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「旅硯振袖日記 中之巻」 8

(影武蔵)

天気が回復して、昼前、ムサシ散歩に出る。きょうの影武蔵は妙に鮮やかだ。

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「旅硯振袖日記 中之巻」の解読を続ける。話が急に変わって、この後、まどろんだ写絵の夢の話が入る。

こゝは都の五条の南、猫間中将光実卿(ねこまのちゅうじょうみつざねきょう)の屋形造りの結構さ、内殿侍、腰元ども、さゞめきわたる婚姻の、今日の賑わい、大方ならず。
※ 内殿(うちとの)- 内陣。奥の方にある御殿。

早や御縁女の御入りと、鋲打ち乗り物、玄関より掲げ上げたる。上下の喜び、そも/\猫間光実卿のなり。都之助光春へ、婚姻して来給いしは、当今の北面佐藤兵衛憲清の娘、かねて美人の聞こえある、写絵とこそ知られけれ。されば今日の喜びは、明日の憂いと立ち替わる、世の盛衰こそ是非なけれ。
※ 縁女(えんじょ)- 適齢に達したら戸主の子と婚姻させるため幼少の女性を入籍させたもの。許婚。
※ 鋲打ち乗り物(びょううちのりもの)- 外装に鋲を打った女駕籠。大名の奥方・大奥女中が乗った。
※ 息(そく)- 子息。むすこ。
※ 当今(とうぎん)- 当代の天皇。今上天皇。


こゝに、平家を都の外へ、追い出だしたる、その勢い昇る朝日の木曽義仲、都へ入りてより、功に誇り、将軍の職を望み申して、度々御所へ推参して、公文を奉るといえども、主上、鎌倉へ謙退ましまし、征夷将軍を許されず、仮に朝日将軍の号を、義仲へ給わりける。
※ 公文(こうぶん)- 律令制下における公文書の総称。
※ 主上(しゅじょう)- 天皇を敬っていう語。至尊。
※ 謙退(けんたい)- 控え目に振る舞うこと。謙遜。


その御使いに、猫間中将を遣わされしに、義仲、勅使を畏(おそ)れず、我れ、将軍宣下の事を度々申し上げるといえども、未だその挙用なきは、足下の如き輩(やから)の、支え申すによつてならんと、以っての外に嘲弄なし、
※ 宣下(せんげ)- 天皇が宣旨(せんじ)を下すこと。また、宣旨が下ること。
※ 挙用(きょよう)- 下の地位にいた人を、上の地位にとりたてて使うこと。登用。
※ 足下(そっか)- 二人称の人代名詞。同等、または、それ以下の相手に用いる敬称。貴殿。


傍若無人の有りさまに、光実卿はほうほうの体にて、木曽が館(たち)を逃げ帰り給い、この由、主上へ申し上げられしかば、主上大きに怒らせ給い、宣下のことは差し置かれ、義仲追討の沙汰に及びける。


読書:「蔵前姑獲鳥殺人事件 耳袋秘帖」 風野真知雄著
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