2007年の夏に逝った外科医の父がはるか昔に語ってくれた話である。父も私も、医師として診療上知り得たことを例えどの様な内容であっても家内で語ることは無いが、父にとっては余程印象的であったのだろうか。勿論、何処の何方様であったか、一切口にはしていない。ある日、御年輩の患者さんが受診なさってもろ肌脱ぎになられた時、いつもの質実剛健なそれとは全く違う、それは粋な花模様のブラジャーをしておられたそうである。お孫さんがゴミ箱に捨てたブラジャーを、いたんでいないのにもったいないと拾って使っておりますとの事。昔の方は物を最後まで大切になさるが、それにしてもサイズは合っていたのだろうか。極楽で天寿を全うされた多くの患者さん達に囲まれて、かつての外来でのあの調子で、さぞかしにぎやかにやっているのだろうなと今もふと思う。