人生いろは坂

人生は山あり谷あり、そんなしんどい人生だから面白い。あの坂を登りきったら新しい景色が見えてくる。

地下鉄(メトロ)に乗って

2007-09-05 05:30:24 | Weblog
 浅田次郎氏の原作による映画らしいが、実に発想が良い。地下鉄に
乗ると時代は過去に遡る。地下鉄は、いわば現代のタイムトンネルだ。

 東京へ行くと地下鉄が縦横無尽に走り、都内なら何處へゆくにも
便利がよい。その上、最近ではカードに現金をチャージしてさえ
おけば、その都度、切符を買うこともない。
 それほど便利な地下鉄だが、人の少ないホームは何となく寂しく
不気味な感じさえする事がある。カーブの先は暗く細いトンネルが
何處までも続いている。
 この未知なるトンネルこそが「地下鉄に乗って」と言う映画の舞台
にはふさわしい。この物語は、男兄弟三人とこの子達の父の話である。
父は政界とも繋がりのある実業家。病の床にあるような時にも新聞
沙汰になるような事件を起こしている。

 そして今は生死の境を彷徨っている。長男は父親の生き方に不満を
抱き家を飛び出した時、将来を期待されながら若くして交通事故で
亡くなった。昭和三十年頃の事である。
 次男は、そんな父の生き方に嫌気がさし母親と一緒に家を離れた。
末の弟が父と一緒に会社を経営し生活している。そんな家族関係を
背景に、次男が戦時中の父や戦後の焼け跡時代の父に遭遇する。

 復興期にある東京や焼け跡に闇市が建ち並ぶ東京が画面に映し
出され、あの時代を生きてきた者には妙に懐かしい。そんな懐かしさ
と不正でもしなければ生きては行けなかった闇市時代の父の姿を見て、
やくざのような父の生き方に批判的だった次男の心にも変化が見え
始める。そして、次男の不倫相手だった女の素性も明らかになって
いく。
 これ以上は書くのはよそう。決して明るい映画ではないが、何か
ほろ苦く切ない思いを抱かせる映画である。長い地下鉄のトンネルの
先には、戦後の何もない焼け跡から立ち上がり、一生懸命生きてきた
時代があった。
コメント
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