私の優しくない先輩は、2010年に公開された青春映画。講談社発行の日日日(あきら)氏の同名小説を原作としている。
物語の舞台は、九州にある架空の島火蜥蜴島。その島に病気療養のために引っ越してきた16歳の西表耶麻子(西表 ヤマコ)は、心臓に重い病気を抱えている。そんな中憧れの先輩である南愛治君に思いを寄せるが、その気持ちを伝えることはできないままでいる。そこに大嫌いな存在である不破先輩が絡んできて、物語は展開してゆく・・・。
CMなどで注目された若手女優の川島海荷さんとお笑いコンビはんにゃの金田哲さんを主演に、アニメ監督として有名な山本寛氏が初の実写映画として撮った作品。ヤマコの両親役として、プロレスラーの高田延彦さんと小川菜摘さんが出演している。チープな宇宙空間を背景にしたヤマコのモノローグで物語が始まり、間に突然ミュージカル風のダンスが挟み込まれるなど、どことなくアニメ監督っぽい演出がされている。物語は、病気のため内省的なヤマコの独白(精神世界)を軸にして展開し、そこに熱くて汗臭い(現実)不和先輩が絡んでくるという流れになっている。
アマゾンや映画批評サイトでの評価は、星★★★~★★★★くらいで、公開時には映画批評家やアニメのファン層からは厳しい評価も付いたよう。初見では、アイドル映画としてはまあまあの佳作かなという印象だったのだが、何度か見るうちに意外と計算された演出がされていることに気付く。ヤマコのモノローグで物語は始まり、独白によるエピローグで締めくくられるのだが、劇中ヤマコから“ヤマネコ(ヤマコ)、そんな名前の人間がいますか”“人蜥蜴島(ひとかげじま)、そんな名前の島本当にあるんですか”“どこからどこまでがほんとうなんですか”というメタ発言が飛び出してくる。それによって、物語のどこまで現実でどこまでがヤマコの内世界での出来事なのか、見る側にも境界線が曖昧になってくる。そのことが、この映画に一定の深みを与えている。
もう一つは、とても懐かしい感じのする映画だということ。九州の離島(架空の島)を舞台にしているということもあって、町並みの風景に懐かしい情緒がある。実際には、西伊豆がロケ地とのことだが、どことなく尾道を舞台にした大林宣彦の尾道三部作を思い出させせてくれる。また原作が、当時高校生だった作家日日日(あきら)氏によるものだという点からは、同じく高校生作家によるアイコ十六歳を連想させられる。いまどきの映画だというのに、今風のものは携帯(2010年の映画なのでガラケー)以外ちっとも登場してこない。
監督の山本寛氏の世代的なもの(1974年生)もあるかもしれないが、工藤夕貴さんの台風クラブ、薬師丸ひろ子さんのセーラー服と機関銃、菊池桃子さんのパンツの穴、原田知世さんの時をかける少女、高岡早紀さんのバタアシ金魚など、80年代~90年代の青春映画を髣髴とさせる。またアニメ的な演出からは、この当時の漫画やアニメ、ときメモなどのゲーム的な世界観も感じる。お祭りのクライマックスシーンやエンディングでは、長回しを使用しており、それは相米慎二監督からの影響だと監督自身が語っている。
ストーリー的には、ごく普通の映画だと思うが、映像に焼き付けられた学校(生活)がまぶしい。廃校になった小学校や中学校を使用したこともあるのかもしれないが、田舎のなんということもない等身大の学校の風景がさらりと映し出されている。
ワンカット長回しのエンディングは、そのまま主題歌(広末涼子のMajiでKoiする5秒前のカバー)のPVともなっており、出色の出来。星★★★★で、よい青春映画だと思います。
参考:Wiki 私の優しくない先輩、映画・私の優しくない先輩公式サイト
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