東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

御殿坂(日暮里)

2012年07月27日 | 坂道

経王寺門前 経王寺 経王寺 根岸谷中日暮里豊島辺図(安政三年(1856)) 前回の七面坂上を右折し、日暮里駅方面に東へちょっと歩くと、左側に一、二枚目の写真の経王寺がある。門前に立っている説明板によると、明治維新のとき慶応四年(1868)の上野戦争で彰義隊をかくまったため、新政府軍の攻撃を受けたが、いまも山門にはそのときの銃弾の痕跡が残っているとのことなので、山門を見たら、確かにそれらしき孔があちこちにある。三枚目はそれを撮ったものである(これもそのときの痕と思われるが)。

四枚目の尾張屋板江戸切絵図 根岸谷中日暮里豊島辺図(安政三年(1856))の部分図を見ると、七面堂のあった延命院の向かい(東側)に経王寺があり、その隣に本行寺がある。これらの位置関係は現在も同じである。

本行寺門前 本行寺 説明板 御殿坂上 御殿坂上 一枚目の写真は経王寺の隣の本行寺の門前で、二枚目はその説明板である。この寺には、幕末に幕府側で活躍した永井尚志や江戸時代の儒学者で漢詩人の市河寛斎の墓がある。数年前に、永井尚志、その子孫の永井壯吉(永井荷風の同名異人)のお墓を訪ねて来たことがあるが、結局、見つけられず、むなしく帰った覚えがある。荒川区の案内によれば、永井尚志の墓には案内板が立てられていているようである。

本行寺からちょっともどり、御殿坂の坂上から歩いてきた方向(西側)を撮ったのが三枚目の写真で、人力車が客待ちをしている。四枚目は坂上から坂下を撮ったもので、中程度の勾配で下り、坂下側で左に緩やかにカーブしている。両側の街路樹で道路は鬱蒼としている。

この坂も、台東区谷中七丁目と荒川区西日暮里三丁目との境界になっていて、北側の経王寺や本行寺は荒川区である。

御殿坂下 御殿坂下 御殿坂下 根岸谷中日暮里豊島辺図(安政三年(1856)) 一枚目の写真は、坂下近くで坂下側を撮ったもので、坂下の先、右が日暮里駅北口である。二、三枚目は坂下から坂上側を撮ったもので、坂下近くに坂の標柱が立っている。駅に近いので、このあたりは人通りが多い。

標柱には次の説明がある。

「御殿坂 文政十二年(一八二九)に成立した『御府内備考』には、「感応寺後と本行寺の間より根津坂本の方へ下る坂なり」とあるが、「根岸」の誤写の可能性がある。明治五年『東京府志科』には、長さ十五間(約二七・三メートル)幅二間(約三・六メートル)とあるが、現在の坂の長さは五十メートル以上あり、数値が合致しない。以前は、谷中への上り口に当たる急坂を「御殿坂」と呼んだが、日暮里駅やJRの線路ができた際に消滅したため、その名残である坂の上の部分をこう呼ぶようになったと考えられる。俗に御隠殿(寛永寺輪王寺宮の隠居所)がこの坂にあったからといわれるが、根拠は定かではない。」

四枚目の尾張屋板江戸切絵図 根岸谷中日暮里豊島辺図(安政三年(1856))の部分図(上の図よりも広域)を見ると、本行寺前の道が御殿坂と思われるが、上記の標柱の説明によれば、いまよりももっと下の急坂で、この急坂は鉄道ができたとき消滅した。近江屋板には、本行寺のちょっと下に、△コテンサカ、とある。鉄道ができる前の明治十一年の東京実測地図を見ると、本行寺の前の道が天王寺のわきを通ってから急に曲がり崖を谷に向けてまっすぐに下っているが、長さはさほどない。この崖の所にできた坂がむかしの御殿坂かもしれない。

御殿坂下 御殿坂下 一枚目の写真は、坂下から坂上側を撮ったもので、二枚目は坂上側から坂下側を撮ったものである。

坂名の由来は、坂下の御隠殿によるとされているが、上記四枚目の尾張屋板に、川に沿った先に御隠殿が見える。また、別名を乞食坂というが、これは寺院の多い場所で、その横町とか裏道にある坂に多い名で、鉄道ができる前はこの坂の下の方に乞食小屋があったという(横関)。

この坂は、上記のように、むかしの急坂であった御殿坂ではなく、その上の坂がその名を引き継いでいるようである。

この坂は、上野台地の東側にできているが、東側は山手線など線路が通っているため、現在、むかしの地形がどこまで残っているのか。上四枚目の尾張屋板の上側(東)に芋坂があるが、この坂がかろうじて線路を挟んで東西に残っている程度のように思われる。
(続く)

参考文献
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)
「嘉永・慶応 江戸切絵図(尾張屋清七板)」(人文社)
市古夏生 鈴木健一 編「江戸切絵図集 新訂 江戸名所図会 別巻1」(ちくま学芸文庫)
デジタル古地図シリーズ第一集【復刻】江戸切絵図(人文社)
「大日本地誌大系御府内備考 第二巻」(雄山閣)
「東京人 特集 東京は坂の町」④april 2007 no.238(都市出版)
「江戸から東京へ明治の東京」(人文社)

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