花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

老驥千里を思う│清少納言

2024-07-28 | アート・文化


  元輔がむかしすみけるいへのかたはらに、清少納言住みしころ、
  雪のいみじくふりて、へだてのかきもなくたふれて、みわたされしに、
跡もなく雪ふるさとのあれたるをいづれむかしのかきねとかみる

一五八│「赤染衛門集全釈」 / 巻第十六 雑歌上│「新古今和歌集」

女一人住む所は、いたくあばれて、築土などもまたからず、池などある所も、水草ゐ、庭なども蓬にしげりなどこそせねども、所々、砂子の中より青き草うち見え、さびしげなるこそあはれなれ。物かしこげに、なだらかに修理して、門いたくかため、きはぎはしきは、いとうたてこそおぼゆれ。
一七一│「枕草子」



参考資料:
関根慶子, 阿部俊子, 林マリヤ, 北村杏子, 田中恭子共著:私家集全釈叢書1「赤染衛門集全釈」, 風間書房, 1989
峯村文人校注・訳:新編日本古典文学大系「新古今和歌集」, 小学館, 2012
松尾聰, 永井和子校注・訳:新編日本古典文学大系「枕草子」, 小学館, 2017




小暑の京都を行く│廬山寺の源氏庭

2024-07-27 | 日記・エッセイ

廬山寺 源氏庭

7月某日、2024年度・日耳鼻京都府地方部会主催の「補聴器相談医更新のための講習会」に参加した。講習会終了後、京都御苑東に位置する京都府立医科大学図書館会場から足をのばし、梨木神社、紫式部邸宅址にある天台圓浄宗廬山寺を参拝した。廬山寺境内の源氏庭には今を盛りと州浜に植栽された桔梗が花開いている。濡縁に腰を下ろし時折吹き来る一陣の涼風に揺れる紫の花を眺めていると、酷暑の真夏只中であることをしばし忘れた。


石山月 / 月岡芳年「月百姿」
50 The moon and the helm of a boat --- Ishiyama moon / Stevenson J: Yoshitoshi’s one hundred aspects of the moon, Hotei Publishing, 2001


藤の花のこと│「今昔物語」と「伊勢物語」

2024-07-16 | アート・文化

四十九 藤│「四季の花」春之部・貳, 芸艸堂, 明治41年

  ムラサキノクモトゾミユルフヂノ花イカナルヤドノ
  シルシナルラム

  (紫の雲とぞみゆる藤の花 いかなる宿のしるしなるらむ)
ト.若干ノ人皆此レヲ聞テ、胸ヲ扣テ、「極ジ」ト讃メ喤ケリ。大納言(藤原公任)モ人々ノ皆、「極ジ」ト思タル気色ヲ見テナム、「今ぞ胸ハ落居ル」トゾ、殿(藤原道長)ニ申シ給ヘル。
 此ノ大納言ハ、万ノ事皆止事無カリケル中ニモ、和歌読ム事ヲ自モ自嘆シ給ひケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
(巻第二十四、公任大納言読屏風和歌語第三十三│「今昔物語」, p330-332)

  咲く花のしたにかくるる人おほみ
    ありしにまさる藤のかげかも

(あるじ在原行平のはらから(兄弟)、すなわち在原業平が詠んだ歌に対して、人々が)「などかくしもよむ」といひければ、「おほきおとど(藤原良房)の栄華のさかりにみまそかりて、藤氏のことに栄ゆるを思ひてよめる」となむいひける。みな人そしらずなりにけり。
(百一段│「伊勢物語」, p117-118)

蛇足の独言:華めき時めくもの。時移り消えゆくもの。阿り諂うもの。面従し腹背するもの。拱手し傍観するもの。花開き花落ちて人は幾たびか換る。

参考資料:
馬淵和夫, 国東文麿, 稲垣泰一校注・訳:新編日本古典文学全集「今昔物語③」, 小学館, 2008
渡辺実校注:新潮日本古典集成「伊勢物語」, 新潮社, 2004


招涼│花信

2024-07-14 | アート・文化

2024年度大和未生流夏期特別講習会の花器は、御家元御監修の掛花入にも使うことができる信楽焼の一重切花入であった。

松かげの岩井の水をむすびつつ 夏なき年と思ひけるかな
   和漢朗詠集・巻上 納涼   恵慶法師

緑樹陰前│花信

2024-07-04 | アート・文化


   池上遂涼二首 其一  白居易
青苔地上銷残暑  青苔の地上に残暑は銷え
緑樹陰前逐晩涼  緑樹の陰前に晩涼を逐ふ
軽屐単衣薄紗帽  軽屐(けいげき)の単衣 薄紗の帽
浅池平岸庳藤床  浅池の平岸 庳(いや)しき藤床
簪纓怪我情何薄  簪纓(しんえい)は我が情の何とも薄きを怪め
泉石諳君味甚長  泉石は君を諳りて味は甚だ長し
遍問交親為老計  遍く交親を問ひて老計と為す
多言宜静不宜忙  多言は宜しく静かにし 忙しきは宜しからずと

(白氏文集巻六十六 律詩│「白氏文集 十一」, p395-397)

参考資料:
川口久雄, 志田延義校注:日本古典文学大系「和漢朗詠集 梁塵秘抄」, 岩波書店, 1974
岡村繁著:新釈漢文大系「白氏文集 十一」, 明治書院, 1988