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感想:『シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代』

2009年11月01日 20時40分15秒 | 本と雑誌
シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2009-04-24


『ウェブ進化論』で知られる梅田望夫による将棋タイトル戦観戦記、及び将棋界、インターネット、日本社会について述べた著。
7月1日に図書館に予約して届くまで3ヶ月掛かった。予約する前、本書第2章に収録されている棋聖戦の観戦記をネットで読んだ。それを読んだからこそ借りて読みたくなった本。

著者は自身を「指さない将棋ファン」だと言う。将棋ファンは一般に普段将棋を指して楽しむ人のことを指す。そのため優れた将棋ファンとは高い棋力を持ったファンだと見なす空気がある。一方、棋士のファンやタイトル戦だけに関心を示すミーハー的な「観て楽しむ将棋ファン」は軽んじられる空気があった。
しかし、著者が述べるように、スポーツや演劇、音楽など様々な分野で、実際にそれを行うファンよりも鑑賞して楽しむファンが多かったりする。そうしたファンが底辺を支えていると言ってもいい。将棋もまた、強くなるための時間を割けるファンばかりではないし、そもそももっと間口を広げていいはずだ。

実は私も著者と全く同じ「指さない将棋ファン」である。子供の頃は友達と将棋を指したりしていたが、やがて実戦から遠ざかった。私の場合、スポーツ観戦の延長線上として将棋を観戦した。NHK-BSで放送される名人戦や竜王戦の中継を楽しみにしていた。
著者の将棋ファンに対するこの意見には全面的に賛成である。著者以上に棋力が低いと思われる私にとって、それでも将棋ファンと名乗れるのならそれはそれで楽しいことだ。まあ著者ほど熱心にタイトル戦を注視しているわけではないのだけれど。

熱心ではないが、昔から付かず離れずで将棋界を見てきたので、棋士の凄さについては相応の認識をしているつもりだ。特に、羽生善治が現代日本において突出した人物であることに何の疑いも持っていない。
本書でも羽生の凄さを丁寧に描いている。単なる強さではなく、何を求め、何を目指しているのかまで。単なるファンのレベルに留まらぬ卓見がそこにはある。
将棋や将棋界に詳しくなくとも、本書を読むことで得られるものはあるだろう。著者の書いたものを読むのは恐らく初めてなのだが、優れた書き手であることは非常によく伝わってくる。

羽生以外にも、佐藤康光、深浦康市、渡辺明と現代将棋界を代表する棋士たちの話が魅力的に語られる。2008年の将棋界の動向などと合わせて、彼らの戦いと著者の分析はとても興味深い。
「観て楽しむ将棋ファン」になるためには、見せる側の工夫が必要だ。それとともに、見る側にも観戦術が必要となる。それは見る側のレベルに応じて異なる。好きに観ればいいというだけでは、なかなか面白さは伝わらない。押さえるべきポイントやコツが要る。それらを丁寧に導く存在として著者の観戦記はうってつけだと言えるだろう。
将棋を「観る」面白さを広めて欲しい。それは私にとっても幸いなことだから。


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