東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

あかじ坂~真島坂

2012年07月11日 | 坂道

あかじ坂下 あかじ坂下 あかじ坂中腹 あかじ坂周辺地図 前回の三浦坂下のT字路を右折し、北へ歩き、次の四差路を右折すると、あかじ坂の坂下である。

一、二枚目の写真のように、中程度の勾配でまっすぐに北東へ上っている。道幅もほぼ一定できっちりとした感じで、先ほどまでの三浦坂善光寺坂とはちょっと違うイメージがあり、二枚目のように石垣がまた別の風情をつくっている。

三枚目は、中腹から坂下側を撮ったもので、坂下の先は、藍染大通りを通って不忍通りに至り、そこを横断すると、根津神社の参道で、その先が新坂(S坂)である。根津谷をはさんで上野台地のあかじ坂と本郷台地の新坂とが向かい合っている(向こうの坂は見えないが)。

四枚目は、坂下近くに立っていた街角案内地図の一部で、あかじ坂があり、その上(南)に三浦坂がみえる。

この坂は、尾張屋板江戸切絵図(前回の部分図)を見るとわかるように、江戸時代にはない。実測東京地図(明治十一年(1878))を見るとまだないが、明治地図(明治四十年(1907))にはあるので、明治中頃にできたのであろうか。

あかじ坂中腹 あかじ坂中腹 あかじ坂上 あかじ坂上 一枚目の写真は中腹から坂上を、二枚目は坂上から坂下を撮ったものである。三、四枚目は坂上であるが、このあたりになるとかなり緩やかである。

あかじ坂は、石川、岡崎、山野では、赤字坂となっている。また、あかぢ坂と表記する場合もある。

石川によれば、坂下から坂上までの西側一帯に、明治末から昭和のはじめにかけて相場師の渡辺治右衛門の広大な屋敷があった。明治四十一年大垣から東京に進出し、株式仲買店をひらいて巨富を得たが、昭和二年(1927)の金融恐慌によって破産した。浅草精光寺に寄寓して同五年寂しく没した。赤字坂の名は渡辺治右衛門が破産したころにつけられた町の人々の皮肉な呼び名である、としている。

上記の四枚目の街角案内地図をよく見ると、「あかじ坂」の近くに、坂の説明文らしきものが貼り付けてある。途切れているが、明治坂(あかじ坂)、渡辺銀行、明治屋治右衛門などの文言がみえる。

このちょっとおもしろい坂名は、大金持ちから破産してさみしい境遇に落ち込んだ相場師を揶揄する庶民の感情からついたもので、このような謂われのある坂名も珍しい。

森鷗(鴎)外は、三崎坂と相対する、根津谷から本郷台地へと上る団子坂上の観潮楼と称した住居に住んでいた(以前の記事)。明治三十五年(1902)判事荒木博臣の長女志げと結婚したが、双方とも再婚であった(以前の記事)。志げは、上記の明治屋こと渡辺治右衛門の息子勝太郎(二代目渡辺治右衛門)の前妻であったという(石川)。

真島坂上 真島坂上 真島坂上 真島坂周辺地図 赤字坂の坂上手前を左折し、北へちょっと歩くと、「あかぢ坂一帯 一時集合場所」の標識が立っている。そのまま進み、突き当たりを右折し、次を左折し、ちょっと歩くと、左手に坂が見えてくる。一枚目の写真のように、真島坂の坂上である。左に坂上を見て、直進すると三崎坂の中腹である。

一、二枚目のように、ほぼまっすぐに中程度の勾配で西へ下っている。三枚目は、坂上からちょっと下り坂上側を撮ったもので、ここを右折して直進すれば、先ほどのあかじ坂上にいたる。

四枚目は、三崎坂の坂下近くに立っていた街角案内地図の一部で、あかじ坂の斜め上(北)に真島坂がある。

この坂は、山野、「東京23区の坂」にはあるが、石川、岡崎には紹介されていない。

真島坂中腹 真島坂中腹 真島坂下 真島坂下 一枚目の写真は中腹から坂上を、二枚目は中腹から坂下を撮ったものである。三、四枚目は坂下から撮ったもので、坂下側で少し幅広となっている。静かな住宅街の坂である。

この坂もあかじ坂と同じように、江戸、明治初期にはないが、明治地図(明治四十年(1907))にはあるので、あかじ坂などと同じころにつくられたのであろうか。

この明治地図を見ると、三浦坂の北側からあかじ坂、真島坂付近一帯が真島町となっているので、坂名はこの地名に由来するのであろう。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
「嘉永・慶応 江戸切絵図(尾張屋清七板)」(人文社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図集 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
デジタル古地図シリーズ第一集【復刻】江戸切絵図(人文社)
「東京人 特集 東京は坂の町」④april 2007 no.238(都市出版)
「古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩」(人文社)
「江戸から東京へ明治の東京」(人文社)

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