花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

お疲れ気味の御方へ・第五弾│柔弱勝剛強

2023-08-27 | アート・文化


  座右銘  崔瑗
無道人之短、無説己之長。施人愼勿念、受施愼勿忘。世譽不足慕、唯仁爲紀綱。隱心而後動、謗議庸何傷。無使名過實、守愚聖所臧。在涅貴不淄、曖曖内含光。柔弱生之徒、老氏誡剛強。行行鄙夫志、悠悠故難量。愼言節飲食、知足勝不祥。行之苟有恒、久久自芬芳。
人の短を道(い)ふこと無かれ、己の長を説くこと無かれ。人に施しては慎みて念ふこと勿かれ、施しを受けては慎みて忘るること勿かれ。世誉は慕ふに足らず、唯だ仁のみ紀綱と為せ。心に隠(はか)りて後動け、謗議(ぼうぎ)庸何(なん)ぞ傷まん。名をして実に過ぎしむること無かれ、愚を守るは聖の臧(よみ)する所なり。涅(くろ)に在りて緇(くろ)まざるを貴び、曖曖として内に光を含め。柔弱は生の徒、老氏剛強を誡(いまし)む。行行たるは鄙夫(ひふ)の志、悠悠たるは故より量り難し。言を慎んでみ飲食を節し、足るを知れば不祥に勝つ。之を行ひて苟も恒有らば、久久として自ら芬芳(ふんばう)あらん。
(銘類│「文選(文章篇)下」, p388-390)

人の短所を追及するな。己の長所を自慢するな。施した恩は忘れ、施された恩は忘れるな。世俗の名誉を欲しがらず、ただ仁のみを心に懸けよ。深慮を巡らした後に行動を起こせ、さすれば誹謗に心を傷ましむことはない。実績以上の世評を立たせず、愚直を固く守るのが聖人の是とする処である。孔子曰く、涅すれども緇まず。周りの色に染まらず、一見愚かに見えて内に光輝を秘めよ。老子曰く、堅強なる者は死の徒、柔弱なる者は生の徒。又曰く、柔弱は剛強に勝つ。柔弱は剛強の上位にして、威張り腐り猛々しく振舞うは底が浅い男の有り様であり、悠悠としてしなやかにあるが遥かに壮大で深遠な生き様である。言葉を慎み、暴飲暴食を避け、天分に満足し足るを知れば、いかなる災いにも打ち勝つことができる。これらを常に心すれば、久しく馥郁として道を全う出来るだろう。(拙訳)

参考資料:
竹田晃著:新釈漢文大系「文選(文章篇)下」,明治書院, 2018
阿部吉雄, 山本敏夫, 市川安司, 遠藤哲夫著:新釈漢文大系「老子・荘子 上」,明治書院, 1975
蜂谷邦夫訳注:「老子」, 岩波書店, 2012