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秋葉山鳳莱寺一九之紀行(上) 7 藤川の宿(三)

(庭の住人、アマガエル)

昨日の夜から当地は涼しく感じる風が吹いて、ずいぶんとしのぎやすい。昼間の日差しは厳しいけれども、夜は外気を入れると寒いくらいである。庭に散水するとアマガエルがあちこちで鳴きはじめる。アマガエルはその昔子供が返したオタマジャクシから大量に発生し、我が庭を棲家にするようになった、我家の目立たない同居人である。もっとも30年以上も長生きするわけではないから、どこかで何度か代替わりしているのであろう。

一九之紀行の解読を続ける。

《蒟蒻屋の親爺》ハイどなたもお先へ、コリヤァ、兄くじと弟くじへ取るのだな。よし/\、南無奇妙頂礼大山不動明王、この鬮に当らせ給へ。その替り、私好物の品、何なりとも、一生人には、食べさせますまいとけつかる、ハヽヽヽ。サア/\この跡はどなた。
《つちや》俺だ/\、南無妙見大菩薩、このくじにお当て下さりましたらば、本堂建立すっぱりと致して上げます事は出来ませぬが、せめて石の鳥居御寄進もやっぱり出来ませぬから、その替り、提灯一対、これは急度さし上げます事も覚束ない。とんと間違いのない所は、十六文ただ捨てたと思って、絵馬壱枚さし上げましょう。どうぞ当りますように、お守りなされて下さりませ。サアいゝぞ/\、だん/\お順にこれへ/\。

 ト、居並びたる人、段々とくじを切り、仕舞いあとに一本残りたるを、

《一九》ドレ私が見て上げよう。《皆々》どうだ年増か、新造か。
《一九》ハヽァ、うまい盛りだわえ。《皆々》丁当りか、半当りか。
《一九》どっちかしら当りであろう。ドレ/\、廿壱番が残っているから、廿番と廿二番のお当り。
《蒟蒻屋》ヲツト、廿二番、こゝにおわします。
《今一人》廿番はわしが当ったに、コリャア、詰まらねえ。わしは痳病で、出入りは出来ねぇ。望みて人があらば、この鬮売ってやろうか。
《土屋》ヲヽ隠居、おいらが百文で引き受ける。
《隠居》とんだ事をいう。しろものを見なせぇ。コレこの子だ。
《女郎》ヲホヽヽヽ、やぁだにのう。
《一九》弐百、現銭(げんなま)で買いやしょう。
《隠居》負けてやれ。しゃん/\/\。
《一九》コリャ有難てぇ。サア女郎、郎(おとこ)はおれだぞ。おめえは名は何という。
《女郎》たこと言いますでなぁ。
《一九》おたこさんか。よし/\、サアこっちらへ来てくんな。

 ト、手を取っておのれが居所へ連れて来たり。ふとん敷きて寝ようとするに、そこにも早や、大勢床を取りて、押し合い寝かける。

《人々》コレ/\そんなもの、ここに寝さす事はならぬ。寝ると邪魔をして、よっぴと居寝かさねぇぞ。あっちへ行かっし。
《一九》コレハ情ないことを言う。どうぞ寝かして。
《皆々》イヤ/\、ならねぇ/\。
《一九》ハテ、邪見な。恋を知らぬ手合いだ。

 ト、寝間着の尻をからげ、布団一つ肩にひっかたげ、箱枕を二つ手拭にてくゝり、右の手にひっさげ、左の手に女郎を引っ張り、そこ、こゝをうろ/\、きょろ/\、

《客》アイタヽヽヽ、おれが足を酷く踏みやぁがった。
《一九》ハイ御免なせぇ、モシどうぞこゝらに、寝かして下さりませぬか。
《皆々》イヤ、ならねぇ/\。
《女郎》オヽ痛い。誰さんやら、わしの尻をつねらせえた。
《一九》コリャ、悪差礼(じゃれ)をしめえぞ。
《女郎》アレふとんをかぶせて、ひこずりこまっせる。

(この項続く)
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