日々是好舌

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人一倍 持っているのは 土鈴です

2016年12月12日 11時09分23秒 | 日記


 人類がいつの頃から鈴を用いているのかについて確たる定説があるわけではない。しかし、縄文時代の遺跡などから焼き物の鈴、所謂「土鈴」が出土し、弥生時代には銅鐸の存在が知られている。古墳時代に作られた埴輪の人物や馬や犬には鈴をつけたものがあり、古墳からは金銅や白銅製の鈴のついた馬具などが出土している。

 文献的には『日本書紀』の顕宗紀の置目という老婆に関する記述に「縄の端に鐸を懸けて鳴らし、取次の者に到着を知らせよ」と詔したとあるのが古いようだ。

 律令国家が成立すると駅馬伝馬の制度が整備されるが、このときに出来たのが駅鈴である。駅鈴は官吏が地方へ公務で出張するときに伝符とともに朝廷より支給されたものである。この鈴の威力たるや絶大で、官吏は鈴を鳴らすことによって官吏たる身分を示し、駅に着いて伝符を示せば、次の駅までの馬や舟や人足を用意させることができた。その内容は、官吏一人に対して駅馬一疋を給し、駅子と呼ばれた人足二人が随行し、うちの一人が駅鈴を持って馬を引き、他の一人は官吏と馬の警護をしたのである。

 鈴は縄文時代に胡桃の実や豆の莢を振ると音がでることから着想を得て作られた道具というのが有力な説のようだが、私は鈴の割れ目から胎児を孕んだ女体を模した物ではないかと勝手に解釈している。

 土鈴の一般的な作り方は、先ず、粘土を丸めて中に入れる玉を作る。これを紙や布や木の葉などの燃えるもので包んでおいて、それに粘土をかぶせて成形し、割れ目の部分を切り取り、乾燥した後に焼成すれば燃えるものは灰になって割れ目からこぼれ出るので中空の鈴ができるという寸法である。金属で鋳造する場合も似たような手法ではないかと思われる。

 近代において鈴を愛した人で最も有名なのは伊勢松阪の人で国学者の本居宣長であろう。彼は鈴を愛して古鈴を収集し、自らの住居を鈴屋と号していた。宣長のところに集められた鈴は青銅製や鉄製の由緒あるものである。

 さて、いつもながらの冗長な前置きはこれくらいにして私の趣味の土鈴蒐集について申し上げよう。私が蒐集しているのは江戸時代以降に各地の郷土玩具や縁起物として作られている土鈴であるが、例外として台湾のタイヤル族の魔除けの鈴や唐招提寺の推古鈴や駅鈴のレプリカなど金属製の鈴も僅かながらある。

 私は若年の折りに横浜市南区の弘明寺界隈で数年間暮らした。薄給の身であったから東京銀座の勤務先まで往復する以外はほとんど外出も出来なかったのだが、時折、路線バスに乗って近くの鎌倉へは遊びに行った。あるとき鎌倉の鶴岡八幡宮近くの土産物屋で鳩をあしらった焼き物の鈴を見つけ記念にと思って一つ買い求めた。思い起こせば今からざっと四十五年も前のことになる。この鳩土鈴はその後もずっと私の傍らにあって転居すること十四回目の今の住居でも居間の飾り棚に大事に並べられている。

 その後も旅先などで土鈴を見つけると買って帰ったものがざっと三〇〇個ほどもあるだろうか。居間の壁に設えた棚に所狭しと並んでいる。その一つ一つに旅の思い出があるわけだが今ではすっかり忘れてしまったものもある。

 今この原稿を書きながら憶えているものを幾つか拾ってみよう。

 「虫切の鈴」は、甲府市御岳町にある金櫻神社の鈴だが、最近作る人が途絶えたと仄聞した。土鈴五個を紅白の糸で結び、子供の腰に付けておき、これが割れると「虫が切れた」と喜ぶというお呪いの鈴である。金櫻神社は「日本三御嶽」の内の「花の御嶽」と呼ばれ、虫切の鈴は日本三土鈴の一つとされる。

 「英彦山ガラガラ」は、大和の大峰山、出羽の羽黒山と並ぶ修験道の三大霊場の一つである九州の英彦山の鈴で、これも日本三土鈴の一つに数えられている。五個の小さな素焼きの土鈴に青と朱で彩色し、藁しべで無造作にくくった素朴なもので、振るとガラガラと鳴るからガラガラと呼ぶのである。「英彦山ガラガラ ガラガラ鈴は 魔除け虫除け男除け ホラセ 娘年頃 英彦山詣で 鈴をながめて思案顔 ホラセ♪♪」この「英彦山ガラガラ踊り」という歌の作詞者は作家の野坂昭如氏である。

 唐津くんちの赤獅子青獅子」の土鈴は、明日が曳山という前の日に唐津神社の隣の曳山展示場で購入した。「赤獅子青獅子浦島太郎、義経鯛山鳳凰丸飛龍、金獅子武田上杉頼光、珠取鯱七宝丸♪♪」と子供が唄うように現存する十四の曳山の一番目と二番目を模った土鈴である。この「唐津くんち」というのも「長崎くんち」、「博多おくんち」と並び「日本三大くんち」の一つである。

「大井神社の干支土鈴」は、日本三大奇祭の一つ「島田の帯祭り」で知られる静岡県島田市の大井神社の鈴で十二支セットでいただきたいと社務所へ申し出たら若い巫女さんが一瞬びっくりしたような表情を浮かべたことを憶えている。

 「高砂族の魔除けの鈴」は、台湾の烏来温泉へタイヤル族の民族舞踊を見に行ったときに見つけて土産に買った。真鍮を鋳造したもので呪いの模様が描かれ肉厚に出来ている。この鈴は音色もきれいで大きさも手ごろなので紐をつけて腰に吊るし、安倍川上流の山奥で林道工事をしたときに熊除けの鈴として使った。

 何しろ三〇〇個ほどもあるのだから他にも色々あるのだが限が無いからこの辺で端折っておく。

 土鈴について興味のある方は岐阜県郡上市白鳥町の「日本土鈴館」を訪ねるとよい。ここ には日本各地の土鈴一万六千点以上を展示しているから壮観である。

◆ さびしいときは土鈴を鳴らす 白兎
コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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土鈴蒐集 (ふきのとう)
2016-12-13 16:37:15
自由律句いいですね!

終活で土鈴を処分してしまったのが悔やまれます。
私には白兎さんのように知識もないですし、蒐集と言うよりは
招集に近い物でしたので。
始めは拒んでいたリサイクル屋さんが渋々引き取ってくれたのでした。
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茶の実土鈴もありますよ。 (秋山白兎)
2016-12-14 09:06:30
土鈴と酒盃とフクロウは意識して集めました。
ふきのとう作の茶の実土鈴もご主人作の平盃も大事にしております。
我が家でも息子は興味がありませんから散逸間違いなしです。
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