![]() | とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) 価格:¥ 660(税込) 発売日:2008-02-20 |
『2009年度版このライトノベルがすごい!』10位。シリーズもの主体の中で、単発作品で上位にランキングされるのは珍しい。
異世界ファンタジーだが、科学はそれなりに発達し戦闘機が飛び交う世界である。敵対する二つの大国。その両国の混血であり、所属する国の中で身分的に最底辺に位置する主人公。混血であるがゆえに、腕は一流だが軍ではなく傭兵のパイロットである。彼に与えられた大役は、次期皇妃を入植地から本国へ送ること。
新型戦闘機の性能の差がそれまでの国力の差を覆し、戦況は大きく変わろうとしていた。制空権は敵に渡り、この作戦も既に敵に知れらていた。危険の中、主人公と次期皇妃の過ごす短い、忘れがたい日々。
ライトノベルレーベル、ライトノベル作家の手によるものではあるが、ライトノベルというよりもSFの空気が強い。ハードSFではなく、日本のファンタジー色の強いSFだけれど。
設定が特に優れているとは思わない。それなりに考えられてはいるが、独創的なものではない。身分違いの恋というストーリーはそれこそ数多く作られた物語だ。空戦部分は悪くないが、それだけを売りにするほどでもない。キャラクターもありがちだと言っていいだろう。
それでも物語として十分に楽しめる出来である。ライトノベルとしては評価されないかもしれないが、その世界で生きる人の思いが描けているからだ。
安直さが目立つところも少なくはない。特に作戦が敵に知られている可能性が高いと判断した時点で引き返さなかったことは、明らかに物語の展開のためであって合理性は全く無い。
会話ももう少し面白みが欲しかったし、ストーリーにももう少しひねりが欲しかった。ラストの描写は悪くはないがもう少し上手さが欲しかった。終章は蛇足だろう。
これら欠点をいくら並べても作品の評価は落ちない。主人公の飛空士シャルルと次期皇妃ファナ、二人の想いがちゃんと伝わるから。作者が描こうとしたものが読み手にきちんと伝わるならば十分だ。もちろん他の欠点が無くなれば、更なる傑作足りえたかもしれないが。その意味では、「佳作」と呼ぶに相応しい作品だろう。