ファイティングファンタジー第2段『バルサスの要塞』は、1983年(日本では85年)に発表されたスティーブ・ジャクソンの作品です。前作『火吹き山の魔法使い』の好評を受けるかたちで執筆され、要塞を攻略するキャッスルアドベンチャーと呼ばれる形式のシナリオとなっています。また新要素として魔法の概念が加えられています。
主人公(読者)は、魔法使いの若き弟子となって、ぎざ岩高地にある塔に住む邪悪な妖術使いバルサス・ダイアの要塞に侵入し、彼を倒す事が目的となります。今作の売りのひとつでもある魔法は、魔法点に応じてあらかじめ何種類かを選んでおくシステムとなっています。攻撃用の魔法の他、千里眼、浮遊、怪力など、どれが冒険に有効で必要なのか悩みつつ、持ってゆく魔法を選択することとなります。感覚としては、魔法のアイテムや御札、スクロールを選んで持ってゆくような感じです。
舞台は敵の要塞で、主人公の目的は敵に悟られる事なくそこに侵入することですから、嘘をついて門番を上手くかわすなど、なるべく争いを上手に避けて進む必要があります。要塞の中庭を横切って(ここでも敵を欺く必要がある)、今度は要塞の中に入るために衛兵に合言葉を言わなくてはなりません。途中で敵にやられても、必ずそこで終わりというわけでもなく、牢屋に捕まってそこから脱出する展開になったりと、要塞という設定が上手く生かされています。また要塞内の図書館で調べ物をしたり、バルサス夫人の寝室に飛び込んだりと、要塞内での敵の生活を感じさせる描写もなかなか見事です。それ以外にも堀の真ん中においてある宝箱や、生きている干し肉などの罠も印象的で、こういう細かい世界観にこだわる設定というのは、海外作品ならではの部分だったと思います。
シティアドベンチャーの傑作『盗賊都市』(リビングストン著)や、この『バルサスの要塞』などで得た着想の集大成が、のちに『ソーサリー』として結実しているような感じをうけます。ソーサリー4巻『王たちの冠』は、最終ボスの要塞を攻略する話ですが、その原型をこの『バルサス』に見ることができます。余談なのですが、王達の冠では要塞内に傭兵たちの便所の描写まであって(ご丁寧に汚いイラスト付き)、そこは病気になったり気分が悪くなるトラップになっているのですが、そりゃ傭兵が居ればそういう設備は必ず必要だよな、と妙に納得してしまった覚えがあります。こういう本編とは直接関係のない、細かな描写が作品内世界にリアリティを与え、登場する生物にも実存感を与えたりするのでしょう。
当時遊ばれた方には、お馴染みのヒドラやガンジーを倒すと、バルサス・ダイアとの対決となります。当時遊ばれた方のほとんどが、同じことを感じたと思うのですが、実はバルサス・ダイアは怪物ではありません。若々しく輝く、鍛え抜かれた肉体をもったモヒカンの妖術師なのです。表紙に大きく登場している彼は、実はバルサスではありません。雑魚敵としても登場せず、彼が一体何者なのかは作品中でも語られないまま終わってしまいます。このあたりの不思議な感覚も、海外作品独特のような気がします。
現在遊ぶ場合には、扶桑社より復刻版が発売されています。またFF初期作品で、かなり売れたためかブックオフなどでも入手しやすいと思います。日暮れとともに要塞に侵入して、夜明けとともにバルサスを倒す展開で、実はたった一晩の冒険の話です。そのため非常にコンパクトに纏まっていて、FFシリーズの中でも良く出来た作品の1つだと思います。