月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

夏のある日、河瀬直美監督の「光」を鑑賞。

2017-08-11 14:05:16 |  本とシネマと音楽と




先日から、吐くくらいに難解な仕事をしていたので、その後、お仕事が2日途絶えて
7日(月曜)まで入らないことに内心はホッと安堵していた。

日曜日だったので、以前から観たいと思っていた河瀬直美監督の「光」という映画を観る。

小さな、古い流行らない映画館で、先週からの疲れを引きずっての鑑賞だった。
冒頭のシーンから2秒くらいで、すでに映画世界の中に自分がいた。
良い作品。こんなに秀作の映画をなぜ、こんな小さく流行らない劇場で観なければいけないのか、そこに無償に腹が立った。

ミニシアター系も好きで時々は足を運ぶのだが、そこの10倍は劣る映画館。
午前中の観覧だったので、コーヒーとクッキーもしくはスコーンでもないかなと思ったが、

ポップコーンが2種類と、自販機があるだけで、(ビールが1種類だけ売られていたが)チェロスなどもちろん無いし、
店員が機械をセットして煎れてくれるコーヒーや紅茶すらないのにも腹がたった。
古い上に、埃っぽい空気の中での映画鑑賞など、思っただけで気落ちする。

いや、こんな優れた作品をなぜ堂々と大きなスクリーン劇場がある映画館でせず、
ディズニー系などのエンタメ系に推されてしまっているのか、日本の映画事情にまず腹がたってしまった。
(すいません)

「光」は、こんな話である。
情景を言葉で説明する視覚障碍者向けの(映画の)音声ガイドの仕事をする美佐子と、
弱視のカメラマン雅哉との、仕事を通しての葛藤や互いの人生観や、そして愛が描かれている。
命よりも大事なカメラを手にしながら、次第に視力が奪われていく雅哉の言いようのない孤独も。

視覚障碍者の人が、ごく自然に映像が浮かぶように、説明しすぎず丁寧な言葉だけの描写を心掛ける音声翻訳(音声ガイドの訳)という仕事。
言葉をひたすら、丁寧に研ぎ澄ませて、シンプルに。でもキチンと説明するというのは、
なんて難しいのだろう。だって主人公の美佐子には目が見えているのだから。

彼女や彼を支える人達のぬくもりと掛ける言葉。
そして、天才カメラマンの才能を嫉妬し、カメラを盗もうとする仲間(時代の潮流にのしあがりたいカメラマン)との、諍い…。
ラストでは、題材になっていたもうひとつの映画をキチンと鑑賞させるという度量もある、いい映画だった。

自分に素直に、誠実に生きるということは、大変なことだ。
前を向いて生きようとすればするほど、泥臭くかっこ悪い、誰しも。ということを、
映画の時の中で、見せつけられた作品だった。

映画を、誰よりも愛し、映画は人生そのものだという河瀬直美監督の、思いが
画面から情熱的に湧き上がってくる作品。

例えば、自殺をするかもしれない痴呆の母の元へ必死で向かおうとするのに、
雑木林の中でぬかるみに足をとられて、ドロドロの靴のまま、はまり込んで抜けられない、美佐子の姿の中に。

あるいは、日々光を、視力を失っていくカメラマンの雅哉が、酔っ払いのゲロでこけてすべるシーンの中に。
それでも起きて公衆洗面所でドロドロの背広を洗い、(命より大事な)カメラを後輩カメラマンから取り返しにいく雅哉の悲痛なまでの哀しみ。
「2度と使えないとわかっていても、自分の心臓と同じ、ここで鼓動しているんだよーー」とカメラを手に叫ぶ雅哉。

もう一つの映画の作品。
著名な芸術家が足をとられながらも砂の山を這い上がるシーンで。失った妻は彼の元へ帰らない。それでも生きる、光を求めて生きる姿…。

ともかく、捨てカットも、捨て科白も、一つもない。


自分の仕事を一生懸命に全うすること。
人を愛すること。誰かを必死で支えようとすることも。
夢中で生きるということは、それだけで人の心を鷲掴みにするんだと、この「光」という作品で改めて痛感する。
奈良へ行くたびにこの映画を回想するだろう、素晴らしい作品(光)だった。









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2 コメント

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ネット小説 (アンデル)
2018-09-26 00:37:17
omachi様
ありがとうございます。
ネット小説をこれまで読んだことがなかったのですが、最近偶然に読むことができました。noteにて面白いものに遭遇しました。
今度ぜひトライしてみます。教えてくださってありがとうございます。
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Unknown (omachi)
2018-09-13 21:41:35
歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

読み通すには一頑張りが必要かも。
読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
ネット小説も面白いです。
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