花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

晩涼│花信

2023-06-24 | アート・文化


  夏日睡起   館柳湾
独臥風床睡味長  独り風床に臥して 睡味長し
醒来残日下西墻  醒め来たれば 残日 西墻(せいしょう)に下る
門前時有売虫過  門前 時に 虫を売りて過ぐる有り
一担秋声報晩涼  一担の秋声 晩涼を報ず

 水田紀久注:江戸詩人選集 第七巻「野村篁園 館柳湾」, p189-190, 岩波書店, 2001

一片の氷心 涅すれども緇まず│花信

2023-06-22 | アート・文化


  詠物(二)白   葛子琴  
一片氷心涅不緇  一片の氷心 涅(でつ)すれども緇(くら)まず
何論墨子謾悲糸  何ぞ論ぜん 墨子謾(みだ)りに糸を悲しむを
紗窓雪色攤書夜  紗窓の雪色 書を攤(ひら)く夜
紙帳梅花入夢時  紙帳の梅花 夢に入る時
風雨草玄嘲未解  風雨 玄を草すれども 嘲り未だ解かず
星霜養素道難移  星霜 素を養えども 道移り難し
世明皓首終無用  世明らかなれば 皓首終に用うる無く
擬向商山採玉芝  商山に向いて玉芝を採らんと擬す
 「葛子琴 中島棕隠」, p137-140

参考資料:
水田紀久注:江戸詩人選集 第六巻「葛子琴 中島棕隠」, 岩波書店, 2002
金谷治訳注:「論語」, 岩波書店, 2001
早川光三郎著:新釈漢文大系58「蒙求 上」, 明治書院, 1977
楠山春樹著:新釈漢文大系62「淮南子 下」, 明治書院, 2010
川合康三編訳:「新編 中国名詩選(中)」, 岩波書店, 2015
白川静著:「字通」, 平凡社, 1997


不曰白乎、涅而不緇(白しと曰わざらんや、涅すれども緇まず。)/「論語」巻第九
:水底にある黒土、黒める 
:黒絹、黒のころも、黒色の僧衣、転じて僧
墨子見練絲而泣之、爲其可以黄、可以黑。高誘曰、憫其本同而末異。(墨子、練絲を見て之に鳴く。其の以て黄にす可く、以て黒くす可べきが爲なり。高誘曰く、憫其の本同じくして末異なるを憫むなり、と。)/「淮南子」巻十七・説林訓、「蒙求」墨子悲絲・楊朱泣岐
一片氷心在玉壷(一片の氷心 玉壷に在り)/芙蓉樓送辛漸二首・其一(王昌齢)





天真│花信

2023-06-16 | アート・文化


  詩榻遷坐   亀井南冥
勢交非我素  勢交 我が素に非ず
巧宦伐吾仁  巧宦 吾が仁を伐(そこな)う
与其貴而富  其の貴くして富まんよりは
不如賤而貧  如かず 賤くして貧しきに
貧賤雖坎壈  貧賤 坎壈(かんらん)と雖も
猶勝瘁精神  猶お勝る 精神を瘁(つか)らすに
命僮写短榻  僮に命じて 短榻(たんとう)を移さしめ
坐嘯対松筠  坐嘯して 松筠(しょういん)に対す
詩就渾神理  詩就(な)るは 渾(すべ)て神理
媺辞企古人  媺辞(びじ) 古人を企(くわだ)つ
人生各有適  人生 各の適する有り
林臥葆天真  林臥 天真を葆たん
 「文人 / 亀田鵬斎 田能村竹田 仁科白谷 亀井南冥」, p308-310

参考資料:
徳田武注:江戸漢詩選 第一巻「文人 / 亀田鵬斎 田能村竹田 仁科白谷 亀井南冥」, 岩波書店, 1996
大塚敬節, 矢数道明, 亀井南冥編:「近世漢方医学書集成14 永富独嘯庵 山脇東門 亀井南冥」, 名著出版, 1979


無欲│花信

2023-06-04 | アート・文化


無欲一切足  欲無ければ一切足り
有求万事窮  求むる有れば万事窮す
淡菜可療飢  淡菜 飢えを療(いや)すべく
衲衣聊纏躬  衲衣(のうえ) 聊か躬(み)に纏う
独往伴麋鹿  独往して麋鹿(びろく)を伴とし
高歌和村童  高歌して村童に和す
洗耳巌下水  耳を洗う 巌下の水
可意嶺上松  意に可(よろ)し 嶺上の松

入谷義高訳注:東洋文庫「良寛詩集」, p212-213, 平凡社, 2006


豪気│花信

2023-06-03 | アート・文化


   山行   西郷隆盛
駆犬衝雲独自攀  犬を駆り 雲を衝いて 独り自ら攀じ
豪然長嘯断峰間  豪然 長嘯す 断峰の間
請看世上人心険  請う看よ 世上 人心の険
渉歴艱於山路艱  渉歴するは 山路の艱(かた)きより艱し

坂田新注:江戸漢詩選 第四巻「志士」, p288-289, 岩波書店, 1995