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木彫り梟と猪と老彫刻家

(道路端で木彫りをする老人)

二日間の中山道歩きで、途中に出会った印象深い老人のことを書こう。1日目、宮ノ越宿から薮原宿の間の街道で、交通量の多い道路に面した民家の窓にたくさんの木彫が飾られているのを見つけた。そしてすぐ先に道路端の狭い庭で、足を投げ出して坐り、木彫りをしている老人がいた。


(奥の小屋は木彫でいっぱい)

目が合って「これみんなおじさんが彫ったの」「そうだよ、見て行くかい」老人は立ち上がって作品が並んだ奥の小屋に導いた。小屋には何十体もの木彫りの動物が足の置き場の無いほど所狭しと並んでいた。フクロウやイノシシが多いのは比較的彫りやすいのだろう。「売り物なんですか」「いや、一度、町の文化展には出したけど趣味だ。まだ始めて一年くらいだよ」「一年で、こんなに、すごいですね」この「こんなに」には、こんなにたくさん、こんなに上手に、の両方の意味が込められていた。「毎日1体ぐらいのペースですね」「なに、毎日やっている訳ではないから」「先生がいるんですか」「誰かに教えてもらったわけではない。ただチエンソーを使って彫った、この二体だけは、講習に行って彫ったものだけど」大きい彫りの荒い木彫を指差しながらいう。「カバですか」という言葉を呑み込んでいると、「犬だよ」これは犬には見えない。「だんだん上手になるんですね」

女房が「勅使河原さんも立ち寄られましたか」「ああ、この辺りも通ったみたいだね」考えてみれば彼女が来たのは去年の秋だから、木彫を始めたばかりで、こんなに店を広げていなかったのであろう。1メートル弱に切った丸太が沢山積んであった。「材料には事欠かないようですね。何の木ですか」「ホウノキが多いよ」下駄の材料にもなるくらいで加工しやすいのであろう。「中が腐りかけたものもあって、補修して使うよ」見ると材料に固まりきっていないボンド状の液体が染み込ませてある彫り掛けの木彫もあった。

きっと街道を歩く人が声を掛けて見ていくのであろう。道路端で作業をしているのはそんな出会いを楽しんでいるのだろうと思った。
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