花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

薫風の候

2018-05-14 | 日記・エッセイ


当院駐車場入口に植栽したヤマボウシ(山法師)が、白い花弁のように見える苞(ほう、花のつけ根の葉)を見せる時節になった。大型の白い四枚の葉に囲まれた中央の小さな集合花の部分が本当の花で、秋には球形の集合果が赤熟する。ヤマボウシはミズキ科ミズキ属の落葉高木で、学名はCornus kousa Buerg.、日本では北海道を除く全国の山野に自生する。同じ属のハナミズキ(アメリカヤマボウシ)は北米原産で、学名はCornus florida L.である。ヤマボウシの中国名は四照花、別名は山荔枝で、花や葉から得られる中薬名も「四照花」である。「四照花」の味は苦・澁(じゅう)、性は凉(微寒)で、清熱解毒,収斂止血の効能を有する。その他の部位を用いた生薬の名は「四照花皮」(樹皮、根皮)、「四照花果」(果実)である。
 




風の香も南に近し最上川   曽良書留 松尾芭蕉

風音を過客と聞けり山法師    春の門 鈴木鷹夫

参考資料:
今栄蔵校注:新潮日本古典集成「芭蕉句集」, 新潮社, 1982
鈴木鷹夫著:「季語別鈴木鷹夫句集」, ふらんす堂, 2007





杜若・燕子花(かきつばた)

2018-05-04 | アート・文化


むかし、をとこありけり。そのをとこ、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき國求めにとて行きけり。もとより友とする人ひとりふたりしていきけり。道知れる人もなくて、まどひいきけり。三河の國、八橋といふ所にいたりぬ。そこを八橋といひけるは、水ゆく河の蜘蛛手なれば、橋を八つわたせるによりてなむ八橋といひける。その澤のほとりの木の蔭に下りゐて、乾飯食ひけり。その澤にかきつばたいとおもしろく咲きたり。それを見て、ある人のいはく、「かきつばたといふ五文字を句の上にすゑて、旅の心をよめ」といひければよめる。

  から衣きつゝなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

とよめりければ、皆人、乾飯のうへに涙おとしてほとびにけり。(「伊勢物語」第九段)



なほ行き行きて、武蔵野の國と下つ総の國との中に、いと大きなる河あり。それをすみだ河といふ。その河のほとりにむれゐて思ひやれば、限りなく遠くも來にけるかなとわびあへるに、渡守、「はや舟に乗れ、日も暮れぬ」といふに、乗りてわたらむとするに、皆人ものわびしくて、京に思ふ人なきにしもあらず。さる折しも、白き鳥の嘴と脚と赤き、鴫の大きさなる、水のうへに遊びつゝ魚をくふ。京には見えぬ鳥なれば、皆人見しらず。渡守に問ひければ、「これなむ都鳥」といふをきゝて、

  名にし負はばいざこととはむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと

とよめりければ、舟こぞりて泣きにけり。




参考文献:
大津勇一校注:岩波文庫「伊勢物語」, 岩波書店, 1994
吉井勇, 竹久夢二著:「新訳絵入伊勢物語」, 阿蘭陀書房, 1917