陸奥月旦抄

茶絽主が気の付いた事、世情変化への感想、自省などを述べます。
登場人物の敬称を省略させて頂きます。

オバマ大統領は変心し、シリア軍事介入の実施判断を議会に丸投げ

2013-09-05 00:42:44 | 中東問題
 8月26日に、ケリー国務長官はアサド政権が化学兵器を使用したと指摘、29日にはその「証拠」(?)を口述した。その責任を取らせるため、オバマ政権は直ちにシリアへ軍事介入することを力説、8月中にもそれを実行するような口ぶりであった。

 だが、8月31日に行われたオバマ大統領の記者会見では、軍事介入を決断したが、実施の前に米国議会の承認を求めると方針転換した。これを聞いて、大方の人々は「あれれ?」と思っただろう。米国大統領は、最高司令官として議会の承認を経ず米軍に軍事攻撃を命令する権限を持つ。だから、大統領が軍事介入を決断したなら、直ちにシリア攻撃が開始されると誰もが見ていたはずだ。

 米国議会は夏休み中である。9月9日に議会は再会される。そこで軍事介入を審議した結果、イギリス議会のようにそれが否定されたら、オバマ大統領は「はい、分かりました」と引き下がるのだろうか?8月下旬のあの勢いはすっかり萎(しぼ)み、大統領の権威は著しく低下している。

 民主党が多数を占める上院では、急遽外交委員会を開催し、オバマ政権担当者から詳しい説明を聞いた。こうした状況を保守系有力紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」が報道している。少し長いけれども全文を引用する。


米政権、シリア攻撃で議会から質問攻め
By CAROL E. LEE, JANET HOOK, JULIAN E. BARNES

【ワシントン】米政権幹部らは3日、上院外交委員会で開かれたシリア軍事介入の是非を問う公聴会でさまざまな質問に直面した。この公聴会はオバマ大統領が先月31日、攻撃には議会の承認を得ると表明して以来初めてのもの。

 ケリー国務長官は公聴会で、「米国が後退すれば、どのようなメッセージになるのか」と問い、「そのメッセージはアサド・シリア大統領には罰が下されない、というものになる」と述べた。長官はまた、オバマ大統領は「米国に戦争をするように求めているのではなく」、シリアの化学兵器使用能力を低めることを狙っているのだと説明した。

 ケリー長官ら政権幹部の証言は、オバマ政権に明白な推進力を与えた。これは、ベイナー下院議長(共和)やペロシ民主党下院院内総務ら主な議会指導者が3日朝、オバマ大統領と会談した際にアサド政権に対する軍事介入を支持した後に続く格好となった。しかし、全ての議員が介入を支持しているわけではなく、議会承認を得ようとする大統領の決定は大きな賭けとなっている。リシュ議員(共和)は「今のところ介入には消極的だ。これは介入がどのように発展していくのかというところから来ている」と述べた。

 ヘーゲル国防長官も公聴会で、シリアに対する軍事介入の決定を擁護。同国の化学兵器使用は、同国周辺の米国の同盟国にとって脅威であり、他の敵に追随させるものだと指摘した。

 リシュ議員は、アサド政権が最初の攻撃に持ちこたえた場合、同政権は図に乗り、一方で米国の信頼性は低下するのではないかと懸念していると述べた。同議員はまた、シリア側から報復があったらどうなるのかと問いただした。

 これについて、ケリー長官は「われわれが何もしない場合に何が起きるのかという、より大きな現実を直視してもらいたい」と言い、「彼らがしていることが悪いことだと考えるなら、米国は何もしないとの彼らの疑念が晴れた場合に何が起きるのか考えてほしい」と述べた。

 民主党のリード院内総務に近い筋によると、リード氏は、反対者が承認決議を阻止しようと議事進行妨害に出たとしても、介入を支持する十分な数の議員がいると思うと述べた。

 ただ、一部の上院議員は態度の留保を明らかにしており、このことは迅速な上院通過に逆風が吹くことをうかがわせている。

 ユーダル議員(民主)は「政府がわれわれに要請していることに私は大いに懸念を抱いている」と言い、「あるメッセージを送るために爆撃せよと言われているが、それはどんなメッセージなのか。われわれは国際社会に対して、米国は世界の警察官になるのだと伝えるのか。あなたは法律違反をした。だから、米国は介入するのだ、と」と話した。

 フレーク議員(共和)は、議会がノーと言い、攻撃を認めない場合はどうなるのか」と、多くの議員が心に抱いている疑問を述べた。同議員は「大統領はどうするのか」と質問した。

 これについて、ケリー長官は、大統領から聞いていないので分からないと答えた。同長官は、議会の拒否は「大きな敗北」ではあるが、大統領には当初の議会承認がなくても攻撃命令を下す権限があると指摘した。

 大統領にとってより大きな問題は下院にある。下院では反戦のリベラル派と非介入派の共和党議員の連合がこれまでも大統領に挑戦しており、直近の例ではエジプト問題、そして、2年前のリビアへの介入時にも見られた。

 上院外交委員会の共和党の筆頭委員であるコーカー議員は「委員会のメンバーたちが抱えている問題の1つは、われわれが政策を立案し、あなたたちが実行することだ。この政策実行過程はとてもとても重要だ」と説明し、軍事介入を支持したいと付け加えた。また、「政策実行が実際に何を意味するか、それが米国にどのように影響するかについてまちまちのシグナルがあるようだ」と語った。

 討議に影を投げかけているのは、10年前にイラク戦争が始まる前の情報収集が失敗だったという記憶だ。ケリー長官は、シリアで化学兵器が使われた証拠はこれとは別物だと強調。「それは実際に起こり、それはアサド政権がしたことだ」と言い、「米国の情報機関はこの証拠を何度も何度も洗い直した」と述べた。また、米国のさまざまな情報機関の間に見解の相違はないと指摘した。

 メネンデス外交委員長は公聴会の開始に当たり、「人間に対するこの恐ろしい犯罪を前にした大統領の軍事介入決定を支持する」と述べ、「行動にはリスクがあるが、行動を起こさない結果はより大きく、より深刻なものになる」と話した。同委員長は、限定的軍事行動を認める決議案を3日中にまとめ、4日にも委員会で採決する方針を示した。

http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887323748004579054053918214342.html


 多くの議員は賛否の態度を決めていないと伝えられる。中には、「大統領は議会に実行責任を負わせる気か」と疑問を持つ議員もいるはずだ。議会が地上軍派遣を否定し、また3ヶ月と作戦期間を限定したりすれば、担当する米軍の士気低下につながる。何れにしても、来週には結論が出るのだろう。

 ノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領が、英独、NATOの協力を得られず、米国単独でシリアへ軍事侵攻を命令すれば、国際世論は不安を感じるであろう。仮にアサド政権がそれによって崩壊したとしても、その後に樹立されるシリア新政府はシーア派が実権を握り、アル・カイーダが堂々と新政権の一部を形成する公算がある。

 まずは、連合国(UN)化学兵器調査団による実態報告発表を待ち、それを踏まえた安保理審議を重ねるべきではないか。プーチン露大統領も、シリア政府が自国民に毒ガスを使用したことが証明されれば、懲罰的軍事攻撃に関するUN決議を支持すると述べている。

 私は、米国によるシリア軍事制裁に反対である。欧米諸国が限定的でもシリア攻撃を行えば、イランとロシアが本格的なシリア支援に乗り出し、軍事介入は長期化する。一方、レバノンに蟠踞(ばんきょ)する武装勢力「ヒズボラ」(シーア派)は、同期する形でイスラエル攻撃を開始するだろう。イスラエルは、「ヒズボラ」の背後にいるイランを戦闘爆撃機や中距離ミサイルで直接攻撃する可能性が大きい。

 そうなれば、イランはホルムズ海峡封鎖を行い、米国及び同盟国(トルコ、サウジアラビア)と本格的な戦争状態に突入するだろう。<中東大紛争>の勃発である。こうして原油価格は高騰し、我が国は原発が停止しているから、エネルギー危機に襲われる。米・露は、石油資源を持っているから、経済的には余り困らないのである。
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