネジャド大統領は5日、ロシアのメドベージェフ大統領と電話会談し、イラン核問題の解決に向けて協議を続けることで一致した。米欧による制裁が強化される中、良好な関係にあるロシアの支持をあらためて確認したとみられる。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120106/mds12010601190001-n1.htm


 更に、ロイター通信は海峡封鎖の可能性について、踏み込んだ内容を伝えている。

焦点:イランのホルムズ海峡封鎖、実現しても長期化せず
2012年 01月 6日 18:11 JST

 [ロンドン 5日 ロイター] 原油の主要輸送路であるホルムズ海峡封鎖をちらつかせ、西側諸国に脅しをかけるイランだが、専門家の間では、実際に封鎖に踏み切っても長期間は続かないとの見方が広がっている。

 過去数週間にわたりイラン軍幹部や政府関係者は、西側が新たな制裁措置を講じてイランの原油輸出を脅かすなら、軍事力を用いることも辞さないと強硬発言を繰り返している。

 イランは昨年末からホルムズ海峡周辺で10日間の軍事演習を実施。国営テレビでは、トラックに積まれたミサイルが公海に向けて発射される様子が映し出された。

 イランがホルムズ海峡を長期間封鎖することが可能とみる向きはほとんどない。おそらくほんの数日と考えられるが、それでも一時的に世界の原油取引量の5分の1の輸出を停止することは可能。原油価格の急騰を招き、世界経済の回復期待を大きく後退させることになる。

 ただそのような事態はすぐに米国をはじめ各国の反発を招き、イラン経済はたちまち苦境に陥ることになる。

 米海軍大学のニコラス・グボスデフ教授は「大きな痛手だが、彼らがどれだけ受け入れる用意があるかどうかにかかっている」と指摘。イランがそのような行動をとるのは最終手段で、「行動よりも脅しの公算が大きい」という。

 最近のイランの強硬発言は、各国による新たな制裁回避と、3月の選挙を控え有権者の関心を国内問題からそらすことが背景として絡んでいるとの見方が多い。

 米国ではオバマ大統領12月31日にイラン制裁策を含む法案に署名し、6カ月後に正式発効される予定。欧州連合(EU)も同様の措置を検討している。

 今回のイランの動きは、純粋に軍事的な脅しというより、経済的圧力を加え、制裁をめぐり西側の分断を図ることが目的との声もある。

 懸念されるのは、イランが追い詰められるほど想定外のリスクが高まること。イラン指導部には大きな隔たりがあるとみられており、革命防衛隊は特に強硬だ。

 専門家の間では、ホルムズ海峡封鎖には戦略的な意味はないとの声がある一方、イランが西側の反応を見誤った場合のリスクは存在すると指摘されている。

 それでもまず考えられるシナリオとされるのは、封鎖を宣言し、威嚇射撃をし、機雷原を設けたと発表することだという。

<危険な我慢比べ>

 アナリストの多くは、軍事環境からみてイランは最終的にはホルムズ海峡を封鎖せず、敵を刺激する方法を模索する一方で自国の原油輸出を維持するとみている。

 リスクコンサルタント会社のAKEの中東地域アナリスト、アラン・フレイザー氏は「イランのこの種の脅しは初めてではない。ホルムズ海峡封鎖は、可能性があり誰もが望んでいないことだけに、格好のテーマとなる」と指摘した。

 真のリスクは、米国とイランの政治家や指導者が国内を意識して行動する過程で、意図する以上の出来事がおこってしまうことだという。

 オックスフォード大学のアソシエートフェロー、Farhang Jahanpour氏は「事態がいとも簡単に手に負えなくなり、大事となる可能性がある。両国は非常に危険な我慢比べをやっている」と指摘した。

(Peter Apps記者;翻訳 中田千代子 ;編集 吉瀬邦彦)
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPTYE80504C20120106?sp=true


 米国側の対応と今後の予測をWSJが伝えている。当事国同士の読み違えが起きれば、悲惨な事態が起きるのは間違いない。1941年に、ルーズベルト米政権(民主党)が「ABCD包囲網」を形成し、米国からの石油禁輸措置を取って、大日本帝国を生きるか死ぬかの立場に追い込んだ状況が、70年を過ぎて再現される可能性がある。


米と石油業界が想定する悪夢のシナリオ―イランの海峡封鎖発言受け
2012年 1月 8日 10:35 JST

 米国の政府高官と国際石油業界が想定する悪夢のシナリオがある。それは、制裁を課した西側に反撃したいイランが自暴自棄になって、戦略上重要なホルムズ海峡を封鎖し、原油の輸出を阻止しようとすることだ。

 英米両国の政府高官はイランがホルムズ海峡を封鎖しようとした場合、軍事的行動も辞さないとの姿勢を示している。世界の原油取引量の5分の1は、ホルムズ海峡を通ってペルシャ湾から輸出されている。

 今のところ、軍事的行動の可能性は駆け引きの範囲内にとどまっている。しかし、舌戦が過熱し、分裂状態にあるとみられるイラン政権に経済的な圧力が高まるにつれ、政府高官やアナリストはイランが読み違えや行き過ぎから、紛争の引き金を引きかねないと懸念している。

 6日には、イラン政府がホルムズ海峡での軍事演習を計画していると発表、西側をさらに刺激した。イラン海軍はこの発表の数日前に、ホルムズ海峡に近いオマーン湾で軍事演習を終えたばかりだ。

 元米海兵隊員で戦争研究所(ワシントン)のアナリスト、ジョナサン・ルー氏は「今は政治的な発言が主で、海の上の現実とは開きがある」と指摘、「イランが脅し文句を実行するとしたら、驚きだ。いいことは一つもない」と話した。

 しかし、防衛アナリストやイラン専門家は、心配するだけの理由があると指摘する。アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のフレッド・ケイガン氏は、1940年代初頭に米国が日本への石油輸出を禁じた結果、日本が判断を誤って自殺行為に出たことを引き合いに出し、米国が経済的な圧力をかければ、逃げ場がないと感じているイランは捨て身の行動に出かねないと述べた。

 米国の政府高官はイランがホルムズ海峡を封鎖すると警告した意図について、原油市場を混乱させ、原油価格を高騰させるためとの見方を明らかにした。また、米国防総省が封鎖を容認しないとの姿勢を示したことについては、同盟国に安心感を与え、動揺した市場を落ち着かせるためだと述べた。

 衝突や米国による軍事行動の可能性について検討を続けてきた政府高官や専門家によると、衝突が起きる可能性が最も高いのは海上だという。イランはより強力な地域大国にふさわしい力を持つため、野心的な海軍拡張計画に乗り出した。

 イランは1980年代のイラン・イラク戦争当時と同様に、船舶や航空機を使ってホルムズ海峡を通過する石油タンカーを攻撃しようとすることもありうる。

 また、イランがホルムズ海峡を全面的に閉鎖しようとする可能性も否定できない。同海峡を完全に閉鎖する最も確実な方法は、タンカーが通過する航路に機雷を敷設することだ。しかし、専門家によると、イラン海軍の活動が国際社会の監視下に置かれていることを考えると、機雷の敷設は非常に困難だという。

 イランが機雷を敷設すれば、英米とその同盟国は機雷の撤去に乗り出さざるを得なくなる。そのためには、イランの対艦ミサイルや小型攻撃艇を破壊する必要があり、その後、掃海艇を使って海峡から機雷を除去することになる。

 専門家は、この一連の作業を行うとすれば、1カ月以上かかるとみている。
記者: Keith Johnson
http://jp.wsj.com/World/Europe/node_371664
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