花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

川骨(せんこつ)│コウホネ

2019-11-29 | 漢方の世界

十五 河骨 おもだ可│「四季の花」夏之部・壹, 芸艸堂, 明治41年

「川骨」は、スイレン科、コウホネ属の水生多年草であるコウホネ(川骨、河骨)、学名Nuphar japonicum DC.の根茎から得られる生薬である。漢字表記は根茎が骨に似ている為に日本で命名されたものである。花期は6~9月で直立した花茎の先端に黄色い花を単生し、俳句での季語は夏である。薬性は甘、寒、帰経は脾経、効能は駆瘀血、止血、利尿である。方剤例には本邦での創薬、治打撲一方があり、打撲、捻挫による腫脹や疼痛に使用する。

「治打撲一方 香川
萍蓬 撲樕 川芎 桂枝 大黄 丁香 甘草
右七味。日久しき者は附子を加う。
 此の方は能く打撲、筋骨疼痛を治す。萍蓬(ひょうほう)、一名川骨、血分を和す。撲樕骨疼を去る。故に二味を以つて主薬とす。本邦血分の薬、多くは川骨を主とする者亦此の意なり。日を経て癒ざる者附子を加ふるは、此の品能く温経するが故なり。」

(治打撲一方│浅田宗伯著「勿誤薬室方函口訣」)
*「血分を和す」は、瘀血や広く血に関する病態を対象として血液循環の改善をはかるの意である。



中国ではスイレン科、コウホネ属のネムロコウホネ(根室河骨、萍蓬草)、学名Nuphar pumilum (Timm.) DC.の根茎から得られる生薬が「萍蓬草根」(ひょうほうそうこん)である。薬性は甘、平、帰経は脾経、胃経、肝経、腎経で、効能は健脾益肺、活血調経である。

オモダカはオモダカ科、オモダカ属の水生多年草で、学名はSagittaria trifolia L.である。オモダカ科、サジオモダカ属のサジオモダカ、学名Alisma plantago-aquatica L. var. orientale Samuels.の塊茎から得られる生薬が、利水滲湿薬に属する「沢瀉」(たくしゃ)である。サジオモダカの楕円形の葉とは異なり、オモダカの葉は生長時には矢尻形を示す。

令和元年の耳鼻咽喉科専門医講習会に参加する

2019-11-21 | 日記・エッセイ

スフォルツァ騎馬像、名古屋国際会議場

専門医制度の変革に伴い、日本耳鼻咽喉科学会関連の総会や講習会では、ICカードの会員証による各種単位受付を行うシステムが導入されている。会場への入室および出室に際し、参加者は各自のカードをカードリーダーにかざして登録を行なう。この登録作業は一つの講演、講習の開始と終了ごとに行わねばならない。必然の成行きで、会場に入るのも出るのも延々と長蛇の列となる。先週末、名古屋国際会議場で開催された専門医講習会においても同様であった。
 幕間に当たる時間には、講演終了後は勝手に席を立たないで下さいとのアナウンスが会場に繰り返し流れる。一つの講演が終われば、フロアからの質問を受け付けて興味深い質疑応答が続く。御講演を終えられた先生はいまだ壇上に居られ、座長の先生が総括のコメントを述べておられる時、すでに出口に向かう聴衆の民族大移動が始まる。少しでも早く出室し、次の受講の為に新たに入室する列にまた並ばねばならないからである。御多分に漏れず、私もその中の一人になった。
 本講習会は三千人以上の参加者があった由である。座学のみならず実技講習もあり、色々と勉強になった価値ある講習会であった。会場への出入登録には心底疲れ果てたが、専門医制度に改変がない限りこのような仕儀がこれからも続くのだろう。試練に耐え抜く気力と体力を蓄えて、また来年も参加する心積もりである。


ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋、金山

秋牡丹根(あきぼたんこん)│シュウメイギク

2019-11-12 | 漢方の世界

八 秋命菊 水引草│「四季の花」秋之部・壹, 芸艸堂, 明治41年

秋牡丹根は、キンポウゲ科、イチリンソウ属の多年草、シュウメイギク(秋明菊、秋牡丹、野棉花)、学名Anemone hupehensis var. japonicaの根から得られる生薬である。シュウメイギクの花期は8~10月で、長く伸びた花茎の先端に白や赤紫色の花を咲かせる。全草にプロトアネモニン(Protoanemonin)を含み有毒である。秋牡丹根の薬性は寒、苦、有毒で、効能は殺虫、清熱解毒である。



貴船菊生けてほとりの砧槌       花匂ひ 

貴船菊白を輪廻の色として       晴れの日も 雨の日も・後藤比奈夫







立冬の木津川

2019-11-10 | 日記・エッセイ


快晴の一日、飼犬まるを連れて飯岡(いのおか)まで足をのばした。木津川沿いに整備されたサイクリングロードを走る自転車が、颯爽と風を切って次から次へと通り過ぎてゆく。奈良からお越しになった御方が小休憩をとっておられ、これからさらに宇治次いで嵐山まで行かれるそうである。


千貫岬を打ち抜く飯岡の治水工事に生涯を捧げた高潔の士、豊田武兵衛翁の顕彰碑である。


山梔子(さんしし)

2019-11-09 | 漢方の世界

四 柚 く遅奈し│「四季の花」冬之部・壹, 芸艸堂, 明治41年

「山梔子」はアカネ科、クチナシ属の半常低木クチナシ(梔子、支子)、学名Gardenia jasminoides Ellis forma grandiflora (Lour.) Makinoなどの成熟果実から得られる生薬である。清熱薬に属し、薬性は苦、寒、帰経は心経、肺経、肝経、胃経、三焦経で、効能は清熱瀉火・除煩、清熱利湿、凉血止血(欝熱を冷まして除き、胸中の熱感・不快感や不眠を解消する。利尿作用により熱を尿から排泄する。血熱による吐血、鼻出血、血尿を改善する。)である。方剤例には、黄連解毒湯、竜胆瀉肝湯、梔子柏皮湯、清上防風湯、茵蔯蒿湯などがある。

クチナシの花期は6~7月で芳香のある白色の花を咲かせ、10~11月に赤黄色に結実する。染料としても用いられ、染め上がった濃い黄色が「支子色・梔子色」(くちなしいろ)で、別名「不言色」(いわぬいろ)である。果実は成熟しても割れずに口を開かない(すなわち口無し)。「山吹のいはぬ色」は、山吹のくちなし色(いわぬ色)と、物言わぬ悶々の心中(口無し)の意をかけている。
  
  御返し  円融院御歌
九重にあらで八重咲く山吹のいはぬ色をば知る人もなし
       新古今和歌集・巻十六 雑歌上・1481


山梔子│多紀元悳著「廣惠濟急方」中巻・卒暴諸證・外傷之類, 東都書肆, 寛政二

神野山の奇勝 鍋倉渓

2019-11-05 | 日記・エッセイ


大和未生流の御家元の御発案で、山辺支部花展を拝した帰路に訪れたのが山添村、神野山山腹にある鍋倉渓である。このような所とお聞かせ頂いて自分なりに色々と考えを巡らせていたのだが、眼前に広がった景観はその様な想像を遥かに凌駕した。天の河を写し取ったと称するはむべなるかな。見渡す限り大小無数の黒い岩石が、幅が約25m、長さ650mにわたり上流から下流まで隙間なく沢筋を埋め尽くしている。山を構成する角閃斑糲岩(かくせんはんれいがん)の堅牢な部分だけが幾星霜に晒されて残り、その数々の岩石塊が谷に集積して現代に至った自然の配剤のままの奇勝である。昔は中途を横切る橋がなかったそうで、我々一同が眼にした光景よりもさらに壮大な光景であったに違いない。
 岩石の狭間に耳を寄せれば、巨岩が積み重なった中に秘められた、一筋の光も届かない深い谷底を貫く伏流水の幽かな音が聞こえてきた。鍋倉渓の巨岩の如く揺るぐこと無く剛毅に、伏流水の如く絶ゆること無く清冽に、そのようなたたずまいの花を生けてみたいものだ、という思いが不意に心をよぎった。さらに切に望むらくは、その様な生き方でありたいものである。

大和未生流山辺支部の花

2019-11-04 | 日記・エッセイ


大和未生流山辺支部の花展が奈良市都祁交流センターで開催された。文化の日、御家元、流派の参加者一同を載せたバスは近鉄奈良駅前を出発、名阪国道を経由して一路、都祁まつりが賑やかに開催されているセンターに向かった。都祁は奈良県北東部の大和高原に位置し、2005年に都祁村から奈良市に編入となった自然に恵まれた地である。
 都祁の山野に生ふる草木や丹精込めて庭でお育てになった花々をお生けになるのが山辺支部である。一般に自然のままの個性に溢れた花材は、生ける側にとってより技量を量られる怖い素材である。基本の型を外さず、花材のあるがままの癖を曲と為していかに活かすか、選ばれた花材の個性と生ける側の個性がせめぎ合う緊張の中からこの様ないけばなの優品が生まれてくるのだろう。会場に居並ぶ作品群の全てにおいて、都祁の自然の中で育まれた繊細な感性が掬い取った秋が紛れもなく色濃く息づいていた。
 そして昨今は流派を問わず、多くの花展は会場内を西洋風に歩きながら上から見下ろして拝見するのが趨勢であるが、山辺支部の花展は畳が敷き詰められた日本間が会場であった。辞する直前、床拝見の如く改めて正面に坐して拝した時に、一つ一つの作品の様相がまるで違って見えた。その後お聞かせ下さったのは座してお入れになった花であるとのことである。花を挿す方も観る方も洋風に立位になった現代、何時しか忘れかけていた日本古来のいけばなの姿勢と眼を学ばせて頂いた花展であった。