日々是好舌

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還暦を過ぎて作法を知らぬ奴

2012年02月02日 10時40分43秒 | 日記
 刑務所を出所したばかりで行く当てのない人はどうなるのかというと、法務省の保護観察所が民間へ委託して一時預かってもらう「緊急的住居確保」という制度がある。本人はその間に働き場所を探すということである。

 その制度に法って留置所から釈放されたばかりの男を一晩だけ泊めてやってもらいたいという要請があった。宿舎の部屋に空きがあったので快諾した。

 その人物は私よりも半年ばかり年長で一見温厚そうな感じであった。
 役所からは食費・交通費などに当てるためのお金「更正援助金」3000円を支給されたという。全財産現金3000円と自転車1台の老人は内縁の妻とその間に儲けた息子からも見放され、頼れる友人もなく何とかして欲しいと検察庁で保釈を受けた直後、保護観察所へ相談にいったらしい。

 役所のすることだから預かる本人の氏名、本籍や犯した罪状も書いた書類がある。預かる側「更生緊急保護受託者」もあらかじめ資格審査の書類を提出してある。プライバシーの問題もあるから詳しいことは差し控えるがあまり感心しない前歴の持ち主である。
 前科前歴は悔い改めれば済むことだが、一番困るのが働く意思の無いことである。今回の老人も血圧が高いから、腰が痛いからなどと健康不良を訴えてまるで働こうという意思を示さないのである。

 私の立場は、一夜の宿の提供を求められただけであるから、必要以上に立ち入った干渉は避けたいのであるが、本人が色々と話しかけてくるからついつい話が弾んでしまうのである。

 本人が言うのには詐欺や窃盗の前科前歴があるのだそうだが、困ったことに本人は大して悪いことはしていないという認識である。自分よりもっと悪いことをした奴が捕まっていないから不公平だなどと嘯いているのである。諺に「盗人にも三分の理」というが泥棒にも言い分はあるのだ。

 私が引き取りに行くと、その老人は自分の自転車で行くからと主張して保護観察所の観察官をてこずらせていた。観察官が自転車は預かってやるからと言っているのにそれでも自転車で行動したがるのはどうやらバス代を使いたくないからだと見抜いたから、明日の朝も車で送ってやるから心配するなと言ったらようやく自転車を預けて車へ乗り込んだ。後部座席の荷物を片付けて乗るように言ったのだが、そんなことには聴く耳を持たず私のジャンパーを尻に敷いたまま座っていた。

 独身寮は賄いがあるわけではなく、入寮者は自炊の者もいれば外食の者もいる。65歳のオジサンに夕飯は何を食べたいのか訊いたら食べなくてもいいなどと殊勝なことを言っていた。何しろ3000円しか持っていないのであるから先のことを考えたら食欲も湧かないのかもしれない。

 飯は俺がおごってやるからと言って、行きつけのラーメン屋へ行ったら運悪く休みだった。それで近くの蕎麦屋へ入った。メニューを見せて好きな物を頼むように言ったら、何でもいいのでというから天麩羅付きの釜揚げウドンを頼んだ。しばらくすると美味しそうな天麩羅と釜揚げウドンがきたので食べた。すると本人は天麩羅にはほとんど手をつけないのである。
どうしたのかと訊くと豚箱の食べ物は油で揚げたものが多くて油で揚げた天麩羅は食べたくないというのである。だとしたら最初からそういえば良いのである。

 渡世人の世界には「仁義」というのがあって旅人はこれによって一宿一飯の恩恵にも預かれるのであるが、先ずは仕来たりどおりの仁義の口上を述べ、食事や寝るときも作法があってなかなか簡単には済まないのである。
 例えば、客人には茶碗二杯の飯を出すのが習いだが、客人は一杯目の飯に少し窪みをつけた程度でお代わりをするのが礼儀だとか、魚の骨や鱗まで残さずに白紙に包んで持ち帰るものだとか細かな作法があるのだ。
寝るときの布団は柏布団といって一枚の布団を二つに折って間に挟まり、壁に背中を向けて寝るのである。

 私は博徒でもなければ香具師でもないが土建業界にもかつては仁義があって長老達から一通りの講釈は聞いている。こんな野郎がのこのこやってきて一晩泊めてくれろなどといったってまともに相手には出来ないのである。

 保護観察所からお預かりしたオジサンは暖かい布団で一夜を過ごし、若い衆が寮を出る6時30分に私の車で市の中心街まで送ってやってそこで別れた。市役所へいって生活保護を申請するのだといっていた。

 
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