あるニヒリストの思考

日々の思いを綴る

五つの情緒が人間を動かす(自我その67)

2019-03-24 19:59:20 | 思想
ハイデッガーは、「我々は、常に、何らかの気分の状態にある。そして、ふと、自分が、今、どのような気分の状態にあるのか気付く。気分は人間の人間たるゆえんである。」と述べている。しかし、感情、気分、気持ちは、使われ方や使う場所が違うだけで、皆、同じものである。情緒と言い換えることができる。情緒は、深層心理であり、それが我々人間を動かしている。しかし、逆に、情緒は深層心理であるから、誰も自らの意志、つまり、表層心理で、直接的に情緒を生み出すことも変えることもできない。表層心理ができることは、酒を飲んだり、カラオケに行ったり、友人と長電話をしたりして、間接的に、情緒を変えるしか無い。中には、そのような尋常な方法では、辛い気持ちや重い気分を変えられない場合、麻薬や覚醒剤などの違法薬物に頼る人がいる。それほど、情緒は、人間に大きく動かすものなのである。さて、情緒の原因には、肉体的なものと精神的なものの二つがある。肉体的な原因は、身体が直接感じたところから来る。例えば、ラーメンや寿司を食べて喜びを味わったり、胃腸の消化不良で苦しみを感じたりすることなどである。精神的な原因は、人間関係から来る。人間は、常に、他の人から自分が良いように評価されたいという対他存在のあり方をしている。対他存在は、我々の意志に拠らず、我々が意識していないところに存在するから、深層心理である。例えば、他の人から好かれていると感じられると、対他存在が満足し、喜びを感じ、他の人から嫌われていると感じられると、対他存在が傷付き、苦しみを感じる。人間の情緒は、喜び、楽しみ、怒り、悲しみ、苦しみの五つに大別される。ハイデッガーは、人間はふと自分の気分に気付くと述べているが、現在の自分の気分とともに現在の自分の状態にも気付くのである。さて、喜びは、深層心理が、現在の状態に満足し、このままの状態を維持することを、我々に強いるのでいる。例えば、ラーメンを食べていて、おいしく感じると、深層心理は我々に喜びの感情を抱かせ、現在の状態に満足させ、このままの状態を維持することを強いるのである。彼氏(彼女)でデートしていて、彼氏(彼女)に見つめられると、快楽を感じると、深層心理は我々に喜びを抱かせ、現在の状態に満足させ、このままの状態を維持することを強いるのである。次に、楽しみは、深層心理が、未来の状態に期待し、このまま未来の状態を期待し続けることを、我々に強いるのでいる。例えば、夕食に大好きなビフテキ食べることになっていると、深層心理は我々に楽しみを抱かせ、現在の状態に満足させ、このままの状態を維持することを強いるのである。来週の日曜日に、二十年ぶりに幼なじみに会うことになっていると、深層心理は我々に楽しみの感情を抱かせ、現在の状態に満足させ、このままの状態を維持することを強いるのである。次に、怒りは、深層心理が、現在の状態に不満を抱き、一挙にこの状態を変えることを、我々に強いるのである。例えば、自転車がパンクすると、深層心理が我々に怒りの感情を抱かせ、現在の状態に不満を抱かせ、一挙にこの状態を変えようとして、我々に新しい自転車を買うことを強いるのである。友人に侮辱されると、深層心理が我々に怒りの感情を抱かせ、現在の状態に不満を抱かせ、一挙にこの状態を変えようとして、我々にその友人を殴ることを強いるのである。次に、悲しみは、深層心理が、現在の逆境に諦めを抱き、誰かに頼ったり慰めてもらったりすることを、我々に強いるのである。例えば、自家用車がパンクすると、深層心理が我々に悲しみの感情を抱かせ、現在の逆境に諦めを抱かせ、近くのガソリンスタンドに電話して修繕してもらうことを、我々に強いるのである。子供を交通事故で亡くした女性は、深層心理が悲しみの感情を抱かせ、現在の逆境に諦めを抱かせ、母親に電話して慰めてもらうことを、彼女に強いるのである。次に、苦しみは、深層心理が、現在の状態に不満を抱き、この状態を変える方法を考えることを、我々に強いるのである。例えば、風邪を引くと、深層心理が我々に頭痛などの苦しみの感情を抱かせ、現在の状態に不満を抱かせ、この状態を変える方法を考えることを、我々に強いるのである。そこで、我々は、風邪薬や頭痛薬を飲むのである。好きな人に冷たくされると、深層心理が我々に苦しみの感情を抱かせ、現在の状態に不満を抱かせ、この状態を変える方法を考えることを、我々に強いるのである。そこで、我々は、自らの今までの行動を反省し、彼(彼女)に謝罪するのである。このように、深層心理は、我々は情緒を抱かせ、具体的な行動を強いる。しかし、どのような情緒でも、我々は、意志という表層心理でそれを動かすことはできないから、怒り・悲しみ・苦しみのマイナスの気分に陥ったら、自分の趣味などの手段で、それを穏やかにしたり、喜び・楽しみのプラスの気分に転換させることが必要である。