「土木を通して長期的・全体的思考を学ぶ」
都市科学部都市社会共生学科2年 伊藤 紀奈
東日本大震災では、津波警報の影響で海沿いの東名高速道路が通行止めになったが、少し内陸に位置する新東名高速道路を利用することによって、西側から東北へ緊急車両を派遣することができた。ほぼ並行するような形の両高速道路だが、どちらかが機能不全に陥った場合でももう片方を利用することで、人の流れや物資の輸送を止めずに済む。このことは、道路を網の目のように張り巡らすことの重要性を物語っている。また、羽田空港のD滑走路の建設においては、高額の材料を局所的に使用することで、別の部分に使用する材料の量を減らすことに成功するなど、全体としてのコストカットを実現していた。
これらの事例から導き出せるのは、「その時・その箇所にかかるコスト」だけを見るのではなく、「将来的・全体的にどのような利益と不利益を生み出すのか」を考える必要があるということである。言い換えれば、短期的・局所的に考えるのではなく、長期的・全体的に捉えることが重要であるということだ。これは、フロー効果とストック効果の議論にも共通するものである。
目先の利益だけを見ることは簡単だが、長期的な視点を持つことはなかなか難しい。長期的・全体的思考には、熟考と想像力が必要とされる。深く考えることを放棄して、つい簡単なほうに流されてしまうことは、誰にでもあるだろう。私自身、コツコツ学んでいたら将来役に立つとわかっていても、「今は遊んでいていいや」と逃げてしまうことがよくある。また、大学で書いたレポートに対して先生から「現在起きていることだけでなく、歴史的な経緯も含めて考えてみたらどうか」と指摘されたことがある。これは、長期的な視点を持って研究することができておらず、他人に言われるまで長期的な視点の必要性に気付けていなかったことを意味している。
このように、普段から長期的・全体的思考を自然に取り入れて生活することは、かなり難しいのではないだろうか。しかし、このような思考は重要である。だが、長期的・全体的思考の癖がついていないと、つい短絡的に考えてしまうと思う。癖をつけるという段階まではいかなくても、せめて長期的・全体的思考の事例や方法を一度でも知ることで、その後の人生は多少なりとも変わるのではないだろうか。
そこで、土木が登場する。土木の世界には、長期的・全体的思考で成功した例が多くあるだろう。もちろん、そのように考えたはずなのに失敗してしまったという例も。土木を学ぶことは、長期的・全体的思考の方法を学ぶことにつながると考える。土木のように巨大で寿命の長いものを建造することについて考えることで、長期的な思考や大きい捉え方が身につくのではないだろうか。
また、実際に造るための専門知識まで学ばずに、事例を知ったり、想像したりするだけでも、長期的・全体的思考の根幹を学ぶことができると考える。実際に、私は都市社会共生学科の学生であり、土木に関する知識は皆無の状態でこの講義を受講しているが、そのような人間でも土木を考える際に重要な長期的・全体的思考のヒントを学ぶことができていると感じる。土木を学ぶ意味とは、専門知識を身につけることだけではなく、土木ならではの思考方法について知ることができるという点にもあるのではないだろうか。土木を専攻しない人間が土木を学ぶ価値は、そこにあると思う。
長期的・全体的思考は、日常生活では意識しづらいが、生きていく上で重要な考え方であると思う。その習得方法として、土木は格好の題材なのではないだろうか。土木を専門にする人もそうでない人も、土木を通して長期的・全体的思考を学ぶことができると考える。
最新の画像[もっと見る]
-
YNU dialogue 「福島の今を知り、100年後の豊穣な社会を考える」のご案内 2ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第2回セミナー(3月22日(金)15:30~、オンライン) 3ヶ月前
-
都市基盤学科の卒論生たち5名の発表会 4ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
-
元気なインフラ研究所 第1回セミナーと、能登被災地の調査 5ヶ月前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます