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月の港





今日、月の港を発ち、600キロ北上してパリへ。

ボルドーの雅名「月の港」Port de la Luneというのは、ガロンヌ川の三日月型に歪曲した部分にできたからだ。
句のようで、一気に世界を広げますね...

ボルドー市内にローマ時代の円形劇場が残っているように、こちらは古代から要所であったが、その繁栄のピークは、独立したばかりのアメリカとの貿易にあったそうである。
フランス革命・ナポレオン戦争の時代に中立政策をとったことで海運業が発展したアメリカのパートナーとして潤ったのだ。

ボルドーに来るのは20年以上ぶりだった。
スプロール現象で乱れた街を、2000年を境に旧市街の再開発がされたそうで、雰囲気は良い方にかなり変わっていた。
まるでパリの素敵な街角だけをより小さい地域に凝縮したような、とても美しく住み心地がよさそうな街に。

実際、大学生の街として学生7万人(欧州最大)が住み、すなわちアカデミックな雰囲気がある。

また先週のウィーンや、今日からのパリよりは断然物価が安い。

そして食べ物がおいしく(海沿いで、ワインの名産地、しかもスペインのグルメの雄バスク地方が近いというすばらしい要素が揃っている!)、わたしは今まで食べたどんな牡蠣よりも美味しい牡蠣をここで毎日1ダース食べ続けた。
ボルドーはもともと牡蠣の産地だが、海洋汚染で2度絶滅し、今の種は日本から持って来た牡蠣なんですってよ! そりゃおいしくないわけないですよね...
一方で、各地の一番美味しいものがパリの市場に出る、というのは常識なので、パリでも牡蠣を食べるつもり...


とにかく、ボルドーはほんとうに気持ちのいい人ばかりで、出会う人出会う人にものすごく世話を焼いてもらった。特に若い人!


有名な美術館などはないし、壮麗なオペラハウス(写真上)もロンドンのように常に出し物があるわけではないが、12世紀にこの地を領有した女公アリエノール・ダキテーヌ(Aliénor d'Aquitaine)(リチャード獅子心王の母)がプランタジネット朝のイギリス王ヘンリー2世と再婚したため、この地は300年間「イギリス」だった。そんな歴史も楽しい。


ボルドー、心からおすすめです!

と、熱く語っているうちにパリに着きました...
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saint-emilion





ボルドーから車で東へ50分弱の地点にあるサン=テミリオン村。

ワインに興味のない方でもボルドーワインの産地のひとつ、サン=テミリオンの名前はご存じだろう。

「ボルドー近郊のワイン産地のひとつで、歴史地区は周辺の7つのコミューンの景観とともに、「サン=テミリオン地域」の名でユネスコの世界遺産に登録されている」(ウィキペディアより)


人口2000人ほどの小さなサン=テミリオン村は、小高くなって周囲を葡萄畑に囲まれ、淡いはちみつ色をしたロマンティックでかわいらしい村だ。
その名の由来になった隠者・聖エミリオンの伝説も、石灰岩をくり抜いて作った教会も神秘的でいい。
(この教会はツアーのみで入ることができる。ツーリスト・インフォメーションで要予約。フランス語のツアーしかないが、日本語や英語の訳をもらえるので必見です)

ここを観光客が年間50万人訪れると聞いた。
もちろん、ワインを求めて。


今はまだシーズンオフで、葡萄の木はどれも高さが30センチほどで葉も出ていない。
村内のホテルや商店も閉まっているところが少なくない。

しかしこの面積の中のワインショップとレストランの多さには驚かされる。
しかもレストランの質の高さ! わたしが宿泊したホテルにはミシュラン2つ星のレストランがあり、すばらしかった。そしてホテル内、ほかのお客さんほとんどなし...こういうシチエーションが好きだ。

まるでワイン関係の店だけが入った超高級ショッピングモール(ドバイにあるみたいな)が村の形状をしているかのようだ。
ブルージュにチョコレート専門店が多いよりも、ラスベガスにカジノが多いよりも、密度的にはもっと多いかも。


この村、かわいらしくてメルヘンな雰囲気を装っているが、うなるほどのお金が隠されているのだということがすぐに見て取れる。この村と周辺葡萄畑の地下200エーカー(東京ドーム17個分ですって)に広がる採石場のように。
採掘された石はボルドーなどを建設するのに使われたそう。採掘後の空間は自動的に最適なワインセラーに...


......


モエの旅行記にしては役立つ情報を最後にひとつ。

ボルドーから電車を利用してサン=テミリオンを訪問する場合、現在(2019年9月まで)リブルヌ(Libourne)から先が鉄道工事中につき、ボルドーからリブルヌまで電車利用、リボルノからサン=テミリオン間がバス代替サービスになっています。チケットの購入方法や料金は通常通り。
通常はボルドーから電車で30分ほどで行けるものの、バス乗り換えのために計1時間弱くらいかかるとか。
バス乗り換えリブルヌの駅はとても小さく(サン=テミリオンはさらに小さく無人駅)、バスにも張り紙があるため、乗り換えを見誤ることはなさそうです。
サン=テミリオン駅から村中心までは徒歩で20分ほど。
それでも行く価値はあります!

わたしは車で行き、葡萄畑が延々と広がる光景を想像していたのだが、道は市街地を通り抜ける、と行った感だった。あちこちに「シャトー」あり。

サン=テミリオンから車では10分ほどのポムロール(Pomerol)にも行けばよかったと後悔...試飲をしないのなら(わたしは数年前から断酒中なのです!)見るところはないかも、と...次回必ず。
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水の鏡





フランス南西部、ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏 ボルドー

「水の鏡」"Miroir d'eau"

ガロンヌ川に正面を向けて建つ、
華麗なブルス広場 道路を隔てて設けられた数センチの「プール」に
(水の深さはわずか数センチ、広さはなんと3450平方メートル)

ブルス宮殿がその姿を写す仕掛けだ

しかし凍結防止のため春まで水は張られておらず
ホテルのコンシェルジェも残念だと言いながら地図に印を入れてくれた...


水が張られて鏡になった状態*を想像しながら広場を見ていたら、

灰色の雲が立ち、にわか雨がざっと降ってまた晴れた

その結果が上の写真

すごくないですか?


*神戸市には「御影(みかげ)」という地名がある
神功皇后が澤の井という泉にその姿を映して化粧したという伝説に由来しているとか
その話を思い出しながらこの「水の鏡」を眺めていた
神功パワー?
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ウィーンの夜会





今日はこれからフランスへ。
搭乗までに書けるところまで...ウィーン学友協会でのデニス・マツーエフ(Denis Matsuev)のピアノリサイタルの話など!


ウィーン楽友協会では何度も演奏を聞いたことがあるが、今回の席の関係だったのだろうか、改めてこの音楽堂の音響のよさには度肝を抜かれた。

アムステルダムのコンツエルトヘボウの舞台を、修繕のために開けたらば、中から大量のガラスの破片が出てきたという。
それを前時代的な偽科学装置だと取り除くと、音響がすっかり変わってしまい、あわてて元に戻した...

という有名な話がある。

ウィーン楽友協会にもなんらかの仕掛けがあるに違いない。この五臓六腑がズンズンいうような音は、周りの空気を振動させて伝わってくるのだと実感。

マツーエフのピアノ! リスト『ピアノ協奏曲第2番 』。
わたしは今までこのリストの曲を繰り返しCDで聞いたが、それらが時々「リストうるさい!」となるのとは全く違っていた...

まるでフォースを得るために暗黒面に落ちたかのようなリストのこの曲を、暗黒面自身が自らノンシャラン(死語)と自演するような(相当褒めてます)、ものすごく太く豊かでしかも悲しくなるほど美しい演奏だった。

パワーだけがピアノを美しくするのでは決してない。しかし、こういう太い音をいとも簡単に出すピアニストが弾いてこその曲(ラフマニノフとか)というのは確実にあるのだと認めざるを得ない。

第二楽章のバイオリンとの掛け合いの美しさといったら! 暗黒面と思っていたらば、いや、ここは天国じゃないか。


Wiener Symphoniker
Alain Altinoglu, Dirigent
Denis Matsuev, Klavier
Nora Gubisch, Mezzosopran

Franz Liszt
Von der Wiege bis zum Grabe. Symphonische Dichtung nach einer Zeichnung von Michael Zichy
Konzert für Klavier und Orchester Nr. 2 A-Dur

Sergej Prokofjew
Alexander Newskij. Kantate für Mezzosopran, Chor und Orchester, op. 78





ウィーン国立バレエ「白鳥の湖」、ジーグフリード王子役がなんとなんと英国ロイヤルバレエのVadim Muntagirov!
こちらのゲスト・プリンシパルだそうで、全然知らなかった。

先月はロンドンで彼が貧乏な床屋バジリオ(『ドン・キホーテ』)を踊るのを見て、今が彼のダンサーとしてのひとつのピークに違いないと確信させられたばかりだ。

どこをとっても繊細優美で、しかもおおらかで大胆。バレエの「王子様」そのもの。文句なしに美しい。

彼のことはずっと、特に彼でなければというほどでもと思っていたが、大きな間違いだった。いつの間にか余人をもって代えがたいほどの個性と品格を備えたアーティストになっていた。

これではわたしはまるでモンタギロフ追っかけのようだが違います(笑)。

でも、「ウィーンの道でばったり会ったらなんと言って声をかけよう...ミスター・モンタギロフ、あなたの公演はいつもはロンドンで毎回見ています...あなたは神々しいです...とか?」などと思っていました(笑)。
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小雨降るベルヴェデーレ





クリムトの描く世紀末ウィーンの女は
何かの絶頂にあるものに忍び寄る必滅の予感が克明に描かれていて
どれもとても魅力的だった
(ベルヴェデーレはクリムト作品を最も多く収蔵する)


クリムトの最も有名な作品と言っても過言ではない《接吻》は
西洋絵画が執拗に追及してきた「3次元を2次元の上に復元する」意思を破棄して画期的な作品になったが

絵の中にただひとつある女性の立体的な顔が
意匠の中に溶けて消えて、いずれは意匠のひとつになってしまいそうな
「時間」が画面上にあることがクリムトの特徴のひとつではないかと
シロウトは思った


そういうわけでベルヴェデーレ上宮の写真もフィルム・ノワール風に加工してみた

左右対称の最も静的な建築が、次のシーンがあるかのように、動きと動きの間の一コマに見えたら

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