花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

残春に餞すべし│花信

2023-04-30 | アート・文化


  晩春泛湖   安積艮斎
湖光明麗照吟身  湖光の明麗 吟身を照らす
短艇聊爲畫裏人  短艇 聊か画裏の人と為る
歸雁數行低有影  帰雁数行 低くして影有り
浮巒一碧遠無皴  浮巒一碧 遠くして皺むこと無し
縈衣落絮因風亂  衣には縈(まと)ふ 落絮の風に因つて乱るるを
觸棹圓荷經雨匀  棹に触る円荷の雨に経て匀(ととの)ふを
濃緑滿城紅已盡  濃緑の満城 紅(くれなゐ)已に盡き
秖應是處餞殘春  秖だ応に是の処 殘春に餞すべし

菊田紀郎, 安藤智重訳注:「安積艮斎 艮斎詩略 訳注」, p121-122, 興学社, 2010

法要に参列する

2023-04-23 | 日記・エッセイ


4月22日、往生即成仏の教えの御寺で恩師を偲び一同が法要に参列した。御院主様の読経が始まる前、MJQのSoftly, as in a morning sunriseを含む音楽が堂内に流れていた。

花を分くる峰の朝日の影はやがて有明の月を磨くなり
     聞書集   西行

穀雨に頂いた花をいける

2023-04-21 | アート・文化


  游春   柏木如亭
遠客春深無作伴  遠客 春深うして伴と作るもの無し
頻年独往碧山中  頻年 独り往く 碧山の中
東風昨夜吹渓雨  東風 昨夜 渓雨を吹いて
傍水杏花全放紅  水に傍(そ)ふ杏花 全て紅を放つ

揖斐高訳注:東洋文庫「柏木如亭詩集1」, p174, 平凡社, 2017


器量

2023-04-15 | 日記・エッセイ


詰まるところ、おのれの器の大きさを以てしか相手の器は測れない。他者をしたりげに誹謗するは、我は小器という高らかな宣言に他ならない。之を叩くに小を以てすれば小鳴し、之を叩くに大を以てすれば大鳴す。師と学徒の関係に限らないことを知れば、襟を正さずにはいられない。

春愁│花信

2023-04-11 | アート・文化


  春思   大窪詩仏
深院垂簾独臥時  深院 簾を垂れて独り臥す時
炉煙裊裊雨糸糸  炉煙は裊裊(じょうじょう) 雨は糸糸たり
春愁如海無消処  春愁は海の如く 消ゆる無き処
読尽香奩一集詩  読み尽くす 香奩(こうれん)一集の詩

揖斐高注著:江戸詩人選集「市河寛斎 大窪詩仏」, p196-197, 岩波書店, 2001

祇王と仏御前

2023-04-09 | 日記・エッセイ


入道相国に寵愛された白拍子の祇王は、年もまだ若い仏御前の艶姿に心を奪われた入道に弊履の如く捨てられる。当初、召されていないのに推参した仏御前に対し「とうとう罷出よ」(さっさと退出せよ)と言い放った清盛に、不憫だから御対面だけでもと執り成したのは他ならぬ祇王自身である。初音の帖で恩に着せた光源氏の空蝉への物言いが表す様に、権力者が施す特別の計らい、家内富貴や百石百貫などは、寵愛が失われ関係が消滅すれば何れも其迄である。
 「いづれか秋にあはではつべき」の恨みがましい歌など残さず、立つ鳥跡を濁さずの舞納めこそあらまほしけれ。頼朝に命じられ、しづやしづのと命を懸けて謡い舞い終えたのは、後の靜御前の心意気である。我こそは都に聞えたる白拍子の上手と謳われた祇王ではないか。身を恥じねばならぬことなど一つもない。性懲りもなく、思ひ知らずの清盛は座興として祇王を呼び寄せたが、冥途の土産にせよと芸の何たるかの神髄を堂々と見せつけてやればよい。
 それにしても一群の中で、おのれの身の安泰だけを図り、自死まで覚悟した祇王・祇女の姉妹に親孝行を盾にひたすら堪忍せよと強いる母刀自は酷い。そしてひとえに胸を打つは、栄寵を固辞し、並々ならぬ精進を重ねてきた芸の道を捨てて落飾し、祇王の跡を慕い往生の素懐を遂げた仏御前の清冽な心根である。 

参考資料:
市古貞次校注・訳:日本古典文学全集「平家物語①」, 小学館, 2014

 


餘香│花信

2023-04-02 | アート・文化


  蝴蝶   亀田鵬斎
尽日看花帰  尽日 花を看て帰る
嬌蝶趁人飛  嬌蝶 人を趁つて飛ぶ
非我能招蝶  我能く蝶を招くに非ず
餘香在春衣  餘香 春衣に在ればなり

徳田武注:江戸漢詩選一「文人」, p39-40, 岩波書店, 1996