図書館戦争 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2006-02 |
ゼロ年代のエンターテイメントの最高傑作。あえてそこまで言い切っていい。少なくとも私が接した中でこれを越える2000年以降の作品はない。
アニメは半分ほど見ているので、本書の7~8割の内容は既知のものだった。それが評価にどう影響しているかは未知数だが、アニメとか関係なく本書を高く評価している。
有川浩を読むのはこれが初めてで、この一冊だけで評価し切れるのかどうか分からないが、ゼロ年代最高の作家であると感じられた。
手放しの褒めようだが、それに見合う作品だから仕方がない。
三人称だが節によって視点が変わる。過度の内面描写に陥ることなく、それでいて必要な内面描写をきっちりと押さえ、非常に効果的に使われている。
キャラクターの成長と人間関係が話の軸だが、他のライトノベルなどとの大きな違いは、キャラクターたちが大人であるという点だ。それは年齢的なものではなく精神的な面で。
主人公の笠原郁は猪突猛進の典型的なキャラクターではあり、子供っぽい面を随所に見せるが、それでも大人としての弁えがある。頭の良し悪しや単純さとは無関係に、自覚や責任感をキチンと持っている。
ガキの無分別が物語の展開を生むスタイルの多いライトノベルに対して、本書では背景(特に政治的背景)を描写することで物語を展開させている。これではストーリーによるカタルシスを作りにくいが、キャラクターの葛藤にリアリティを付与できる。それがキャラクターの厚みとなり、質の高いキャラクター間のやりとりを生むことができる。
本書はライトノベルと呼ぶよりも、一時代前のエンターテイメント小説の最良の後継者と呼ぶべきだろう。設定には甘さがあり厳密にはSFと言えないが、SFっぽいエンターテイメントが謳歌した頃の匂いも感じられる。『星へ行く船』シリーズ、『ぼくの地球を守って』など作風は異なるが似た匂いがする。
有川浩の他の著作もどんどんと読んでいきたいところだが、図書館ではどの作品にも予約がいっぱいついていてすぐに読めないのが難だ。