花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

本能と表現│赤と緑・其二

2021-11-14 | アート・文化

自筆手彩題字/里見勝蔵「赤と緑」

-----藝術に於て缺くべからざる二つのものは本能と表現である-----とヴラマンクは高叫した。
 第一に人間であることが必要なのだ。而して本能によって純粋に生活し、天分によつてよく表現するのだ。畫家としては叡智も、繪畫の傳統も無價値なのだ。智識が本能を殺し、研究は形式と技巧を作るのだ。むしろ無教育素朴なアンリ・ルツソの感情が、ヷン・ゴーグの純粋な熱情が、溌剌とした自然の感情と一致するではないか。

 フォーヴィズム論・B野獣派とその名稱│「異端者の奇蹟」, p227
 *ヴラマンク:Maurice de Vlaminck
 *アンリ・ルツソ:Henri Julien Félix Rousseau  
 *ヷン・ゴーグ:Vincent Willem van Gogh



54 花のある静物/神奈川県立近代美術館蔵│「里見勝蔵展 生誕100年記念図録」

参考資料:
里見勝蔵著,:随筆集「赤と緑」, 昭森社, 1942
里見勝蔵著,:随筆集「異端者の奇蹟」, 龍星閣, 1936
里見勝蔵展 生誕100年記念図録, 京都国立近代美術館編, 1995
Volkmar Essers:Matisse, Taschen America Llc, 2016




菊香る・其一│花便り

2021-11-11 | アート・文化


   世の中のはかなきことを思ひけるをりに
   菊の花を見てよみける
秋の菊にほふ限りはかざしてむ 花よりさきと知らぬわが身を
     古今和歌集・巻第五 秋歌下  紀貫之

人生 別離足る│于武陵「勧酒」

2021-11-08 | 詩歌とともに


  勧酒   于武陵
勘君金屈巵 君に勧む 金屈巵
満酌不須辞 満酌 辞するを須(もち)いず
花発多風雨 花発けば風雨多く
人生足別離 人生別離足(おお)し
 巻六 五言絶句│「唐詩選 下」, p109-110

       井伏鱒二
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 訳詩 勧酒│「厄除け詩集」, p53


勧酒│「唐詩選畫本」

参考資料:
前野直彬注解:岩波文庫「唐詩選 下」, 岩波書店, 1972
井伏鱒二著:講談社文芸文庫「厄除け詩集」, 講談社, 1994
石峯橘貫書画:「唐詩選畫本 五言絶句五」天明戌申再刻版, 嵩山房
兪平伯 等編:「唐詩鑑賞辞典」, 上海辞書出版, 2013

往者不追 来者不拒│花便り

2021-11-03 | アート・文化


夫予之設科也、往者不追 來者不距、苟以是心至、斯受之而已矣。
夫れ予の科を設くるや、往る者は追わず、来る者は距まず。苟も是の心を以て至らば斯ち之を受くるのみ。
(巻十四 尽心章句下│「孟子」, p420-422)
教科を設け弟子をとるにあたり、私は「去る者は追わず、来る者は拒まず」の流儀でやっている。かりにも道を善くせんと志を抱きこの門を敲いた者達ならば、誰であろうとも受け入れているのだ。

鳳兮鳳兮、何徳之衰、往者不可諫也、來者猶可追也、已而已而、今之從政者殆而。
鳳よ、鳳よ、何ぞ徳の衰えたる。往く者は諌むべからず、来たる者は猶お追うべし。已みなん已みなん。今の政に従う者は殆(あや)うし。
(微子第十八・五│「論語」, p366-367)
鳳は天下に道あれば見れ、道なければ隠る。鳳よ、何と徳が衰えたることか。過ぎたこれまでは諌めても無駄だが、今はまだ免れて隠れ去ることができる。已めなさい、已めなさい。今の政(まつりごと)にかかわればその身が危うい。

参考資料: 
小林勝人訳注:岩波文庫「孟子」(下), 岩波書店, 2018
金谷治訳注:岩波文庫「論語」, 岩波書店, 2012
朱熹著, 土田健次郎訳注:東洋文庫「論語集注4」, 平凡社, 2015