ヤマト王権  シリーズ日本古代史②

2011-05-14 15:18:53 | 日記
吉村武彦著   岩波新書

このシリーズの意図するところが少し見えてきた。
シリーズ②では、ヤマト王権のスタートは崇神天皇から始まったとしている。従来は前方後円墳の成立をもってヤマト王権の成立としていたのだから、だいぶ違う。しかも、その勢力はようやく大和盆地をだいたい制覇するぐらいが勢力範囲ではなかつたかとしている。ただし、特定の地域に基盤を置いた地域政権を離脱した、歴代遷宮ができるほどには純化していた王権ではあった。
と、書いても良く分からないかもしれないが、これまでの学説とは一味違う内容だと思っておいた方がいい。
もうひとつ特長的なのは、シリーズ①と同じように邪馬台国は関西、特に奈良盆地を想定している点だろう。ヤマト王権と(ということは、天皇家と)邪馬台国との関係が良く分からないのだが、ともかく九州説はとっていない。
というわけで、このシリーズが終わるまで結論は先送りのようだ。

王室の秘密は女王陛下のハンドバッグにあり

2011-05-12 17:01:12 | 日記
フィル・ダンビェール、アシュレイ・ウォルトン著  RSVP刊

女王陛下といえば、もちろんイギリスの女王、エリザベス2世のことである。一言で言えば、本書はイギリスの王室のスキャンダル本である。あとがきによると、女性にとってハンドバックの中はシークレットスペースなのだそうである。その中を見ればその人の人格、趣味、私生活まで分かってしまう。そう言えば、私もカミさんのハンドバッグの中なぞ見たこともないが……。
それはともかくとして、なぜ私がこの本を読んでしまったか。それが分からない。この手の話題については、週刊誌すら読まない私なのに。そこで、じっくりと自問自答してみた。結論は。私も結構ミーハーなのだ。認めたくはないのだが……。
まっ、スキャンダル自身はどこの国の王室にでもありそうなことなのだが、スケールが違う。さすが世界で一番金持ちな王室なだけのことはある。とくに女王陛下のハンドバックの話はとても面白い。
ところで、二世の母、エリザベス一世の名前が「エリザベス・バウエス・=ライオン」だってこと知っていました?さすが、二十世紀をまるまる生きた(1900年生まれ、2002年没)人にふさわしい名前だと思いました。というか、名前負けしていないのがなんとも素晴らしい。

農耕社会の成立  シリーズ日本古代史①

2011-05-10 08:11:39 | 日記
石川日出志著  岩波新書

やはりこれだけの時間が必要だったということか。皇国史観から脱却できたこと(まだ尾を引きずっている大臣もいたが…)、もうひとつは、縄文人に取って代わって弥生人が出現した(日本人騎馬民族説が、その最悪のものだが…)という固定観念が修正されたことについてである。
途中、化石捏造事件という忌まわしい事件(もつとも、こうした事件は世界中で珍しいことではない。ピルトダウン事件はその代表例)があり、そのための検証に十数年かかったことは惜しまれることではあったが…。
ところで、本書だが、全6巻ですでに3巻まで出ている。1巻を読了したところだが、新しい視点で書かれているように思える。
従来の考古学では、東北地方は遅れた地方、もっと極端に言えば東北人イコール縄文人、そしてそれらの人々に取って代わったのが弥生人、つまり現日本人という定説?があった。著者は、東北地方の遺跡を丹念に調べて、それが根拠のない仮説にすぎないことを主張している。それを助けたのは、近年開発された年代測定法と、ここ十年で発掘された数々の遺跡である。豊富なデータがこの説を裏付けている。
やはり、こうしたジャンルは最新のデータに基づいたもので読むに限ることを痛感した次第。

刑務所図書館の人びと -ハーバードを出て司書になった男の日記ー

2011-05-07 15:26:51 | 日記
アビィ・スタインバーグ著  柏書房刊

最初の数行で買ってしまった。「受刑者の中で、いちばん司書に向いているのが風俗(ピンプ)の男。逆にまったく向いていないのがサイコキラーと詐欺師。ギャング、銃器密輸人、銀行強盗は群衆整理がうまく……司書の基本的技能に長けているといっていい。ダフ屋や高利貸も悪くない」。どうです。この意表をついだフレーズ。あなただって、買ってしまうに違いない。
ハーバードを出て職にあぶれていた著者が、大した信念もなく就職した先がボストンにある刑務所の図書館司書だった。その著者が、その経験をつぶさに綴ったのが本書。
後は書かない。書く気もない。とにかく面白い。理屈ぬきで楽しめる。まっ、大当たりの本。

佐野洋子  追悼総特集

2011-05-05 09:52:52 | 日記
KAWADE夢ムック   河出書房新社刊

佐野洋子の本は『問題があります』(筑摩書房)、『シズコさん』(新潮社)の2冊を読んだだけで、あとはエッセイをあちこちで読んだくらい。とても絵本には手が回らなかった。前書はとてもユニークな書評で、「こんな書評もありなのか、それにしても面白い視点だな」と思ったし、後書は私も同じような状況だったので半分同感しながらも、しかし結末は納得できなかった憶えがある。それは、私が男で佐野洋子が女だからなのかなぁとも思っている。
この追悼総特集に寄稿された人たちの文章を読むと、彼女の女性らしからぬキッパリしたところがかなり評価されているようだが(それが魅力でもあるのだが)、私には限りなく女性であったと思える。ドライであるようで、実はその発想の源は紛れもない女性のものである。そして、1938年(昭和13年)という時代生まれた者達ではないと分からないかも知れない。誰でも開き直った根っこには、彼女と同じ信念があるはずなのである。ただ、それを心の奥底に秘めて「こんなこと言っても大人気ないか」と不本意ながら自分に納得させているのである。

乾燥標本収蔵1号室

2011-05-02 14:38:01 | 日記
リチャード・フォーティ著   NHK出版

サブタイトルは「大英自然博物館迷宮への招待」。本当は、ゴールデンウィーク前に読了したかった。しかし、ゴールデンウィークの前半をたっぷり楽しんでしまった。
本書は、著者が1970年から2006年まで所属していた大英自然博物館の舞台裏の話である。博物館には、内部(見学者が決して見ることが出来ない場所)に多くの研究者、キュレーター、助手達がいて様々な資料の整理、分類、研究をしている。これはどこの国でも同じらしい。
大英自然博物館には、子供の好きな恐竜や昆虫、化石、植物、鉱物(実際にはもっと細かいジャンルで構成されている)などが展示されているのだが、それはそれぞれの専門の研究者によって系統付けされ、研究されている。
この人達がなかなか面白いのだ。
つまり、一筋縄でない奇人、変人、天才、超が付く真面目人間といった人達が博物館の中を蠢いているのだ。これらの人達のエピソードがとても笑えるのだ。
博物館に興味のある人は、どこかのジャンルで足を止めるだろう(私の場合は昆虫とトカゲ)。読了に時間がかかつたのもこの理由による。
著者は『生命40億年全史』『地球46億年全史』(ともに草思社刊)の著者でもある。どちらも平易な文章とウイットに溢れた好著である。
今から本屋に走っても、ゴールデンウィーク中には読了できないと思う。それほど1ページ、1ページが楽しめる本。