歌唱の呼吸

2020年12月21日 | 日記
歌う時の呼吸は、自然呼吸とは目的が違います。日常の呼吸、無意識呼吸とか自然呼吸と言われる呼吸については、ことさら呼吸をしているという意識を持つことはありませんね。しかし歌唱時の呼吸には明確な目的があります。一言で言えば、「体に支えを作るため」です。しからば「支え」とは何ぞや?これが案外わかっていないんですね。実は私も、30代半ば過ぎまでよくわかっていませんでした。「支え」とは、呼気(吐く息)を長持ちさせることなんです。それでは、どうやって長持ちさせるのでしょうか?
その前にまず、呼吸は「呼(吐く)→吸(吸う)」の順序であることを確認しておきたいと思います。吐き切れば空気は反射的に 入ってくるのです。しかし、歌う場合はその入ってきた空気を上手にコントロールして吐く必要があります。また、喋るよりはうんと長いフレーズを歌い切るためには、肺に空気が十分に蓄えられていないといけません。そこで「吸う」という話になってくるわけです。
「吸う」という言葉は誤解を生みやすいように思います。ドイツ語では吸気は「入ってくる息」、呼気は「出ていく息」という言い方で、こちらの方が実情に合っています。というのも、肺は自力では拡がることができず、吸気筋という筋肉をしっかり働かせて空気を取り込むのだからです。この吸気筋のうち、一番大きいのが横隔膜。そして外肋間筋。他にも肩回りの筋肉や大胸筋など、上半身の筋肉が連動しています。横隔膜を完全に下げ切ることで呼気は十分に肺に呼び込まれます。横隔膜が一番下がるのは「あくび」です。あくびをイメージしながら横隔膜が下がり切った感じになるまで、焦らずゆっくり空気をたくさん取り込みます。横隔膜が下がると、その下の内蔵は押されて下がりますが、下がると言ってもスペースが限られているので、やむなく前に押し出されます。それで下腹が膨らむわけです。
さて、問題はこの吸気をどのように効率的に使うか、つまり長持ちさせるか、というところで「呼気筋」が登場するわけです。歌唱時の呼吸は「支え」を作ることが目的ですが、そのためには、吸気筋と呼気筋を拮抗させて、横隔膜が上へ戻る速度をできるだけ遅くすればよいのです。つまり、ゆっくりと下げて「下げ止まり」になった横隔膜をそのまま止めておく気持ちで、一定の呼気圧で少しずつ戻し、3割ぐらい戻ったところでフレーズを歌いきる、フレーズが終わったらその3割分をもう一度吸って取り戻す、そしてまた次のフレーズを一定の呼気圧で歌い出す、という繰り返しです。その「呼気圧を一定にして」吐くために使う呼気筋が、肋間筋、腹直筋、内転筋、骨盤底筋、臀筋などです。
前かがみになってゆっくり息を吸うと、自然に空気が入ってきます。そうして歌うと、横隔膜を下げて空間をつくることができます。
声楽の先生は皆「呼吸」にはかなりのこだわりを持っています。やり方はそれぞれの流儀があるでしょうが、歌唱の呼吸の理屈はこういうことですね。

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