杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

シェイプ・オブ・ウォーター

2018年03月09日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2018年3月1日公開 アメリカ 124分

1962年、冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働く女性イライザ(サリー・ホーキンス)は、研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物(ダグ・ジョーンズ)を見てしまう。アマゾンの奥地で神のように崇拝されていたという“彼”の奇妙だがどこか魅惑的な姿に心を奪われたイライザは、周囲の目を盗んでこっそり会いに行くようになる。幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要だった。音楽にダンスに手話、熱い眼差しで2人の心が通い始めた時、“彼”がまもなく実験の犠牲になることを知ったイライザは、“彼”を救うため毅然と立ち上がるのだが・・・。

 

「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロが監督・脚本・製作を手がけ、2017年・第74回ベネチア国際映画祭の金獅子賞、第90回アカデミー賞の作品賞ほか4部門を受賞したファンタジーラブストーリーです。種族を超えたラブストーリーが残酷さとユーモラスを織り交ぜた極上の大人のファンタジーになっています。ファンタジーではありますが、際どい描写もところどころにあって子供と一緒に楽しむのは難しいかも。その意味でもオトナの物語ですね。

冒頭、イライザの日常が描かれます。昼夜逆の仕事のため、アイマスクをしているイライザが目覚ましで起き、バスタブにお湯を張りながらゆで卵の準備をし、お湯に漬かりながらある習慣行為を行い・・一連の動作は単調でモノクロのイメージですが、やがて“彼”と出会い心を通わせるようになると楽し気なカラーイメージへと変わっていくのです。特に卵がお湯の中で踊る様子が彼女の日常の変化を如実に伝えています。

イライザは声が出ない=話せないハンディを背負っています。彼女の親友ゼルダ(オクタビア・スペンサー)は黒人であり、隣人のジャイルズ(リチャード・ジェンキンス)は同性愛者で、いずれもこの時代、この場所でのマイノリティです。対する軍人のストリックランド(マイケル・シャノン)は白人で家庭持ち、出世コースにある人生の勝ち組として描かれています。

ロバート・ホフステトラー博士(マイケル・スタールバーグ)、通称ボブ、本名はディミトリはソ連出身の科学者でスパイでもありますが、研究対象である“彼”に知性と感情があることに気付き、“彼”の生体実験に反対します。(そもそも“彼”が捕えられたのは、宇宙への米ソの競争の激化が理由。地上と水中両方で呼吸のできる生態を解明し相手国より早く宇宙開発に勝利したいからなのね。)ソ連側から“彼”を持ち出せないなら殺せと命じられますが、イライザと“彼”の交流に気付いた博士は、イライザに協力して“彼”を逃がす手助けをしてしまいます。それはやがて彼の命取りになっていきますが、それでも博士の中で後悔はなかったと思うなぁ

イライザに“彼”を救う手助けを請われたジャイルズは自分にできることはないと断るのですが、好意を寄せていた店主に拒絶されたことで自らの孤独と“彼”やイライザの境遇は同じことに気付き、イライザへの協力を申し出るのです。ジャイルズは店主に会いたさに彼が絶賛するクソ不味いパイを買いに通っていましたが、冷蔵庫に溢れんばかりに詰め込まれたパイが彼の想いを代弁していて可笑しいやら哀しいやら この店主は黒人客を追い返し、ジャイルズのことも不健全と嫌悪しますが、それは当時のアメリカの白人男性の考えそのものなんですね。 

ゼルダはイライザの10年来の親友です。互いに差別される側であることが根底にあったとしても彼女たちの友情は本物。

イライザの“彼”への気持ちを知り彼女を助けます。ストリックランドに詰め寄られても頑として口を割らなかったのに、普段は椅子から動こうともせずゼルダを顎で使うだけのダメ亭主がベラベラ喋っちゃうんですね~ おそらくはゼルダの亭主に対する我慢はここで切れたと思うなぁ~

ストリックランドは初めから“彼”に高圧的です。もしストリックランドに観察力があったなら、高圧電流による拷問で血を流し弱っていた筈の“彼”の驚くべき回復力に気付いた筈ですが、実験動物としか見ていない“彼”に手指を噛み切られてからは憎悪しかないようです。トイレ掃除をしていたゼルダとイライザがストリックランドと出会うシーンでは、一見紳士風な振る舞いをしますが、ゼルダに侮蔑的な態度を取ります。(聖書から引用したゼルダのセカンドネームの件については後にも登場しオチがつけられますが、ここはよくわからなかったなぁ)それだけでも似非紳士ぶりが暴かれています。(大体、用を足す前に手を洗う意味わかんないし)イライザに言い寄る姿は醜悪に映り、消えた“彼”のことを聞かれた時のイライザの手話( Fuck you)はイライザの精一杯の抗議行動に見え痛快でした。“彼”を逃した失敗を上司のホイト将軍(ニック・サーシー)は 許さず、追い詰められたストリックランドは狂気に駆られていきます。噛み切られた指をイライザが見つけて縫合されているのですが、当時の医療水準では神経が繋がるどころかまともな感染対策もされていなかったようで、次第に腐り悪臭を放つ様と相まってストリックランドの人生の歯車の狂いようが映し出されていくのです。

初めは半魚人にしか見えなかった“彼”がイライザと心を通わせ、遂には結ばれる頃には、その容姿がさほど気にならなくなっているのが不思議。それだけ二人に感情移入してきたということかしら。大きな目も青く光る体も美しく見えるのです。

バスルームを水で満たし抱き合う場面はまさにファンタジー。(現実としては階下の劇場が水浸しになって“彼”の存在がばれそうなものですが)ストリックランドに撃たれたイライザが“彼”に抱かれて水中に消えるラストもある意味ハッピーエンドですね。


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