3本柱

2014年01月20日 | 日記
W先生の発声メソッドの3本柱は「あくび」、「ため息」、「笑い」です。どれも自然の生理現象に基づいています。
まず「あくび」から。
あくびをする時の状態をよく観察すると、まず鼻筋が上にぐーっと持ちあがり、軟口蓋が引き上がって大きく開きます。その時横隔膜は自然に下がり、お腹が膨らんだ状態になります。口の中では喉頭蓋が立ち上がり、喉頭が開いています。横隔膜が下がった状態を保つことを「息を支える」と言いますが、お腹がへこまないようにと一生懸命リキむのはとても苦しいので、この「あくび」の状態を保つことで支えるのが理想的です。息は外肋間筋、背筋(最長筋)、口蓋汎挙筋(上あごを引き上げる筋肉)、口蓋汎張筋などが連動することで支えられる、つまり横隔膜が下がった状態が保たれるので、リキむだけでは支えきれません。
次に「ため息」です。ライオンやトラなどの動物の唸り声を真似てみると、息の根が深くなるのがわかります。この時、喉で息を止めずに上へ抜かなければいけません。これができると低音がよく響きます。低音が良く響くようになったらオオカミの遠吠えを真似して、高い音も低い音と同じように深い息で響かせられるようにします。ため息といっても肩を落として上体が縮こまった形ではなく、身体はいつでも開き、肩や胸に力が入っていない状態を保つのです。
最後に「笑い」ですが、これはせせら笑いではなく高笑い、大笑いです。笑い過ぎてお腹が痛くなった、というあの感じです。耳の後ろも痛くなります。大笑いしている時の身体の状態を観察すると、吸気筋(外肋間筋)と呼気筋(内肋間筋)をバランスよく使っています。吸気筋の方を若干多めに使い、横隔膜を動かしています。笑いを音楽的に変換するとスタッカートになりますし、少しゆっくりめのマルカートにしたりして横隔膜を鍛えることもできます。口の中は口蓋垂が上がって見えなくなり、奥歯が思い切り斜め上に持ちあがっています。
普段の生活の中で大あくびをしたり大笑いをしたりすることを習慣づけるといいですね。その時の身体の状態を観察すると、身体を使うというのはこういうことなんだな、とわかると思います。
これらの練習を通してしっかり認識すべきことは、息(吸気)は吸わなくても自動的に流れ込むということです。発声時に大事なのは、この「入ってきた息」をいかに長く持続させるか、です。そのために腹筋、背筋その他あらゆる筋肉が協働するのですから、筋肉組織の動きを知るとともに、全身の筋肉の協働を感覚で覚えることが大切です。

呼吸のメカニズム

2014年01月18日 | 日記
W先生の資料から、今回は「呼吸のメカニズム」の項を少しご紹介します。
いきなり話が逸れますが、以前うちにレッスンに来られていた女医さんが、「最近では肺呼吸は二次呼吸で、脳脊髄液の還流が第一次呼吸であると言われているんですよ」とおっしゃっていたことがあります。W先生から頂いた資料にも、カイロプラクティクの教本に「頭蓋骨は呼吸とともに微視的な動きをすることが解明された」と記載されている、と書いてありました。呼吸と共に頭蓋骨が伸展したり屈曲したりして、一種のポンプ作用をしている、というのです。
W先生のレッスンで習ったことですが、発声時に骨盤の中の仙骨を動かすことで脳脊髄液が上がり、その時に蝶形骨が喉頭骨に押されて篩骨、鋤骨がほんの少し持ちあがるのだそうです。確かに、軟口蓋を上げておいてこの動きをすると声の抜けがよくなるのが自分でもわかります。
息の流れは目に見えないので、感覚で掴むしかありませんが、とにかく息(呼気)はいついかなる時も高速で蝶形骨に向かって垂直に飛ばさなくてはいけません。それにつけても喉の奥を開けて息の道を作っておくことが前提条件です。
呼気が垂直に飛ばないとどうなるでしょうか。息が口腔から出て行くと、息モレのしたかさついた声になります。後鼻孔に流れると鼻声っぽくなります。マスケラ(鼻根)に息を当てると、よく共鳴はするものの硬い声になります。こうした声に対して、息が蝶形骨に垂直に流れると、蝶形骨と接合している各骨洞に共鳴し、特に背後と頭上の空間が良く鳴ります。広い骨洞で共鳴するので、響きの密度が高く透明感があり、明るく輝く立体的な声になります。
このように、息の流れる方向によって共鳴は確実に変わります。うちにいらっしゃる生徒さん方も、まずしっかりと喉の奥を開けておいて呼気を垂直に高速で上げる練習をすると、明るくきらめくとても響きの良い声になり、初めての方でも金属製の譜面台がビーンと共鳴したりします。
呼吸(呼気流)の大切さはどんなに力説しても足りない、と思います。どうぞ強く速く高く呼気を飛ばす練習を大事にして下さい。トランペットのマウスピースを吹くのが一番効果的です。

至高の愉悦

2014年01月16日 | 日記
前評判の高かった「最高の男たちの冒険」第3弾の演奏会に行って来ました。熊本のような地方都市に、N響第1コンマスをはじめこれだけのスタープレーヤーが集まるというだけでも大変なことです。前2回もほぼ満席のお客様でしたが、今回はホワイエに「満員御礼」の懸垂幕が出ていました。憎い演出ですね。これほどの数の人間が動くこと自体、ひとえに主催者の情熱と行動力の賜物だと思います。
今回は「最高のモーツァルト」と題して、演目に39番、40番、41番の3大交響曲が並びました。「今日はこれまでに増して真剣に遊びたいと思います」という開演前のコンマスの挨拶通り、指揮者無しで丁々発止の真剣勝負を繰り広げる30余名の男たちの熱い演奏は、時間が止まったか(あるいは時間の流れが変わったのか)と思わせるような名演奏で、39番、40番、41番とどんどん音楽の密度が高くなっていきました。ジュピターの終楽章では息をのむような音のうねりが現出し、圧巻でした。
何と言ってもこの音色。完全にヨーロッパのサウンドです。ビロードのような肌触りと光沢の弦の音色。弦と全く喧嘩しない、渋く且つ透明な管楽器の音色。弾力に富んだ温かいティンパニの音色。それらが一つになって大きなうねりを形作りながらも、和して同せずの緊張感が満ち満ちていて、このダイナミズムがまたヨーロッパ的です。県立劇場の素晴らしい音響効果も相俟って、これぞ至高の愉悦と言うべきひとときでした。
アンコール2曲目にサプライズが。なんとくまモンが登場して指揮を始めたのです(笑)。写真撮影OKというアナウンスがあったので、私も甥姪に見せたくて動画を撮影しました。7列目19番というかぶりつきの席でラッキーでした。
後期の授業が始まっても咳が抜けず少々疲れ気味だった私ですが、お陰でとっても元気が出ました。明日はセンター試験の準備で大学が休講だし、週末には元気を回復できるでしょう。
ああ、もっと聴きたかった!

喉を開ける

2014年01月14日 | 日記
よく言われる「喉を開ける」ということについて、先日に引き続きW先生の学会発表の資料から引用しつつ考察してみたいと思います。
喉を開ける、というのは、声帯の上にある喉頭蓋というしゃもじのような大きな軟骨を立て、喉頭腔・咽頭腔をあけることです。あくびをすれば自然と喉頭蓋が立ちますが、以下のような練習を重ねることが効果的だと説明されています。

1.口を大きく開け、舌は奥へ引っ込まないように下歯に軽くつける。両手の親指を耳の穴の前のくぼみに入れ、他の指を頬骨の下に置いて持ち上げる。すると口蓋汎挙筋と口蓋咽頭筋が引っ張られ、軟口蓋が上がって口蓋垂が見えなくなる。急激にやるとかなり痛いので、少しずつ慣らす。

2.口を軽く開け、舌は下歯につける。両手の親指を下顎骨のくぼみ(側頭下窩)に入れ、他の指を鼻筋の脇に置き、鼻翼を緊張させて鼻全体を上に上げる。その時に「ンガ」という鼻濁音を発する。また、「ンガ」というつもりで鼻を持ち上げたまま5秒我慢する。

3.口を軽く開け、舌は下歯につける。両手の指を鼻の脇に当て、両手で鼻を挟むようにして持ち上げる。豚の鳴き声のように「ブフォー」という音をたてる。この時、口蓋垂を認識する。

4.両足を肩幅に開き、足の親指を少し内側にする(仙骨が動く)。両掌で口角を思い切り左右に引く。上の奥歯は斜め上へと持ち上げる(こうすると口蓋汎張筋や上咽頭収縮筋などが引っ張られ、蝶形骨、篩骨、鋤骨が約1000分の5ミリほど動く)。

5.両手の親指を口の中に入れ、口蓋垂のまわりを高く拡げるようにマッサージする。

以上はすべて準備運動として発声練習の前にやります。発声時には無理に喉を開けようとせず、普通に口を開けるだけでよいのです。上記のような練習をすると「口の奥って、こんなに開けないといけないのか」とびっくりします。「喉の奥を開けなさい」というセリフは昔から耳にたこができるほど言われてきましたが、どこをどれぐらい開けなくてはいけないのか、この練習をするとよくわかります。日本人は骨格的に喉の奥が開きにくいんだな、ということも実感します。そして何より、いざ声を出す時には喉の奥は「もう開いてます」という状態であることが大事です。
生徒さん達には常々「家では練習しないで下さい」と言っていますが、声を出す練習はしなくていいですから、この「喉を開ける」練習は毎日やって頂きたいと思います。お風呂に入ったら、口に拳を突っ込む練習も是非やって頂きたいです。右手(左手でもよい)の指を揃えて親指を下にしてすぼめ、口に突っ込みます。第2関節ぐらいまで入ったら、口の中で握り込んで拳にして第3関節まで入れます。最初はなかなか入りませんが、毎日やっているうちにだんだん入るようになります。
こうして口や喉を十分に開けることが発声の前提条件です。根気よく取り組みましょう。

リラクゼーション

2014年01月12日 | 日記
今日は県外の教会の聖歌隊のレッスンに行きました。4人のうち3人が体調不十分だというので、あまり身体に負荷のかからないやり方にしようと思い、最初にリラクゼーションを試みました。教会の会堂は十分なスペースがあるので、ここに来るといつも空間を存分に使っていろいろなストレッチをやりますが、このところ冷え込んで身体が硬くなっていることでもあり、今日は仰向けに寝てゆっくり丁寧に背筋をほぐしました。床に接している背面全体を感じながら深い呼吸を数回。足の裏から息を送り出すようなイメージで。完全に弛緩して自然な呼吸に戻してから、次に膝を立てて深い呼吸。また完全にゆるめてから、今度は手のひらを下にして背中に突っ込み、背面で手の甲を押し潰すようにしながら強めに呼気を送り出します。手を抜こうとしても抜けないぐらいしっかり押さえ込みます。そしてまた弛緩。ゆるめている時に睡魔に襲われますが、完全に眠りに落ちる直前の半覚醒状態で何とか持ちこたえて頂きます。背面が床に埋まり込んだような気分になったところで起き上がり、今度は正座をして腰を据えたまま両手を床につき、その手を前方へとスライドさせ、指先をなるべく遠くへ向かって伸ばしながら上体をネコのように伸ばして息をふーっと吐きます。元に戻して、今度は腰を高く上げながら同様に。腕の付け根や脇腹が気持ちよく伸びます。次に両足の裏を合わせて内転筋を伸ばしながら息を吐きます。
これだけやってから立ち上がると、足の裏が床に吸い付いたように重心が下がって安定します。そのまま膝を少しゆるめ、踵に重心をかけて爪先で床をつかみ、息を上へ向かって吐きながら膝を少しずつ伸ばし、腰がよく伸びたらそのままあくびをします。あくびをしながら「アー」と鼻にかかったあくび声を出します。本当にあくびが出たら大成功。
体力が落ちている時のストレッチはこれぐらいがリミットです。後は普段通りにいくつかのパターンの発声をしましたが、体調が思わしくない時は筋肉を使うのが普段より大変なので、下あごに力が入りやすくなります。こういう時は、リップロールや巻き舌に母音を接続するやり方で下あごの力を抜きます。
リラックスというのは筋肉の過緊張をほぐし、伸縮性を高めることですが、発声には体力が要るので、加減を間違うと却って身体が硬くなります。その時々の体調や体力を見極めながら、筋肉に負荷をかけ過ぎないように練習しなくてはいけません。そのさじ加減を的確にコントロールすることも大切な能力です。自分の身体と上手に付き合っていかなくてはいけませんね。