廿八 たち阿ふひ ういきやう│「四季の花」夏之部・貮, 芸艸堂, 明治41年
「小茴香」はセリ科、ウイキョウ属の多年草ウイキョウ、学名Foeniculum vulgare Mill.の成熟果実から得られる生薬である。香辛料フェンネル(Fennel)としても常用される。花期は夏で複散形花序の黄色の花をつける。温裏薬に属し、薬性は辛、温、帰経は肝経、腎経、脾経、胃経で、効能は散寒止痛、理気和胃(経絡を温めて寒邪を除き止痛する。中焦の気を巡らせて消化を助ける。)である。実熱証、陰虚火旺の虚熱がある場合は不適である。方剤例には、安中散、暖肝煎、天台鳥薬散などがある。
ちなみに「大茴香」(だいういきょう、八角茴香)はシキミ科、シキミ属の常緑高木ダイウイキョウ(トウシキミ)、学名Illicium verum Hook. f.である。成熟果実の薬効は「小茴香」より劣り、主として香辛料として用いられる。
「安中散 局方
遠年日近、脾疼、飜胃、口に散水を嘔し、寒邪の気、内に停留し、停積消えず、脹満、腹脇に攻刺す、及び婦人の血気止痛を治す。
延胡索五分 良姜三分 縮砂 茴香五分 牡蛎一銭五分 甘草六部五厘
右七味
此の方、世上には澼嚢(へきのう)の主薬とすれども、吐水甚だしき者には効なし。痛甚だし者を主とす。反胃(ほんい)に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。又婦人血気刺痛は澼嚢より反つて効あり。」
(浅田宗伯著「勿誤薬室方函口訣」)
*澼嚢は食後数日経過して嘔吐し腹痛を伴う。反胃(飜胃)は腹痛なく朝食暮吐、暮食朝吐の嘔吐を来す。澼嚢は広義の反胃(胃の通過障害)に含まれる。
「蜀葵」はアオイ科、タチアオイ属の越年草タチアオイ(立葵)、学名Althaea rosea (L.) Cav.の中国名である。茎は円柱上で直立し、夏期に大きな釣鐘型の紅色、紫色、白色などの花を咲かせる。花から根に至るまであらゆる部位が生薬となり、「蜀葵子」(種子)の薬性は冷、無毒、効能は利水通淋、解毒排膿である。「蜀葵花」(花)の薬性は甘、鹹、凉、効能は和血止血(血液循環改善を図り血瘀、出血を抑制する)、通便、解毒であり、「蜀葵苗」(葉、茎)の薬性は甘、凉、効能は清熱利湿、解毒、「蜀葵根」(根)の薬性は甘、鹹、微寒、効能は清熱利湿、凉血、解毒である。