陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

安倍内閣への海外評価

2007-09-17 17:53:40 | 国内政治:内閣
 安倍首相は、9月17日現在、なお慶応病院(信濃町)に入院中である。今週いっぱい入院が必要との病院側のコメントがあった。自殺未遂を図ったとか、実に奇妙な噂も流れたが、それだけ彼には政敵が多いと言うことか。

 悪口は簡単だから、「お坊ちゃん政治家が理想を振り回して、にっちもさっちも行かなくなっただけ」、「自意識過剰の周りが悪過ぎた」、「小泉ほどのしたたかさが無い」などとあちこちのブログで言われたりしている。酷いのになると、「もう出て来るな」などと罵倒する輩もいる。彼らには、惻隠の情は無いのだろう。

 私は、補佐官をつくり過ぎて各大臣・省庁官僚との関係を薄めたことや、定見の無い塩崎前官房長官を重用し過ぎたこと、靖国参拝などで決断に欠ける面があったことなどをその都度批判した。が、安倍内閣が短期間に長年課題の重要案件を処置したことを高く評価して来た。今は、安倍首相が早く体調を戻し、様々に政治的経験を積んでから再び日本のリーダー候補として活躍することを祈っている。

 海外でも、安倍首相辞任に関する論評が盛んだ。ロンドンの情報では、

「安倍首相は臆病者」英メディア酷評
09/13 22:07
 【ロンドン=木村正人】安倍晋三首相の突然の辞意表明から一夜明けた13日、英紙フィナンシャル・タイムズが1面で「武士道ではない。臆病(おくびょう)者だ」というヘッジファンド関係者の話を伝えるなど、英メディアは一様に厳しい反応を示した。その一方で、日本が派閥政治、利益誘導といった旧来の政治文化に逆戻りすることに強い懸念を示し、国際社会で堂々と振る舞える指導者の登場を求めた。
 同紙は1面、解説面など4ページにわたって「安倍辞任」の関連記事を掲載した。「もう1人の小泉純一郎前首相を求む」と題した社説では、辞任の表向きの理由は「11月1日に期限が切れるテロ対策特別措置法の延長問題」だが、安倍氏が相次ぐ自民党内の不祥事と政治的なつまずきに政権を維持する意思を失ったのは明白だと分析した。
 安倍氏の唯一の功績は小泉前首相の靖国神社参拝で悪化した中国との関係改善とする一方で、経済、社会の改革は進まなかったと振り返った。今回の辞任で、日本の政治が自民党の派閥から順繰りに首相を選ぶ「回転ドア方式」に戻る危険性に懸念を示した。
 解散・総選挙になれば新しい時代の夜明けを迎える可能性もあるが、自民党を離党した旧来の政治家に率いられる最大野党の民主党が現在よりよい政治を行う保証はないと指摘。同紙は「日本は小泉氏のようにカリスマ性と政治的手腕を兼ね備えた政治家を必要としている。しかし、悲しいことに候補者は見当たらない」と締めくくった。
 タイムズ紙も「安倍氏の後にはリンカーン米大統領(のような指導者が求められる)」という社説を掲載。日本は国際社会で発言することに臆病で、世界の外交舞台から遠ざかっていると非難されてきたが、「つまらない政治的野心にとりつかれた経済大国」という評価を修正する必要がないことを世界に印象づけたと記し、「政治の後退の合図ではなく、創造的で時代に合った指導者を選ぶ目覚めの時にすべきだ」と注文をつけた。
 ガーディアン紙も、国際社会を「大また」で歩ける指導者が必要だが、有力な後継者とされる自民党の麻生太郎幹事長は漫画好きでその資質はなさそうだと酷評した。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/84379/

 恐らく、APEC首脳会議(シドニー)で小ブッシュ大統領と会談した折、安倍首相はテロ特措法延長以外にとんでもないことを言われて衝撃を受け、体調不良を来たしたのだろうと想像する。彼の脱税問題も急に出ているようだが、こちらは少し謀略的な匂いもする。与謝野―麻生体制との軋轢などは、考え過ぎの憶測に過ぎないだろう。

 もともと安倍首相は内臓が丈夫ではないようだから、そうしたことが複合的な原因となって消化器不良が急激に進み、気弱になったのではないか。私も「敵前逃亡のようだ」との表現を使ったが、体調不良であれば致し方の無いこと、FTが言うように武士道を引用してまで批難する資格は彼らにあるまい。

 一方、米国マスコミの論調も安倍首相に厳しいものがある。ysbeeさんの<米流時評>を読むと、彼らは安倍首相辞任によってインド洋での海自展開が困難になることを危惧しているようであり、同時に小ブッシュ大統領と連携する各国首脳が結果的に退陣に追い込まれると指摘している事は興味深い。

 それらとは異なり、安倍首相を率直に評価する米国専門家の意見も見られる。同じくizaが伝えるところでは、

米国で評価高かった安倍首相 「短期間に多くの業績残す」

 ■ジョージタウン大学東アジア言語文化学部長 ケビン・ドーク教授
 【ワシントン=古森義久】日本の民主主義やナショナリズムの研究を専門とする米国ジョージタウン大学東アジア言語文化学部長のケビン・ドーク教授は14日の産経新聞とのインタビューで、安倍晋三首相の辞任表明に関連して、安倍氏が米国では日本の歴代首相のうちでも「明確なビジョン」を持った指導者としての認知度がきわめて高く、米国の対テロ闘争への堅固な協力誓約で知られていた、とする評価を述べた。
 ドーク教授はまず安倍首相の約1年に及ぶ在任の総括として「安倍氏は比較的、短い在任期間に日本の他の多くの首相よりもずっと多くの業績を残したが、その点がほとんど評価されないのは公正を欠く」と述べ、その業績として(1)教育基本法の改正(2)改憲をにらんでの国民投票法成立(3)防衛庁の省への昇格-の3点をあげた。
 同教授は米国の安倍氏への見方について「米国では安倍首相への認知が肯定、否定の両方を含めてきわめて高かった。たとえば、森喜朗氏、鈴木善幸氏ら日本の他の首相の多くとは比較にならないほど強い印象を米側に残した。慰安婦問題で当初、強く反発したこともその一因だが、日本の今後のあり方について明確なビジョンを示したダイナミックな指導者として歴史に残るだろう。安倍氏が米国の対国際テロ闘争に対し堅固な協力を誓約したことへの米国民の認識も高い」と語った。
 ドーク教授は安倍氏の閣僚任命のミスなど管理責任の失態を指摘しながらも、「戦後生まれの初の首相として日本の国民主義と呼べる新しい戦後ナショナリズムを主唱して、国民主権の重要性を強調し、対外的には国際関与を深める道を選んだ。安倍氏が『美しい国へ』という著書で日本の長期の展望を明示したことは、今後消えない軌跡となるだろう」とも述べた。
 同教授はさらに「逆説的ではあるが、安倍氏の辞任表明の時期や方法も、それ自体が業績となりうると思う。健康上の理由、政治上の理由、さらには唐突な辞任表明での責任の問題もあるだろう。だが安倍氏が国民投票法など本来、まずしたいと思ったことを達成し、さっと辞任するという動き自体が今後の政治指導者の模範例となりうる」と語った。
 同教授はまた「現在の日本での安倍氏への評価は戦後の旧来の産業社会の文化や規範を基準としており、情報社会の文化基準を適用していないために、『戦後レジームからの脱却』などがあまりよく理解されず、支持されないのだろう」と説明した。

 【プロフィル】ケビン・ドーク氏
 1982年、米国クインシー大卒、シカゴ大で日本研究により修士号と博士号を取得、ウェークフォレスト大、イリノイ大での各助教授を経て、2002年にジョージタウン大に移り、東アジア言語文化学部の教授、学部長となる。日本での留学や研究は合計4回にわたり、京大、東大、立教大、甲南大、東海大などで学び、教えた。著書は「日本ロマン派と近代性の危機」「近代日本のナショナリズムの歴史」など。
(2007/09/16 08:00)
http://www.sankei.co.jp/seiji/shusho/070916/shs070916000.htm


 この1年間で、安倍内閣は教育基本法の改正、海洋法の制定、防衛省の発足、国民投票法制定、日米豪の防衛協力体制強化、公務員法の改正など、歴代内閣がやれなかったことを実現した。それらは、将来の日本のあり方、すなわち国家コンセプトと関係する重要な意味を持っている。だが、目先のことを重視する一般大衆には理解が届かない面もあるのは事実だ。

 拉致問題に関しても、日朝二国間問題とはしないで、米国・欧州を巻き込んで人権問題にしようとしたが、米国の変節でそれは不成功に終わった。安倍首相が辞任すれば、国内でも目に見える形で拉致問題は希薄化されるだろう。

 第一次安倍内閣の不適切な閣僚も、派閥調整の中で押し付けられた側面があったと思う。それでもドーク教授の指摘するような業績を残したのだ。3年後、あるいは10年後に安倍首相は再評価されるように感じている。

(追記:9月19日)

 ドイツのマスコミには、以下のような論評がある。

独有力紙「首相就任自体が問題」と論評

 安倍晋三首相の退陣表明についてドイツの有力紙南ドイツ新聞は13日、「安倍氏の問題は自身がトップになったことにある」と指摘、危機管理能力のない安倍氏の首相就任自体が問題だったと論評した。
 同紙は、右翼的発言などを念頭に安倍氏は「極めて時代錯誤的」と指摘。「自民党は安倍氏が適役のように錯覚した」などと分析した。
 ベルリーナー・ツァイトゥング紙も「安倍政権は日本国民のニーズに応えられなかった。日本の社会、経済問題を国家主義的な用語で解決することは不可能だ」と指摘した。

[2007年9月15日15時13分]
http://www.nikkansports.com/general/f-gn-tp0-20070915-256460.html

 「危機管理能力のない」とは、何を指しているのだろうか。概して、欧州各国は安倍政権に対する見方は冷たいようだが、慰安婦問題と関係があるのかも知れない。
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