盗賊都市はイアン・リビングストンの作で、ファイティングファンタジーシリーズの5番目の作品にあたります。この作品はダンジョンでの冒険ではなく、都市を探索してゆくシティアドベンチャーと呼ばれる形式のシナリオになってます。
物語はシルバーストーン市にある盗賊都市ポート・ブラックサンドに潜入して、街に隠れ住む魔術師ニコデマスと面会を果たし、闇の魔術師サンバーボーンを倒す為に必要な情報を得て彼を倒すというものです。とは言ってもサンバーボーンとの対決はおまけ程度の扱いで、ページのほとんどが盗賊都市の喧騒を描き出すことに費やされています。タイトルどおり『都市』がこの本の中心であり、主題になっています。(直接主人公と対面する事のない)街の領主アズール卿の方が、街の住人の噂話などによってサンバーボーンよりも存在感(恐怖感)があるほどです。
ダンジョンの通路が都市の街路に、部屋が住居に置き換わっただけで、基本的な形は変らないのですが、都市を舞台にすることによりそこに住む住人達の息遣いや生活臭のようなものが表現される事となり、迷宮物とはまた違った冒険を楽しむことが出来ます。中世ヨーロッパの古い都市を散策するかのような、史跡観光気分が味わえるんですね。そのためか、リビングストン作品の中でも人気が高く傑作と言われています。
例を1つ挙げて見ますと、物語を読み進めていくと気付くのですが、この街の周りは超える事のできない高い城壁で囲まれています。主人公は町に入るために門番をかわさなくてはなりませんし、衛兵から逃げる為に城壁によじ登ったりしなくてはなりません。ヨーロッパでも中国でも領主のいるような大都市には、城壁があって外部より遮断されているのが、ごく自然で普通なのだそうです。他民族などからの襲撃や侵略を経験してきた大陸ではそれが当たり前で、城壁というものが発達しなかった日本の都市は、(あちらの常識では)貝がムキ身のままさらされているような状態とも言えるのだそうです。(それだけ日本が安全だったという事ですが)。あちらの人が作ったRPGでは、ブラックオニキスでもウィザードリィでも都市は壁に囲まれていましたから、そんなところからも歴史や文化の違いに触れることができて興味深い気がします。(マイト&マジック、バーズテール、みな都市が登場するものはそうですね)
それ以外にも街の広場でカーニバルが行なわれていたり、桟橋に奴隷船が停泊していたりと、中世ヨーロッパの世界観の中に引き込まれる仕掛けがたくさんしてあります。ファイティングファンタジーの中でも簡単だといわれる作品の1つですから、もし機会があれば(サイコロを使わずに)読むだけでも面白いかもしれません。