花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

一心を天下の器になす

2020-09-27 | アート・文化


遊樂萬曲の花種をなすは、一心感力の心根なり。ただ水晶の空躰(くうたい)より火水をなし、櫻木の無色性(むしきしょう)より花實を生ふる如く、意中の景より曲色(きょくしょく)の見風をなさん堪能の達人、これ器物(きもつ)なるべし。およそ風月延年の飾り、花鳥遊景の曲、種々なり。四季折〻の時節により、花葉・雪月・山河・草木・有情・非情に至るまで、萬物の出生(しゅっしょう)をなす器(き)は天下なり。この萬物を遊樂の景躰として、一心を天下の器になして、廣大無風の空道に安器して、是得遊学の妙花に至るべき事を思ふべし。

(遊樂習道風見│川瀬一馬校注「能作書・曲附次第・遊樂習道風見・習道書」, p57-58, わんや書店, 1955)

秋風吹く其の二│花便り

2020-09-19 | アート・文化


   朔(つきたち)に移りて後に、
   秋風を悲嘆(かな)しびて家持が作る歌一首
うつせみの 世は常なしと 知るものを 秋風寒み 偲ひつるかも
       万葉集・巻第三 挽歌

隠れた道

2020-09-11 | アート・文化


人類史のなか中で評判がよい思想は、軸を一つにしてそこに腰をすえ、くりかえしくりかえし、この軸にいろいろの要素をとりこんだ思想であった。思想じしんが、一つの論理軸にそった一つの体系、つまりは共同体をつくりあげる──そのような思想が優勢である。論理の軸が多元的であり、ここからこなたへと旅だつ思想は、敗者であって、記憶されたばあいも、道ばたの道祖神のように、さりげない珍奇さをとどめるにすぎない。共同体型の思想が大勢を制し、交通型の思想は、つねに少数派・マイノリティーとして「正統」思想史によって埋没させられる宿命をもつ。道の思想史とは、こうした敗者の思想を、たどりかえすことではないのか。

(2章 衣通の道─政治と悲恋│山田宗睦著:「道の思想史 神話」, p47-48, 學藝書林, 1969)