東京さまよい記

東京をあちこち彷徨う日々を、読書によるこころの彷徨いとともにつづります

左内坂(杉並)の坂名の由来

2024年04月06日 | 坂道

かなり前に「左内坂(杉並)」の記事で杉並区堀ノ内三丁目8番地と13番地との間にある小坂(現代地図)を紹介した。左はその坂の中腹付近の写真(2013年4月撮影)で、坂上に向かって左に左内坂教会がある。そのHPによると、創立は1932年(昭和7年)7月11日である。
左内坂(杉並)中腹

この坂名の由来について市ヶ谷にある同名の坂と同じように名主のような人名かもしれないのようにその記事に書いた。最近、これについて次のコメントがあった。

『左内坂教会は市ヶ谷の左内坂にあった左内坂教会が堀ノ内に移転してきたのです。左内坂教会・左内坂幼稚園の前の坂がその内いつしか左内坂と呼ばれるようになったようです。』

このコメントについて大いに興味を覚えたが、いろいろと忙しいことがあって、年をとると2つ以上のことを並行して行うことも難しいせいもあり、おまけにちょっと時間ができて戦前の牛込区市ヶ谷の地図から調べたら、左内坂教会が示された地図を発見できず、ようやく文献に市ヶ谷の左内坂教会の記載を見つけ、次のことがわかった。

昭和5年(1930)牛込区市谷左内町付近地図 市ヶ谷の左内坂にかつて左内坂教会が存在した。創立は明治7年(1874)7月11日、住所は市谷左内町二九。

左は、昭和5年(1930)の牛込区市谷左内町付近の地図で、外堀通りの「市谷見附」駅の右すぐ左折する道筋が北へ延びているが、これが左内坂で外堀通りから上る。坂上辺りに市谷左内町「29」番地が見えるが、左内坂教会は示されていない。

創立が明治7年(1874)7月11日とかなり古い。明治政府は、当初、徳川幕府のキリシタン禁制を踏襲したが、米国などからの外圧や条約改正等のためこれを断念し、明治6年(1873)2月19日キリシタン禁制の高札を撤去した。その翌年に設立されているので、日本のキリスト教会の草分け的な存在といってもよさそうである。しかし、左内坂教会についてのさらなる文献は見つけることができず、左内坂教会が市谷左内町から杉並堀ノ内に移転した経緯や理由は不明である。

一つ注目されるのは、新旧の左内坂教会の創立日が同じ(7月11日)であることで、これは偶然の一致ではなく杉並の現教会の創立を元の教会の創立日にあわせたためのように感じられ、この創立日一致が、移転の事実を裏付ける証左のように思われる。

市ヶ谷の左内坂の坂上にあった左内坂教会が戦前杉並の現在地に移転し、その教会名を引き継ぎ、そこにたまたま坂(本家本元の左内坂よりもかなりの小坂)があったため、その坂が左内坂とよばれるようになったというのが、左内坂(杉並)の坂名の由来のようである。

そうだとすると、大変おもしろい坂名の付き方である。坂にある施設の名称がその坂名で、その施設が移転し、移転先でもその坂名の施設名を使用したが、そこに坂があったため、その坂にその施設の坂名がついてしまった、ということで、他の同じ例がすぐに浮かばない。この点でユニークな坂ともいえそうである。

なお、上記地図の同番地に東京学院があるが、東京学院は、アメリカ北部バプテスト(キリスト教プロテスタントの一教派)が1895年(明治28年)9月10日に築地居留地に設立した男子校で、1899年(明治32年)9月14日に東京学院と名称変更し、同年10月28日に牛込区市谷左内坂町29番地に移転した。関東学院の源流の一つ(wikipedia)。東京学院と左内坂教会との関係は不明。市谷左内坂町は、明治期までの町名で、明治44年に消滅し、市谷左内町となった。

ところで、日本キリスト教団所属の都内の教会の中で坂名が付いた教会として、左内坂教会以外に、十貫坂教会、鳥居坂教会、麻布南部坂教会、霊南坂教会、行人坂教会、柿ノ木坂教会、上富坂教会などがある。

参考文献
「新宿区史」昭和30年3月 新宿区役所
「地図で見る新宿区の移り変わり 牛込編」1982年 東京都新宿区教育委員会
海老沢有道・大内三郎「日本キリスト教史」(日本基督教団出版局)
本間信治「江戸東京地名辞典」(新人物往来社)
横関英一「江戸の坂 東京の坂(全)」(ちくま学芸文庫)
山野勝「江戸の坂 東京・歴史散歩ガイド」(朝日新聞社)
岡崎清記「今昔 東京の坂」(日本交通公社)
石川悌二「江戸東京坂道辞典」(新人物往来社)

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善福寺川 桜(2024)

2024年04月03日 | 写真

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