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環境問題スペシャリスト 小澤徳太郎のブログ

「経済」 「社会」(福祉) 「環境」、不安の根っこは同じだ!

「将来不安」の解消こそ、政治の最大のターゲットだ

進化してきた福祉国家⑤ スウェーデン型社会民主主義

2007-08-17 07:14:44 | 政治/行政/地方分権

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今から20年ほど前に東欧世界が激動する中で、東欧諸国がスウェーデンをかれらがめざすモデル国家と考えていると報道されたことがあります。 
 
スウェーデンは、日本や欧米の先進工業国と同様に、「資本主義体制の国(最近の言葉でいえば市場経済システムの国)」です。産業に占める国営企業の割合は90年代初頭で5%程度に過ぎませんでした。 企業活動に対する政府の規制も最小限に抑えられていますので、市場競争原理がよく働いています。労使関係は良好で、労使共によく組織されています。

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日本と同じように、スウェーデンでも様々な問題が起こります。しかし、それらの問題の解決にあたっては十分な話し合いにより解決するのがスウェーデンの伝統的な方式です。つまり、車の運転で言えば、急ハンドルは切らないのです。スウェーデンの政治・社会に詳しい早稲田大学教授の岡沢憲芙さんの言葉を借りれば、「生産は資本主義の原則の下で行ない、得られた富の分配は社会主義的に行なう」ということになります。

資本主義体制をとってはいるものの、「機会均等」というような価値観を重要視しているわけですから、社会主義的な要素が入ってくることになります。簡単に言えば、スウェーデンは資本主義と社会主義を織りまぜた国と言えるでしょう。しかし、20世紀のスウェーデンにとって「資本主義」とか「社会主義」というイデオロギーの問題はあまり重要ではありませんでした。重要なのは主義主張の問題ではなく、いかに「国民が不安なく暮らしやすいかということ」、つまり、「不安のない暮らし易さ」が国民すべてに均等に配分されているかどうかということでした。
 
スウェーデンが長年かかって築き上げた福祉国家にとって大切なことは「国民の生命と幸福」です。その実現に沿うように、立法が存在し、行政が機能し、政治があるのです。科学技術や情報公開制度、そしてオンブズマン制度もそのためにあるのです。労働組合と企業経営がスウェーデンの福祉社会の中で重要な役割を持っています。

スウェーデンの国民に支持されてきた20世紀型の福祉国家を維持し、発展させるためには、企業の健全な活動が不可欠です。もし企業が利潤を上げることができず、赤字を続けているのであれば、スウェーデン型の福祉国家は成り立ちません。企業が健全な状態にあることがスウェーデンの福祉社会を維持する上で大きな役割を担っていました。同じように、労働組合もスウェーデンの福祉社会の維持・発展のために大きな力となってきたのです。

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日本の労働者の組織率は1949年(昭和24年)の55.8%から、1953年には30%台に下がり、1975年(昭和50年)以降は年々下降を続け、ついに、1991年には24.5%となって、戦後最低(昭和22年の調査開始以来最低)の記録を更新してしまいましたが、スウェーデンの労働者の組織率は1991年時点でも90%を維持していました。企業活動も、労働組合の活動もスウェーデンの福祉国家を支える力として作用していました。


最新の労働組合組織率については、2006年12月8日の朝日新聞が、「労組組織率最低18.2%」という見出しで、連合の見通しを伝えています。「組織率の分母となる組合員数(昨年1013万8千人)の減少幅は小さくなった。一方で、分母となる雇用者数は、景気回復もあって5416万人から100万人増えており、組織率の低下につながった」と解説しています。



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進化してきた福祉国家② 社民党の44年にわたる長期単独政権

2007-08-14 02:54:45 | 政治/行政/地方分権

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1889年に結成された社民党は、1932年に政権に就いて以来、76年の連立政権(中央党・自由党・保守党の中道・保守連立内閣)誕生までの44年間、長期単独政権を維持してきました。長期単独政権を維持するなかで、絶対多数(国会の議席の過半数の確保)は1回だけで、あとは比較多数のままで、連立政権を組むこともなく単独政権を守りつづけました。

このような政権のあり方について、岡沢憲芙さん(早稲田大学社会学部教授)は「議会制政治は数の力だけで動くのではない。政策の熟練こそが力であることを体現してきているわけだが、その政策の基調は何かといえば、徹底したプラグマティズム、現実主義である。常に、ブルジョア政党の野党第一党(経済界・産業界が支持基盤)に対して、より多数の国民に受け入れられる政策を提示し、一方、近い将来を先取りした分かり易い政策を打ち出すことで、中間政党の中央党や国民党の政策協調を引き出してきた」と解説しておられます(『SAPIO』 1989年12月14日号 90ページ)。下の図は『SAPIO』の特集記事です。

一方、日本の経済発展は、自民党の38年にわたる長期単独政権のもとになされたものです。要約すれば、社民党の44年にわたる長期単独政権が「福祉国家スウェーデン」を、自民党の38年にわたる長期単独政権が「経済大国日本」をつくりあげたといえます。


★余 談

この特集記事は「所得税ゼロ国家・スウェーデンを目標に『税制』を見直す スッキリと気持ちよく払いたくなる間接税大研究」と題して、14ページにわたって、4つの提言掲げています(青い字の部分)。文字が読みにくいので、リードの部分と4つの提言(本文中のそれぞれの提言の表題)をリライトしておきます。

リードの部分

政治家がすべて性悪だというつもりはない。しかし、ここまで解散・総選挙が煮詰まってきた状況で、彼らに政策論議をしろというほうが無理というものだ。党利党略、私利私略-。そんな今の政治屋に、国家=国民百年の大計である「税」を語る資格はあるまい。世界的な間接税シフトの中で、今、北欧の一角スウェーデンでは、「所得税 ゼロ」の実験が始まろうとしている。その有利と不利を見据えつつ、日本型間接税の満たすべき条件は何かを、原点に立ち返って考えてみる必要がある。「税」とは、国家の有様を個人が考える、もっとも具体的な問題だからだ。

提言の部分

提言1
政治熟練国家だからこそ 「所得税ゼロ」実験ができる
――なぜスウェーデンは重税でも国民が豊かなのか――
岡沢憲芙(早稲田大学社会科学部教授)

提言2
払った税をサービスに直結させる消費税の地方税化を急げ
――どうしたら間接税を日本の税風土に定着できるか――
茂木敏光(経営コンサルタント)

提言3 大きな政府の“直接税社会”では、世の中が暗くなる
――税制ビジョンなき“政治屋的論議”に警告する
舛添要一(国際政治学者)

提言3
所得大減税+EC型間接税が不公平是正への一里塚だ
――日本型消費税は、なぜ間接税として堕落型なのか――
和田八束(立教大学経済学部教授)

繰り返しますが、この記事は18年前の雑誌「SAPIO」(1989年12月14日号)に掲載されたものです。そして、翌年1990年の税制構造改革で、スウェーデンの消費税は25%に引き上げられ、現在に至っているのです。なお、日本の消費税は1988年竹下内閣時に消費税法が成立、同年12月30日に公布、翌年1989年(平成元年)4月1日に税率3%で消費税法が施行されました。97年4月1日から税率は5%(橋本内閣時に)に引き上げられ、現在に至っています。

ここでも、スウェーデンと日本の考え方と行動に大きな落差を感じさせられます。皆さんはいかがですか。90年代後半から現在に至るまで、スウェーデン経済は好調です。そして、スウェーデンの国民一人当たりのCO2排出量は先進工業国の中で最も少なくCO2の排出量も90年と2005年の間に7%減この間、 36%の経済成長を達成しています。  

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進化してきた福祉国家① 「世界の最貧国」から「世界で最も豊かな福祉国家」へ 

2007-08-13 06:09:46 | 政治/行政/地方分権

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今日から数回にわたって、福祉国家を建設し、維持してきた「20世紀のスウェーデンの歩み」を大雑把に振り返ってみたいと思います。私のブログの「スウェーデンに関する基本的なテーマ」が、20世紀の「福祉国家」から21世紀の「緑の福祉国家」へ、だからです。

100年以上前、日本の明治20年代中頃、スウェーデンはヨーロッパで最も貧しい国(もしかしたら世界の最貧国?)でした。あまりにも貧しいがゆえに、当時の人口350万人のうち3分の1くらいが移民として米国(主にミネソタ州)に渡ったといわれています。
 
なぜ貧しかったのでしょうか。スウェーデンは地理的に自然条件が厳しい上に、産業活動に必要な石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料が国内で採れなかったからです。外国から買いたくても、当時は輸送手段がないために、輸入もできませんでした。このために、ほかのヨーロッパ諸国に比べて、工業化が遅れたのです。化石燃料が採れないことは、現在も同じです。

しかし、この40年間でスウェーデンは、現在のような国際社会が認める福祉国家になりました。私なりにその主な理由を考えてみると、つぎのようになります。




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「自信と楽観主義」とともに超えた、20世紀から21世紀への峠

2007-08-12 08:04:54 | 政治/行政/地方分権

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20世紀から21世紀への峠を、スウェーデンは『自信と楽観主義(confidence and optimism)』とともに越えた。スウェーデンの『予算説明書』は、そう胸を張って宣言している。これに対して日本は、20世紀から21世紀への峠を、『不安と悲観主義』とともに越えるしかなかった。この対照的な相違は、『人間を信頼した国』と、『人間を信頼しなかった国』との相違だということができる」、これは昨日のブログに登場した神野直彦さん(東京大学経済学部教授)の著書『二兎を得る経済学――景気回復と財政再建』(講談社+α新書、2001年)の90ページに出てくる表現です。
 
スウェーデンと日本を鮮烈で対照的な表現で描写した神野さんはこの著書のなかで、世紀の変わり目に先進工業国が直面した「景気回復」と「財政再建」を2匹の兎にたとえ、90年代の日本、ドイツ、フランス、スウェーデンの対応を財政学の立場から分析し、比較検討しておられます。それぞれの国が、それぞれの異なる社会制度のもとで、それぞれの選択をした結果、現在に至っている状況がわかり、たいへん興味深いものです。神野さんの分析を要約すると、つぎのようになります。

日本は景気回復という「一兎」を追ったが一兎をも得ずであった。ドイツ、フランスは財政再建という「一兎」を追い、一兎を得た。スウェーデンは景気回復と財政再建という「二兎」を追い、二兎を得た

②スウェーデンは財政再建のために、「歳出の削減」と「増税」を実施した。歳出の削減と同時に、景気回復のために経費の中身を、教育への投資、IT(情報技術)インフラの整備、環境政策、強い福祉の4分野に大きくシフトさせ、1992年から知識集約的産業の成長を倍増させ、産業構造を転換させた。

③世界最強の「IT国家」をめざし、ストックホルムをして「IT首都」とまで賛美させる産業構造の転換こそ、スウェーデンが景気回復にも財政再建にも成功した鍵なのである。

90年代後半以降のスウェーデン経済のパフォーマンスを、「景気回復」という一兎から見ると、「一般財政収支の対GDP比」「GDPの推移」「1人当たりのGDPの推移」「経済活動指数」「失業率」「株価」「政策金利」「国債の格付け」「国際競争力」などの国際比較の可能なデータでは、きわめて好調です。
 
もう一つの「財政再建」という一兎についてはどうでしょうか。 「中央公論」が2004年11月号で、「特集 国家破綻の足音」を組み、そのなかで榊原英資さん(慶應義塾大学教授、元財務官)は、「日本の財政悪化は政治の再編成を招くか」と題して米国の格付け機関S&Pが、現状のままの財政制度が将来も維持されたときの25カ国の累積財政赤字(一般政府累積赤字対GDP比率)を試算した表を掲げています。
 
これを見ると、2000年のスウェーデンが55%(日本144%)、2030年が21%(日本399%)、2050年が59%(日本718%)。日本の状況は右肩上がりで、資産対象国のうち最悪です。欧米が判断基準としている累積財政赤字が60~70%であることを考えると、日本の深刻さが理解できるはずです。

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財政再建に成功したスウェーデン②

2007-08-11 07:18:59 | 政治/行政/地方分権
 

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スウェーデンの経済政策に詳しい専門家は、スウェーデンがとった不況対策は日本の不況対策とは異なり、「総需要の喚起を重視するケインズ政策」や「総供給量を重視する新古典派政策」ではなく、「資産重視政策」だったと評価しています。スウェーデンは福祉の向上のために、福祉の基盤である「経済」と「環境」を重視したのです。

昨日紹介したように、財政再建の方法は、理論的には「景気回復(による歳入増)」「歳出削減」「増税」の3つ、あるいはその組み合わせしかないのだそうです。次の図は1990年代前半にスウェーデンが実施した財政再建政策をまとめたものです。

私はこの分野の門外漢ですので、この内容の分析の概要は神野直彦著「二兎を得る経済学 景気回復と財政再建」(講談社+α新書 2001年8月)のp84~90に委ねます。


なお、以下の文中、●や○、関連記事は理解を深めるために私が追加したものです。また、文中の「二兎」とは、 「景気回復」「財政再建」という2つの政策課題を指しています。


経費削減と増税は不況を招くか

●1994年9月の総選挙で政権に復帰した社民労働党は、国民が「共同の困難」として一致協力して、財政再建に取り組むことを訴える。ここで社民労働党政権は、何のために財政再建をするのかという目的を明確に国民に説明している。

○「ストロング・ウェルフェア(強い福祉)」のために、「ストロング・ファイナンス(強い財政)」を築こう。それが合言葉である。つまり、福祉を充実させるためには、財政を再建するのだという目的を明確に、国民に対して説明したのである。

●国民に対する福祉を強めるためには、財政を強くしておく必要がある。そのために財政を再建するとすれば、経費を削減しなければならない。ところが、経費を削減すれば、必ず貧しい人々にダメージを与えてしまう。

○そこで豊かな国民は、租税で痛みを分かち合って欲しい。つまり、貧しい国民は経費で、豊かな国民は租税で、痛みを分かち合い、協力して国民の「共同困難」である財政を再建しようと訴えたのである。そして、1995年に高額所得者に対する所得税の税率を、20%から25%へ引き上げる増税を実施する。

●日本で、このように経費削減と増税とを履行して財政再建に取り組めば、必ず不況を深刻化させるという批判が巻き起こる。しかし、スウェーデンではこのように財政再建に取り組むと同時に、景気回復のために経費の中身を大きく転換させたのである


二兎を得た秘訣

●スウェーデンが景気回復のため、経費支出でもっとも重視したのは教育投資である。経済成長と雇用確保と社会正義、つまり所得の平等な分配という3つの政策課題を、同時に達成しようとすれば、教育投資しかないと、スウェーデンは主張している。

●スウェーデンが経済活性化のために、第二に重視した経費支出は環境政策である。経済活性化には教育投資によって人間が能力を高めるだけでなく、人間が健康で活動できなければならない。人間が健康に活動できるためには、環境が保全されていなければならない。

○しかも環境を保全することは、「技術革新の宝庫」ともなり、「市場開拓の宝庫」ともなる。つまり、環境を保全しようとすれば、それに新たなイノベーションが起こり、新たな市場も開けてくると、スウェーデンは考えたのである。

●第三に重視した経費支出はIT(情報技術)である。つまり、スウェーデンは「世界最強のIT国家」になることを合言葉に、「情報社会への参加(participation in the information)」を目指したのである。

○もちろん、「世界最強のIT国家」を目指そうとすれば、ITのハードウェアの整備に力を注がなければならない。しかし、スウェーデンは同時に、ソフトウェアを担うヒューマンウェアの育成も重視したのである。

○というのも、ITのハードウェアの整備のみを重視すれば、アメリカのようなデジタル・デバイドが生じ、ITにアクセルできる能力のある者と能力のない者との間で、格差が拡大してしまうからである。

○そこでスウェーデンは、ITを教育するスタッフを6万人雇用する計画を立てた。国連はITを教育するスタッフが、世界で100万人不足していると指摘しているが、スウェーデンはいち早く教育スタッフの養成に着手した。その結果としてストックホルムは、「ヨーロッパのIT首都」とまで称えられるようになったのである。

●スウェーデンが四番目に重視した経費支出は、 「強い福祉」である。とくに育児サービスに重点を置いた福祉の強化を図ったのである。

●スウェーデンは増税をも実施して財政再建を目指すとともに、経費支出を以上のように、大きく変更しながら経済活性化を図った。こうした財政運営によってスウェーデンは、「二兎を追い二兎を得た」のである。

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財政再建に成功したスウェーデン①

2007-08-10 09:59:21 | 政治/行政/地方分権


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昨日のブログ「このままでは国が滅ぶ そして、10年後借金時計は止まった!」で取り上げた日本の10年前の「国の借金321兆円」10年後の2006年末には832兆円に膨れあがってしまいました。

この10年間で2.6倍にも膨らんだ「日本の国の借金」の改善(いわゆる財政再建)はどうすればよいのでしょう。この分野の門外漢である私にはこの問題の重要性やその行く末についてはよくわかりません。ですから、90年代前半に「景気回復」と「財政再建」の2つの政策課題に正面から立ち向かい、好ましい成果を上げたスウェーデンの状況を専門家の分析を通して紹介するに止めます。

私が、この分野の門外漢でありながら敢えてこの問題を取り上げたのは、私の環境論では「環境問題とは、我々が豊かになるという目的を達成するために行った経済活動の拡大の結果生じた目的外の結果が蓄積したもの」だからです。

90年代初めの不況は深刻な財政赤字の悪化を招き、スウェーデン経済に著しい打撃を与えました。1991年から93年にかけて、日本と同じような原因による「バブル崩壊」を経験したスウェーデンは、「経済のマイナス成長」「高失業率」「GDPの12%を超える財政赤字」「経常収支の大赤字」の四重苦に苦しみました。
 
事態を改善するために政府与党は、野党との協力のもとに綿密なプログラムを組み、強い福祉を訴え、「歳出の削減」と「増税」を実施した結果、「景気回復」と「財政再建」を同時に解決するとともに、四重苦を克服したのです。迅速で大胆な公的資金の投入により、不良債権問題は1年で解消し、投入された公的資金も1996年にはほぼ全額返済されました。

この分野の専門家によれば、財政再建の方法は理論的には次の3つしかないそうです。

明日は、この原則に沿って、好ましい結果を得たスウェーデンの状況を概観します。



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このままでは国が滅ぶ、 そして、10年後、「借金時計」が止まった!

2007-08-09 22:40:26 | 政治/行政/地方分権


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10年以上前、『中央公論』(1996年6月号)に元大蔵大臣の武村正義さん(衆議院議員)が「このままでは国が滅ぶ-私の財政再建論-」と題する論文を寄稿しました。「321兆円の長期債務を抱えながらも、5年連続で税収は低下、景気対策の国債増発が続く。このままでは、日本財政が先進7カ国の中で、最下位に転落する」という文章で始まるこの論文は次のように続きます。

それ程この国の財政は悪いのだ・・・・いずれにしてもここ20年くらいの日本の財政運営の結果が今日を出来(しゅったい)させた。私を含めて、財政にかかわったすべての人々の責任は重い。・・・・

総額75兆円、税収51兆円、税外収入3兆円の今年度の予算を家計にたとえてみると、54万円の収入しかないのに75万円の支出をしていることになる。54万円の収入は、田舎の両親への仕送りに14万円(地方交付税)、いろいろなローンの返済に16万円(国債費)が目をつむって必要。残りは24万円で、これでは家族の生活ができない。しかたなく、21万円の新たな借金をして、喰いつないでいるということになる。
    
今年度末の国債残高は約241兆円になる。これに借入金80兆円を加えると321兆円の長期債務残高である。これに地方公共団体の地方債残高等約136兆円を合算し、重複分を除くと、443兆円。GDP(496兆円)比は実に90%となっている。これは欧米諸国に比べて最悪の状況である。アメリカは63%、イギリスは58%、ドイツとフランスは59%である。
    
また、国および地方団体の毎年の財政赤字のGDPに対する比率も、国際的に注目される指標である。平成8年の数字でみると、アメリカ2.4%、イギリス3.8%、ドイツ3.0%、フランス3.9%に対し、日本は8.2%で突出してワーストである。EUの経済・通貨統合の条件を定めたマーストリヒト条約は、前者は60%以下、後者は3%以下においており、日本の財政はEUの2つの最低条件をとうてい満たせないほど悪化している。

10年前のこの状況は、改善されることはなく悪化の一途を辿っています。その現状を国民に知ってもらおうと、財務省がホームページに「借金時計」 を掲載しました。ところが、わずか2時間半で掲載が中止されたそうです。



財務省の「借金時計」はアクセスの集中により掲載後2時間半でダウンしたそうですが、民間の「借金時計」 は着々と「借金の時」を刻んでいます。

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環境問題と参院選挙

2007-07-31 10:59:46 | 政治/行政/地方分権


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日本の大学では前期の授業が終わり、今、多くの大学が期末試験の最中でしょう。私が「環境論」を講じている大学で私の担当講義の期末試験が先日終わりました。昨年の受講者は135人、今年の受講者は397人でした。今年の試験問題として次のような出題をしました。

地球規模で起きている環境問題に対して、スウェーデンでは、国が「21世紀に持続可能な社会を実現する世界のモデルになる」という国家目標をたて、国民各セクターがその実現のために協力して行動に移している。一方、日本では「環境問題」は国政レベルの選挙の争点にもならない。また、行政レベルでも、例えば地球温暖化防止に対する「環境税」に対して環境省と経済産業省が対立している。両国の視点の相違を書きなさい。

今回の参院選との関連で、朝日新聞と毎日新聞が社説で「温暖化と選挙」をとりあげています。これらの社説のなかに、それぞれの新聞社の論説委員の日本の現状分析を垣間見ることができます。日本のマスメディアに私の学生と同じ出題をしたら、どのような回答が得られるでしょうか。

朝日新聞:2007年7月22日の社説
地球温暖化にどう立ち向かうか。これも参院選で問われるテーマの一つだ。脱温暖化の大切さは、だれも異論がない。だが、政党や候補者の公約を比べれば、力点の置き方や政策の違いがある。脱温暖化の流れを加速できるかどうかは、有権者の選択にかかっている。課題は3つある。・・・・・・・・・・・


毎日新聞:2007年7月27日の社説
事の重要性からみると、当然、参院選の争点になってしかるべきだ。にもかかわらず、盛り上がりに欠けているのが地球温暖化対策である。・・・・・・



スウェーデンの状況はこのブログで書き綴ってきました。読者の皆さんも日本の状況に対するご自身の分析結果をA4用紙1枚程度にまとめてみてはいかがでしょうか。



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21世紀前半社会:ビジョンの相違④ 2007年、安倍内閣の成果:成立した141本の法律 

2007-07-28 08:47:05 | 政治/行政/地方分権


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安倍内閣が、小泉前政権が掲げた「持続的な経済成長」を引き継いでいることは、次のような事実から明かでしょう。

①昨年10月に出版された中川秀直・現自民党幹事長の著作「GDP1000兆円計画 上げ潮の時代」(講談社 2006年10月) の「はじめに-GDPが2倍になる必然」に、「改革」の小泉政権から、「成長」の安倍政権へ、と書いてあること。
②明日に迫った参院選挙の広報資料にある「成長を実感に!」とあること。
③今朝の朝日新聞が伝える安倍自民党総裁の発言録(次の図) 


それでは、今月5日に閉会した国会での安倍内閣の成果を検証してみましょう。




今国会で成立した法律の数は141本ですが、成立の背景には次の図が示すように、 「不正常な採決」が17本も含まれています。


いかがでしょうか。小泉政権が掲げた「持続的な経済成長」を引き継ぐ安倍政権の成果も、昨日の「21世紀前半に向けた法体系が未整備」の図で指摘したように 、 20世紀の法体系の改正にとどまっている ことは明らかです。

今、私たちの国「日本」が21世紀前半にめざすべき方向性を、私の環境論に基づいて示めせば、次のようになります。

この図の「③持続不可能な『財政赤字』」には注意する必要があります。

この図で注意すべきことは、小泉政権が掲げ、安倍内閣が引き継いだ「持続的な経済成長」の努力にもかかわらず、日本の財政赤字は基本的には改善されていない ことです。


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いま、日本に求められているのは、「行き詰まった年金制度」を21世紀の社会の変化に耐えられる「持続可能な年金制度」につくりかえること、そして世界に先駆けて21世紀最大の問題である「資源・エネルギー・環境問題」の解決に道筋をつけ、21世紀前半にめざすべき日本独自の「持続可能な社会」を構築する勇気と強い意志、そして すばやい行動力です。



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21世紀前半社会:ビジョンの相違③ 2004年、小泉内閣の成果:成立した135本の法律     

2007-07-27 21:54:01 | 政治/行政/地方分権


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昨日のブログで紹介した、2002年2月4日の「小泉首相の施政方針演説」で述べられている「持続的な経済成長」が、日本型企業経営をはじめ、日本のさまざまな社会制度(もちろん、年金制度や医療保険制度などの社会保障制度も含む)や慣行が、有効に機能するための必要条件の一つであったことは、疑いの余地もないところです。
 
最近では崩壊しはじめたようにも見える談合などの商習慣、系列関係、政官業の癒着、年功序列や終身雇用など、これまで日本社会の特徴とされ、評価されていた制度も、経済の持続的拡大が止まれば、立ちゆかなくなるのは間違いありません。
 
それでは、21世紀もこれまでどおりの経済の持続的拡大ができるかといえば、その可能性はほとんどないでしょう。これまでに何度か述べたように、「環境への負荷」を軽減することに配慮しなければならない21世紀には、これまでのように資源やエネルギーを無制限に使うことができなくなるからです。このことは、「環境論」こそ、21世紀の国家論であることを示唆しています。

小泉政権が2002年に掲げた「持続的な経済成長」というビジョンは、20世紀社会の延長上にある考えなので、21世紀社会を意識した大幅な法体系の変更は考えられません。必要に応じて新しい法律をつくることはあっても、多くの場合は既存の法律の改正にとどまるからです。


この私の観察と分析を実際の成果に基づいて、今日(小泉前政権)と明日(安部政権)の2回に分けて検証してみましょう。

2004年6月16日に、第159通常国会が閉会し、小泉政権下で政府提出の120本の法案と議員提出の15本の法案が成立、34本の法案が継続審議となりました。40年ぶりの法律の大量生産だそうです。



しかし、成立した法律のリストを見ますと、圧倒的に多いのが「改正年金法」や「改正所得税法」のように「改正○○法」と名づけられた法律です。




既存の法律が社会の変化に耐えられなくなったとき、現状に合うような改正を施すだけでは、現状肯定にすぎないと思います。社会を積極的に変えていくことにはならないでしょう。また、継続審議とは要するに、先送りということでしょう。



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21世紀前半社会:ビジョンの相違② 日本のビジョン「持続的な経済成長」

2007-07-26 10:14:29 | 政治/行政/地方分権


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一昨日のブログの最後に掲げた図「21世紀前半社会:ビジョンの相違」を再掲し、このことについてすこし考えてみたいと思います。

スウェーデンのビジョンについては、1月11日に始めた市民連続講座「緑の福祉国家 1」 から、6月1日に終了した「緑の福祉国家 62」 まで、62回にわたって、私が理解したことを書き込ましたので、そちらを参照してください。  

それでは、日本の21世紀前半のビジョン「持続的な経済成長」はどうでしょうか。

日本の社会的・経済的仕組みは「経済規模の拡大」を前提につくられており、21世紀になっても、国の政策は経済拡大ばかりを考え、表面的には変化しているように見えても、「基本的な構造部分」にほとんど変化が見られません。


「持続的な経済成長」は、小泉純一郎・前首相が「2002年2月4日の施政方針演説」の「はじめに」で述べたものです。

新聞の一面を埋め尽くす1万2000字を超える施政方針演説のなかで、小泉首相は、このブログの基本テーマの一つである「社会の安心の持続性」と不可分の「年金問題」に対しては、「年金不安の解消に向けて、公的年金が、その役割をしっかりと果たしていくことができるよう、次期制度改正を平成16年(2004年)までに行うこととし、これに向けた本格的な検討を開始します」と述べ、セーフティ・ネットの改善を示唆しました。
 

けれども、このブログのもう一つのテーマである「環境問題」最重要キーワードである「持続可能な開発」については、たった一言、「9月に開催される『持続可能な開発に関する世界首脳会議』においては、環境保護と開発を共に達成すべきことを訴えてまいります」と述べたにすぎません。   




「我が国が持続的な経済成長を取り戻すためには」「改革なくして成長なし」という表現に象徴されるように、小泉首相のビジョン(政治目標)は「持続的な経済成長」(つまり、20世紀の経済社会の延長上にある「経済の持続的拡大」)です。その意味で、21世紀初頭に発足した小泉・連立内閣は「行き詰まった20世紀経済を再生するための内閣」といえるでしょう。

2001年4月の小泉・連立内閣発足以来、政府の「経済財政白書」のサブタイトルが、2001年の「改革なくして成長なし」に始まって、2005年が「改革なくして成長なしⅤ」であったことからも、この内閣が従来の経済拡大路線を着実に踏襲していることは明らかです。さらに、2006年は「成長条件が復元し、新たな成長を目指す日本経済」です。


ここには、「経済」と「環境」は切っても切れない関係にあるという基本認識はまったくありません。



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「増税を選挙で問う国」と「増税をぼやかす国」

2007-07-16 20:38:46 | 政治/行政/地方分権


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6月3日に「予防志向の国・治療志向の国」というカテゴリーを設けました。その1回目は「治療よりも予防を」でした。 

それ以来、今日のブログは「予防志向の国・治療志向の国」の43回目となります。
この間に、次のようなテーマで「予防志向の国」スウェーデン「治療志向の国」日本の対応の相違を検証しました。

●情報公開
●CO2税
●適正技術
●電磁波(VDT、送電線、携帯電話)
●住環境:高層ビル
●空調と人口の香り
●シックハウス症候群
●アスベスト
●動物福祉
●年金制度

検証の結果を一言で言えば、同じテーマに対して、スウェーデンは日本よりも10ないし20年早く行動し、それなりの成果を得ているというものです。

今日のテーマ「増税を選挙で問う国」と「増税をぼやかす国」というのは、私好みのテーマではありますが、私の検証結果ではありません。たまには、他の人の検証結果も参考にしてみるのもよいと思います。昨日の朝日新聞に編集委員の西井泰之さんが、今年初めスウェーデンを訪れた時の思い出を「痛み問う国との差」と題して、書いておられます。


●選挙戦公示日の夕方、東京渋谷で安倍首相の演説を聞いた。最も力を入れた「社保庁たたき」から「美しい国」造りや新成長戦略・・・・・と時に拳を振り上げ「改革」を訴える。だが聴衆の熱気はいま一つ。心に響かないのは増税問題に触れない「うそっぽさ」があるからだろう。ふと、今年初め、スウェーデンをおとづれた時のことを思い出した。

関連記事:

現代の富裕者の行動、B.ボルグの場合

●現在の負担率は70.2%。この間の15回の選挙の投票率は90%前後という高率だ。

関連記事:

日本の国づくりの議論を混乱させる2つの指標 「国民負担率」と「環境効率」

対照的な日本とスウェーデンの「債務残高」と「国民負担率

スウェーデンの国会議員の投票率の推移

●それだけに増税を選挙で問う国と、与党も野党も増税をぼかす国との「落差」が際だつ。

関連記事:

税制の改革① 課税対象の転換へ



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2002年、世界初の「動物福祉庁」の設置

2007-07-14 22:16:25 | 政治/行政/地方分権
 

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2007年6月22日の朝日新聞の「あしたを考える」というページに次のような記事が載っていました。


この記事のリードの部分には次のように書かれています。

酪農王国・北海道で尾を短く切られた乳牛が増えている。長いと乳搾り作業の邪魔になるからだ。一方、海外では「家畜の福祉」を唱えて、効率化優先の畜産を見直す動きが広がっている。背景には、家畜にやさしい飼育方法は,食の安全にもつながって消費者の利益になる、との考えがある。こうした動きを受け、国内でも農林水産省が新たな飼育指針作りに乗り出そうとしている。


そして、「効率追求、目立つ病気 現状は」は次のような書き出しで始まっています。

●日本の乳牛の半数がいる北海道。尾を短くする「断尾」は、効率優先を象徴する光景だ。尾の付け根から約20センチのところに、輪ゴムをはめて約1カ月、尾が腐って落ちるのを待つ。
 
●大規模化が進み、酪農家は「残酷とは思うが、牛が増え、労力を省きたい」「汚物まみれの尾を振りまわされると乳搾りの邪魔になる」と話す。


「『「家畜の福祉』打ち出す 海外は」のところでは、次のように書いてあります。

●一方、海外では、家畜の生態に配慮した飼育法への転換が進む。欧州連合(EU)は99年発効の条約で「家畜は感受性のある生命存在」と規定した。英国は法律で断尾や歯削りを禁じた。EU全域では、鶏のケージ(かご)飼いを12年から段階的に廃止するほか、13年には豚の仕切り飼いを禁止する。

参考記事
初めてのトラックバック-その2:家畜の飼養 

スウェーデンの憂鬱 


●日本など約170カ国の国・地域が参加する国際獣疫事務局(OIE)も10年までに「家畜の福祉」に配慮した指針を作る。畜舎の広さ、餌のやり方、病気や異常行動=図=への対処法などが盛り込まれる見通しだ。

●EUは06年から「家畜福祉・5カ年行動計画」を進めており、10年以降、家畜を快適に健康に育てた畜産物を認証して出荷する計画だ。タイ、中国などもEUの支援で、「家畜に優しい畜産物」ブランドを、日本などへ輸出しようと意欲をみせる。


そして、最後の「飼育基準作成へ 農水省は」では、

●海外の動きに、農水省は、「認証畜産物が輸入されれば、国産品が不当に低く評価されかねない」と心配する。

と書かれています。

この記事にはスウェーデンは出てきませんが、この分野でもスウェーデンはEUをリードしています。5月22日のブログ「持続可能な農業・林業② 抗生物質の使用禁止、家畜の使用管理」ですでに紹介したように1988年7月1日施行の「動物保護法」で、EUが99年発効の条約で規定した「家畜は感受性のある生命存在」という考えをすでに取り入れています。

2002年には、動物福祉の行政機関として、世界初の「動物福祉庁」が発足しました。

ですから、スウェーデンはこの分野でも「EUや日本の10~20年先を行く」といっても過言ではないでしょう。



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90年代、日本政府の認識が薄かった「人権や環境分野」

2007-07-02 22:54:15 | 政治/行政/地方分権


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環境問題を議論する時に、私たちは「環境問題」の現象面ばかりを追いかける傾向があります。この傾向は環境問題だけでなく、エネルギー問題でも福祉の問題でも同様です。現象面を追いかけることも必要だとは思いますが、もっと大切なことは社会の仕組み(社会制度)を理解し、それを大胆に変えることではないかと思います。

様々な分野の専門家が外国に調査に出かけますが、その多くは当該の問題にどう対応しているかという点に関心があり、この背後にある社会制度にはあまり関心を示しません。諸外国に出来て、日本で出来ないという場合、この社会制度の違いが主な原因だろうと思います。

例えば、図は16年前の記事ですが、日本には未批准の条約が230以上もあり、それが人権や環境の分野であること、


次の図は倒産企業の労働者を保護するための条約の採択を報じている新聞記事ですが、日本を除く他の先進国政府代表はすべて賛成したそうですが、日本の政府は棄権したそうです。

このように、私たちから見れば望ましいと思われる条約でも、なぜ批准しないのかその理由を探してみますと、日本の当該法律との整合性がよくないために、批准の見通しが暗いというものです。

似たような例がもう一つあります。それは1995年10月14日付けの毎日新聞の一面トップに載った「人種差別撤廃条約、今国会で批准へ」という記事です。

この記事には「同条約1965年に国連総会で採択され、145カ国(今月1日現在)が批准している。日本は無条件批准を目指す外務省と四条は憲法に抵触する恐れがあるとして難色を示す法務省の意見調整がつかず、主要先進国の中で唯一、同条約を批准していない。日本と同様に批准を見合わせていた米国が昨年10月に憲法で保証した範囲内なら個人の表現の自由の権利を制限する義務を負わないとして4条を保留する形で同条約を批准」と書いてあります。


さらにこんな記事もあります。

このように、環境分野の認識が薄かったのは日本政府だけではありません。あるいは日本政府の「環境分野の認識」が薄かったためなのか、世界の環境に関する科学研究の分野でも日本の存在感が薄いという報告があります。

関連記事

世界の科学技術の動向調査:存在感が薄い日本の「環境分野」 



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 「治療志向の国」の21世紀環境立国戦略

2007-06-04 08:31:01 | 政治/行政/地方分権


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昨日のブログの最後に、私は次のように書きました。
21世紀に入り7年目に入った今、私たちが直面している「環境問題」と「その解決策としての持続可能な社会の構築」は治療志向の国では対応できない問題ですので、日本を「治療志向の国」から「予防志向の国」へ転換していかなければなりません。

「予防志向の国」スウェーデンの“21世紀環境戦略”については、今年1月11日から6月1日まで、市民連続講座「スウェーデンの挑戦 緑の福祉国家」シリーズで62回にわたって紹介してきました。偶然にも、「治療志向の国」日本の「21世紀環境立国戦略」の議論がこれから始まろうとしています。

21世紀環境立国戦略は、安倍首相が、2007年1月26日の施政方針演説で、その策定を約束していたものです。

次のニュースをご覧ください。

原案では、「地球温暖化」「資源の浪費」「生態系」の三つの分野で、地球規模の環境問題が深刻化していると指摘し、将来の世代に受け渡していける「持続可能な社会」に変えていく必要があるとしたとあります。この文言は、これまで私が、ブログの「市民連続講座 環境問題」(52回)と「市民連続講座 スウェーデンの挑戦 緑の福祉国家」(63回)で述べてきたこととほとんど同じです。

しかし、この記事には「今後1、2年で重点的に着手すべき8つの戦略を挙げた」とありますが、ここには明示されておりません。ネットを検索すると、 「21世紀環境立国戦略」(平成19年6月1日)と題する政府のPDF文書(24ページ) がありました。そこに掲げられている「8つの戦略」なるもののタイトルを紹介しましょう。

戦略1 気候変動問題の克服に向けた国際的リーダーシップ........ 7
戦略2 生物多様性の保全による自然の恵みの享受と継承......... 12
戦略3 3R を通じた持続可能な資源循環........................ 14
戦略4 公害克服の経験と智慧を活かした国際力................. 16
戦略5 環境・エネルギー技術を中核とした経済成長............. 17
戦略6 自然の恵みを活かした活力溢れる地域づくり............. 19
戦略7 環境を感じ、考え、行動する人づくり................... 22
戦略8 環境立国を支える仕組みづくり......................... 23

30年近くスウェーデンと日本の環境政策を同時進行でウオッチしてきた私にとって、なんとも拍子抜けの記述です。これまでの政策の羅列を超えるものではなく、まるで、環境白書を読んでいるような気分になります。

1993年5月13日の「環境基本法案等に関する衆議院環境委員会中央公聴会」 に出席を求められた私は、「日本とスウェーデンの環境問題に対する現在の認識の相違と対応の相違は、21世紀初頭には決定的な相違となってあらわれてくるであろう」という言葉で私の意見を結びました。
安部首相が就任以来力強く主張してきたこの「21世紀環境立国戦略」と題する文書を読みますと、まさにそのとおりになってしまったように思います。

私の基本的な疑問は、それでは、この「21世紀環境立国戦略」と2005年4月19日に政府の経済財政諮問会議が公表した「日本21世紀ビジョン」との整合性はあるのかということです。


詳細は政府の経済諮問会議のHPをご覧ください。


 
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