花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

紫陽花(アジサイ)のはなし

2022-05-28 | アート・文化

廿七 紫陽花│「四季の花」夏之部・貮, 芸艸堂, 明治41年

雨に濡れた路地に咲くアジサイが見頃の季節を迎えた。連城三紀彦著の小説『あじさい前線』初版の帯に、著者は「アジサイはむしろ好きな花ではない」でありながら、自作中にこの花を使う理由として「アジサイではなく、この花が連想させる雨の色や陽の光や空の色が好きなのである。たぶんアジサイの周辺の季節を書きたいのだろう。」と記しておられる。

「綉球」はユキノシタ科、アジサイ属の落葉低木であるアジサイ(紫陽花、八仙花、綉球花)、学名Hydrangea macrophylla (Thunb.)Ser.の花と葉から得られる生薬名である。花には配糖体ヒドランゲノール(hydrangenol)が含まれる。薬性は苦,微辛、寒、小毒、効能は抗瘧、清熱、解毒、殺虫(抗瘧疾(Malaria)作用があり、熱毒を冷まし取り除き、腸管内寄生虫などを駆除する。)である。厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル」、植物性自然毒に分類掲示され、アジサイの中毒事例や毒性成分が未だ不詳であることが明示されている。不用意に薬用や食用に用いることは避けるべきである。

末尾に掲げた白居易の「紫陽花」に詠われた花はアジサイではない。牧野博士著『花物語』の「アジサイ」、「そうじゃない植物三つ」で詳細に論じられている。

   紫陽花   白居易
招賢寺有山花一樹、無人知名。色紫気香、芳麗可愛、頗類仙物。因以紫陽花名之。
招賢寺に山花一樹有り、人の名を知るもの無し。色紫にして気香ばしく、芳麗愛す可く、頗る仙物に類す。 因って紫陽花を以て之を名づく。

何年植向仙壇上  何れの年にか 仙壇の上(ほとり)に植ゑたる
早晩移栽到梵家  早晩(いつ)か 移し栽ゑて梵家に到れる
雖在人閒人不識  人閒に在りと雖も 人識らず
與君名作紫陽花  君の與(ため)に名けて 紫陽花(しやうくわ)と作す
   白氏文集・巻二十  

参考資料:
牧野富太郎著:ちくま学芸文庫「花物語」, 筑摩書房, 2010
連城三紀彦著:「あじさい前線」, 中央公論社, 1989
岡村繁著:新釈漢文大系「白氏文集(四)」, 明治書院, 1990
三橋博監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑, 北隆館, 1988
南京中医薬大学編著:「中薬大辞典 下(第二版)」, 上海科学技術出版社, 2006





瞿麦(クバク)│撫子(ナデシコ)

2022-05-24 | 漢方の世界

瞿麦ノ一首│幸野楳嶺, 幸野西湖画:「草花百種」三, 芸艸堂, 明治34年

「瞿麦」はナデシコ科、ナデシコ属の多年草、カワラナデシコ(河原撫子)、学名Dianthus superbus L. var. longicalycinus (Maxim.)Kitam.、エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)、学名D. superbus L. var. superbus の全草から得られる生薬である。利水滲湿薬に属し、薬性は苦、寒、帰経は心経、肝経、小腸経、膀胱経で、効能は利小便、清湿熱、活血通経(利尿を促進し湿熱を除き、瘀血を散じて経絡を通じさせる。)である。下焦虚寒、妊婦は服用禁である。方剤例には、瞿麦散、栝楼瞿麦丸、八正散などがある。
 カワラナデシコの花期は6~9月で、枝分かれした茎の頂端に淡紅色の花を咲かせる。7~9月に結実する黒色種子から得られる生薬は「瞿麦子」である。
  
   庭中の花を見て作る歌一首 幷せて短歌
大君の 遠の朝廷(みかど)と 任(ま)きたまふ 官(つかさ)のまにま み雪降る 越(こし)に下り来 あらたまの 年の五年 敷𣑥(しきたへ)の 手枕まかず 紐解かず 丸寝をすれば いぶせみと 心なぐさに なでしこを やどに蒔き生ほし 夏の野に さ百合引き植ゑて 咲く花を 出で見るごとに なでしこが その花妻に さ百合花 ゆりも逢はむと 慰むる 心しなくは 天離る 鄙に一日(ひとひ)も あるべくもあれや

   反歌二首(一首略)
なでしこが 花見るごとに 娘子らが 笑まひのにほひ 思ほゆるかも
     万葉集・巻十八   大伴家持




花菖蒲・其七│花便り

2022-05-07 | アート・文化


巨椋(おほくら)の池のつつみも遠山も 淀曳く船も見ゆるこの庵
   明治三十八年   長塚節

*巨椋池(おぐらいけ):京都府伏見区・宇治市にかつて存在した池。
 観蓮や観月の名所であったが、現在は干拓田に姿を変え昔日の面影はない。


リラの花咲き│花便り

2022-05-03 | アート・文化


   北遊小吟
家ごとにリラの花咲き札幌の人は楽しく生きてあるらし
     吉井勇


2011年6月、第63回日本東洋医学会学術総会が札幌で開催された。
本年、第72回学術総会が再びリラの花咲く地で開かれる。