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その名は龍神




龍神に呼ばれて、三重県との県境にある奈良の室生寺へ。

ここからの道は伊勢神宮に一直線に続くという。神聖さ二重、三重の場所である。


上の写真のまことに優美な五重塔の相輪(一番上の避雷針のような形状のもの)は、室生寺にあっては、通常の水煙の代わりに「傘蓋」なのだそうだ。

なぜか。

ここは龍神、すなわち水の神の住処だから!


本堂。左に五重塔が見える。
名高いしゃくなげも残っている。



室生寺は典型的な山岳寺院である。火山性の地形で、周辺には奇岩や洞穴が多い。

洞穴は、龍神のすみかであり、祈雨や止雨の霊験あらたかな地として古くから信仰されていた。

寺そのものは奈良時代末期に興福寺の僧・賢璟によって開かれたが、仏教が入ってくる、ずっとずーーっと前から聖地だったのだ。

農耕民族にとって、水は最も重要なものの一つである。
水のあるなしによって収獲が、生活そのものが左右されるため、水の神すなわち龍神は畏敬の対象だった。

日本は水が豊かな国ではある。年間平均降雨量は世界平均の約1.6倍。 一方で日本の河川は急勾配で、短時間で海に流れ出てしまう問題があるのだとか。




仏教勢力は、仏教と日本古来の民俗信仰・自然信仰・祖霊信仰を利用して「習合」(宗教的シンクレティズム)させ、権力(ここでは水の利権)を掌握したのだろう。

のちには桓武天皇(8世紀)周辺に利用され、「天皇を守る」寺となった。

仏像は本堂の如意輪観音菩薩も釈迦如来立像(本来は薬師如来)も、大変お美しい。




・・・・・・

実はこの日は室生寺を参拝する予定などなかったのだ。
この辺りは関西からでも交通が不便でなかなか行きにくい。




友人の誘いで安倍文殊院(安倍晴明生誕の地)の優美な木造騎獅文殊菩薩(快慶作 13世紀。写真上)を拝観に出かけたのだった。

獅子の背に乗る文殊菩薩は7メートルもあり、これまで拝観した仏像の中で最も美しく、バランスが絶妙で、お堂内で向かい合っていると時間の経つのを忘れるほどであった(撮影禁止のため写真は入場時のちらしのもの)。


その後、予定では、わたしの希望で大神神社(と、門前の三輪そうめん)から山辺の道を辿るはずだったが、貸切にしたタクシーの運転手さんが「長谷寺か室生寺に行きはったら」と言ったのを捉え、もしもここから行きやすいなら、どうしても室生寺へ行きたい、と、突然わたしは何かの約束を思い出したように言った。

神社仏閣や仏像に非常に詳しい友人は、他に「何年も前からずっと行きたい先がたぶんこの辺に」あったにもかかわらず、「ちゃんと調べてこなかったし、せっかくの一時帰国だしね」と快諾してくれた。




タクシーで1時間強。

橋を渡って室生寺の境内に入る。
入り口でボランティア・ガイドの浦田さん(この方がすばらしいガイドさんだった! 打てば響くような快活な方で、またお願いしたい)をお願いし、龍神の流麗な依代(上写真右手の杉の木に下がった縄。まさに龍の形だ)を見た時、サラサラっと雨が降って止んだ。

「これは龍神のごあいさつです」と側にいた人に言われた。龍神、粋な方だ。


龍神の依代、龍神のあいさつ...
ここで友人が「何年も前からずっと行きたい先」についてガイドさんに尋ねた。

そうしたらガイドさん「ここから車で5分ほど先ですよ」とおっしゃる。
友人T、感動に震える。




それが龍が住むという龍穴だった。

手前には龍穴と、流るる水そのものをご神体にした龍穴神社も。
神さびるとはこのことか。




水の沸くところ、火の吹くところ、巨石があり、大木があり、海が鳴るところ、豊かな山、神秘的な動物...地球のパワーが感じられるところは俗に言う「パワースポット」だ。




現代のわたしたちが訪れても人知を超えたパワーを感じずにはいられないのだから、古代の人にとっては神の御業に他ならなかったろう。



この後、夕暮れの大神神社へ。

『ご祭神の大物主大神(おおものぬしのおおかみ)がお山に鎮まるために、古来本殿は設けずに拝殿の奥にある三ツ鳥居を通し三輪山を拝するという原初の神祀りの様を伝える我が国最古の神社です。』とある。

大己貴神の和魂である大物主神は蛇神であると考えられ、水神または雷神としての性格を合わせ持っている。




三輪山登拝は新型コロナ以来再開されていないが、巳の神杉をお参りし、薬井戸のご神水をいただいた。




流しそうめん、生まれて初めていただいた。
プラスティックの卓上装置で「大丈夫なの?」と思ったものの、なんと、冷たく美味しい水のなかでそうめんを回すことによって、麺がしまり、ほぐれてよりおいしくなるのだそう。そうめんを流すのはエンターテイメントだと思っていたが、違うのね...タクシーの運転手さんおすすめの乾そうめん、びっくりするくらいおいしかったです!

奈良名物の柿の葉寿司もいただき、夜遅くなって神戸まで戻り、まだ営業中のお店に適当に入ったら鰻料理だった。

鰻...これも水の神?? 形状が...
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