環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

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海図なき21世紀のグローバル市場経済の荒波に「スウェーデン・モデル」は有効か 持続可能な社会へむけて

2012-04-06 14:40:55 | 持続可能な開発・社会/バックキャスト
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 今年2月1日にノルディック出版社からレグランド塚口淑子編「スウェーデン・モデル」有効か 持続可能な社会へむけてというタイトルの本が出版されました。

 私のこのブログでも、これまでに「スウェーデンの経済パフォーマンスが好調であること」を書いてきましたが、この本の「第2章 スウェーデンの経済と経済政策―経済・福祉・環境の共生」のはじめにで、経済学者の丸尾直美さんは次のように述べておられます。
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はじめに
スウェーデンをはじめとする北欧諸国は、福祉と環境を重視し公的資金をこれらの分野に多く割くという意味では「大きな政府」の小さな国である。それでいて、「小さな政府」の大きな国のアメリカに並ぶ、あるいはそれ以上の成果を経済面でも挙げている。福祉と環境面では、スウェーデンをはじめとする北欧諸国のほうがはるかに成績が良い。
 こうした事実を説明する一つの解釈は、アメリカ型と北欧型の二つの経済成長方式があるとの論である。それは規制緩和と企業活動の自由化で、利潤と投資を増やして企業を中心に経済成長し、その成果のおこぼれ(trickle down)で国民が豊かになるというアメリカ型経済成長と、福祉・分配・環境主導の北欧型成長方式である。
                          ―中略―

 スウェーデンのよい政策を日本で紹介しても、小さい国だからできたが、日本のような大国では無理だといわれたものである。しかし、スウェーデンで成功した政策が10~20年遅れで日本でも導入されることが多い。スウェーデンは小さい国だからこそよく見えるので、合理的な政策がとれるのである。スウェーデンはいわば「社会科学の実験工場」だと自覚してスウェーデンの良き政策から日本ももっと真剣に学ぶべきである。
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ついに、あの中谷さんも、竹中さんも「北欧の成長戦略に学べ」と ???(2010-01-05)


 ところで、私は編者の求めに応じて、「第4章 環境問題への対応は 『フォアキャスト』か、『バックキャスト』か」を執筆しました。そして、人類の歴史の中で初めて直面する「2つの大問題」というタイトルのもとで次のように書きました。
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 21世紀の半ば(2050年頃)までに、私たちは数百万年の人類の歴史の中で初めて直面する二つの大問題を否応なしに経験することになるであろう。どちらの大問題も、私たちの社会をこれからも持続させることができるかどうか、次の世代に「安心で安全な社会」を引き渡すことができるかどうかに、深くかかわっている。
 一つは日本でも関心の高い「少子・高齢化問題」である。これは「人間社会の安心」を保障する年金、医療保険、介護保険、雇用保険などで構成される「社会保障制度の持続性」にかかわる問題である。つまり、人間社会の安心と安全が保障されるかどうか、という意味において「社会の持続性」にかかわる大問題なのである。しかし、この問題は基本的には国内問題である。
 もう一つはいうまでもなく、「環境問題」である。これは「人類を含めた生態系全体の安全」を保障する「環境の持続性」にかかわる、さらに大きな大問題なので、すべての経済活動の大前提として常に考慮しなければならない。
 環境問題の根本には経済活動が原因としてあるわけだから、この問題を解決するための具体的な行動は経済的に見れば「経済規模の拡大から適正化」への大転換であり、社会的に見れば20世紀の「持続不可能な社会(大量生産・大量消費・大量廃棄の社会)」から21世紀の「持続可能な社会(資源・エネルギーの量をできるだけ抑えた社会)」への大転換を意味する。
 先進工業国がさらなる経済規模の拡大を追求し、新興国(中国やインドなど)や途上国がそれに追従するという20世紀型の経済成長の延長では経済規模は全体としてさらに拡大し、地球規模で環境が悪化するにとどまらず、これから2050年までの40年間に人類の生存基盤さえ危うくすることになるであろう。
 この二つの大問題は私たちが、今まさに「人類史上初めての大転換期」に立たされていることを示している。
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 そして、この章の「おわりに」を次のように結びました。

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 21世紀のグローバルな市場経済の荒波を、先頭を切って進むスウェーデン丸は「精巧なコンパス」(科学者の合意)と「強力なエンジン」(政治主導の政府)を搭載した新造船で、「最新の海図」(自然科学的な知見)をたよりに、みごとな「操船術」(「社会科学的な知見」と「社会的な合意形成」に支えられた実現のための政策)を駆使して、2025年頃に、最終目的地である「緑の福祉国家」(エコロジカルに持続可能な社会)をめざしている。
 現在は、国際的に20世紀の「経済規模の拡大」から21世紀の「環境に十分配慮した経済規模の適正化」への大転換期なので、判断基準の変更によって、20世紀の経済大国(具体的には日本を含めたG8の国々)が、様々な分野で相対的に国際ランキングの順位を落とす現象がみられるようになってきた.
 2000年以降に公表された様々な分野の国際ランキングをみると、21世紀の社会を模索するようなデータ(少子・高齢化、年金・医療保険・雇用保険などの社会保障や労働環境を含めた福祉、教育、ITなどの先端技術、環境・エネルギー分野など)の国際ランキングでは、スカンジナビア3か国(ノルウェー、スウェーデンおよびデンマーク)にフィンランドやアイスランドを加えた北欧5か国の活躍が目立つ.たとえば、2011年3月11日の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の過酷事故後に再浮上した「日本国内の電力市場の自由化問題」がある。この問題でも、10年以上先を行く北欧諸国の経験は日本のこれからの議論に大いに役立つ情報を提供できるであろう。

・・・・・・・・(中略)・・・・・

 気候変動に象徴される21世紀最大の問題である「環境問題」への対応は、個々の環境問題の現象面に技術で対応するのではなく、拡大し続ける経済活動の規模を適正化して新しい社会を築くことである.めざすべき社会は日本で提唱されている「低炭素社会」ではなく、「低エネルギー社会」、さらには「エコロジカルに持続可能な社会」である。
 大阪万博からおよそ40年、北欧の国々が再び、私たちに続く21世紀後半の「まだ見ぬ世代が住む人間社会の明るい未来」のための舵取りを担うことになったのは、単なる偶然なのだろうか・・・・・ 
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 私たちがいま直面している「環境問題」に対する最も重要な判断基準は、「社会全体のエネルギー消費量を削減できるかどうかにかかっている」ということになります。「環境問題の根本的な原因は経済活動にある」「21世紀の経済成長はエネルギー・資源の消費を抑えて達成されなければならない」、これらの事実は「環境問題について私たちがみな共通に持つべき認識」のはずですが、残念ながら、日本ではまだ十分には共有されていません。

 フォアキャストする日本の政策決定にかかわる人々の「本音」としての危機意識およびそれに必然的に伴うはずの適切で有効な対応は、致命的といってもいいほど遅れているといわざるをえません。バックキャストするスウェーデンは、理想主義の国ではなく、理念に基づいた長期ビジョンを掲げ、行動する現実主義(プラグマティズム)の国なのです。

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 この本のタイトルにある「持続可能な社会」には

①社会的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
②経済的側面(人間を大切にする社会であるための必要条件)
③環境的側面(環境を大切にする社会であるための必要条件)

の3つの側面があります。スウェーデンは福祉国家を実現したことによって、これら3つの側面のうち、「人間を大切にする社会であるための必要条件」つまり「社会的側面」と「経済的側面」はすでに満たしているといってよいでしょう。しかし、今後も時代の変化に合わせて、これまでの社会的・経済的な制度の統廃合、新設などの、さらなる制度変革が必要になることはいうまでもありません。

 この本は第1章から第10章までの10章で構成されています。10章のうち、私が担当した第4章を除いた各章が①社会的側面あるいは経済的側面の最新の情報を提供しています。90年半ば以降、スウェーデンの社会的側面および経済的側面が新たな展開をしていることに注目してください。

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