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事実証談 巻之三 異霊部17 総髪の人の告げ

(庭のムラサキクンシラン)

「事実証談 巻之三 異霊部」の解読を続ける。

第36話
享和三年の夏は、おしなべて麻疹(はしか)流行したるに、豊田郡源兵衛新田村、源兵衛方にて、家族麻疹を煩うに、ある日、二人の子供のみ寝たる所に、惣髪の人来て言うよう、我は今は長森村膏薬屋へ行かん。汝が悩みは今より安からんと言いて出て行くを、子供ながらも怪しとこそ思いつらめ。
※ 惣髪(そうはつ)- 男性の髪型である。月代(さかやき)を剃らずに、前髪を後ろに撫で付けて、髪を後ろで引き結ぶか髷を作った形を言う。江戸時代前期からは男性の神官や学者、医師の髪型として結われ始めた。
※ 長森村膏薬屋 -「長森こうやく」は東海道の名物であった。


父の来るを待ちとりて、さる事有りつと語りしに、果して長森村にて、膏薬屋山田与左衛門方にて、煩いそめつと。それより三日ばかり過ぎし後、則ち源兵衛の物語なりしが、月日は記(しる)さゞりき。


第37話
駿河國三輪村、三輪神社の神主、武藤左門の嫡男左膳、二十歳ばかりの比、文化五年と云いし年の七月五日の夜、難病発しつれど、聊か快(こころよ)かりしに、又八日の夜、甚く悩みける故、家族付添い有るに、五日より昼夜看病に労(つか)れければ、病者の少しひまあるに心ゆるみ、皆しばらくまどろみけるに、夢現(ゆめうつつ)ともつかず、惣髪の人来ていうよう、今より快(こころよ)からむと言いけるを、

左膳夢ごゝちにて聞き歓び、人を呼びてそのよしを語り、温石は如何というにより、その故を問えば、今、温石をあてよと言われしを、早く/\と言ひしかば、家族怪しと思えども、甚く歓び、まづ温石温めんと、囲炉裏の火を掻き起して見れば、温め置きたる人もなきに、瓦一つ灰の中に温めたり。いよ/\怪しみつゝ、温石の代りとするに、それにて大きに快く、日あらずして全快せりと、則ち、武藤左門の物語なり。
※ 温石(おんじゃく)- 焼いた石を綿などで包んだもの。冬、体を暖めるのに使った。


第38話
上総国夷隅郡下横地村、元右衛門の一子、享和三年、難病発(おこ)りて難治の症なるを、母甚く悲しみ、抱きて少しまどろみける折り、夢ともなく現(うつつ)ともなく惣髪の人来たりて、一子の難病快気すべしと云うに、驚きて辺りを見るに人なし。しかじかと人にも語りて、怪しみたるに、難病忽ちに快気せりと、同国同郡同所の者と、江戸にて旅宿に同居せし折り、聞きける故、同例には添えつ。
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