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感想:『火車』

2009年10月18日 20時56分50秒 | 宮部みゆき
火車 (新潮文庫)火車 (新潮文庫)
価格:¥ 900(税込)
発売日:1998-01


600ページ近い厚さから手を出しにくく感じていたが、読み始めた途端作品内へ引きずり込まれた。文字通り、時を忘れて読みふけるほど。謎やヒントの提示、解決への道筋など見せ方はもちろんタイミングも最適で、ここまで計算され尽くした小説は、少なくとも今年の夏以降に読んだ150冊余りの中では随一だ。

宮部みゆき2冊目。『蒲生邸事件』は評判の割に楽しめなかった。『火車』は別冊宝島『もっとすごい!! このミステリーがすごい!』で1988~2008年の国内総合1位に挙げられているといい、期待を込めて手に取った一冊だった。
1992年に発表された作品で、カード社会、自己破産といったテーマは現在でも決して色褪せていない。ただ、古さは否めない。時代性が色濃い作品とまでは言わないが、時代の雰囲気が強く感じられる作品なのは間違いないだろう。

思わず一気に読み切った作品だが、やはり問題は結末にある。当然、この結末は著者の計算通りである。著者の狙いが分かるだけに、この結末に対する想いがやるせなく感じられる。この結末について気持ちを述べれば述べるほど著者の術中に嵌っていることに気付かされる。
著者の思い通りだと分かっていても不満は残る。1993年版のこのミスで2位だった作品が、その後の歴代ベストテンの発表で必ず上位に位置し、先述したように1位の座を射止めたのはこの結末ゆえだろう。

正直、読んだ直後の感想は、1位という評価に見合うとは思えないというものだった。ミステリとしての面白さが十分に楽しめるとは思わない。恐ろしいほどの完成度の高さは感じても、それ以外に突出した何かを見出せない。
だが、語ろうとすればするほど、この作品が大きく感じられてくる。好きな作品とは言わない。手放しに面白いとも言わない。しかし、凄いという言葉だけは肯定する。そんな作品だ。