花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

小茴香(しょうういきょう) 蜀葵(しょくき)

2019-10-31 | 漢方の世界

廿八 たち阿ふひ ういきやう│「四季の花」夏之部・貮, 芸艸堂, 明治41年

「小茴香」はセリ科、ウイキョウ属の多年草ウイキョウ、学名Foeniculum vulgare Mill.の成熟果実から得られる生薬である。香辛料フェンネル(Fennel)としても常用される。花期は夏で複散形花序の黄色の花をつける。温裏薬に属し、薬性は辛、温、帰経は肝経、腎経、脾経、胃経で、効能は散寒止痛、理気和胃(経絡を温めて寒邪を除き止痛する。中焦の気を巡らせて消化を助ける。)である。実熱証、陰虚火旺の虚熱がある場合は不適である。方剤例には、安中散、暖肝煎、天台鳥薬散などがある。
 ちなみに「大茴香」(だいういきょう、八角茴香)はシキミ科、シキミ属の常緑高木ダイウイキョウ(トウシキミ)、学名Illicium verum Hook. f.である。成熟果実の薬効は「小茴香」より劣り、主として香辛料として用いられる。

安中散 局方
遠年日近、脾疼、飜胃、口に散水を嘔し、寒邪の気、内に停留し、停積消えず、脹満、腹脇に攻刺す、及び婦人の血気止痛を治す。
延胡索五分 良姜三分 縮砂 茴香五分 牡蛎一銭五分 甘草六部五厘
右七味
 此の方、世上には澼嚢(へきのう)の主薬とすれども、吐水甚だしき者には効なし。痛甚だし者を主とす。反胃(ほんい)に用ゆるにも腹痛を目的とすべし。又婦人血気刺痛は澼嚢より反つて効あり。」
(浅田宗伯著「勿誤薬室方函口訣」)
澼嚢は食後数日経過して嘔吐し腹痛を伴う。反胃(飜胃)は腹痛なく朝食暮吐、暮食朝吐の嘔吐を来す。澼嚢は広義の反胃(胃の通過障害)に含まれる。 

「蜀葵」はアオイ科、タチアオイ属の越年草タチアオイ(立葵)、学名Althaea rosea (L.) Cav.の中国名である。茎は円柱上で直立し、夏期に大きな釣鐘型の紅色、紫色、白色などの花を咲かせる。花から根に至るまであらゆる部位が生薬となり、「蜀葵子」(種子)の薬性は冷、無毒、効能は利水通淋、解毒排膿である。「蜀葵花」(花)の薬性は甘、鹹、凉、効能は和血止血(血液循環改善を図り血瘀、出血を抑制する)、通便、解毒であり、「蜀葵苗」(葉、茎)の薬性は甘、凉、効能は清熱利湿、解毒、「蜀葵根」(根)の薬性は甘、鹹、微寒、効能は清熱利湿、凉血、解毒である。




富山のカラス

2019-10-29 | 日記・エッセイ


学会旅行番外編・其の一である。富山城址公園の中には「烏(カラス)ニ告グ ココデ餌ヲ 食ウベカラズ」という御触書が立てられている。この他にも「カラス居座り禁止」、「城下ニオイテ烏(カラス)為るモノニ餌ヲ与エル事ヲ禁ズ」と三種類の表示があるらしい。カラスは賢い鳥だが、富山には字を読めて人の意を汲む様なさらにお利口さんのカラス軍団が棲息しているのか、と思いきやそうではなかった。これを読んだ人が立止り頭上を見上げることにより(私も思わず梢に目をやった)、人の視線を嫌がる習性を有するカラスが寄り付かなくなる、という学術的な研究結果に基づく方策とのことであった。

富山への学会旅行│日本めまい平衡医学会2019

2019-10-28 | 日記・エッセイ


第78回日本めまい平衡医学会が富山国際会議場で開催された。台風19号による各地の被害が甚大な中で、東京・金沢間の北陸新幹線も10月25日まで不通であった。関東より参加の先生方は飛行機で来られたと伺ったが、学会会場は参加者で溢れて大盛況であった。当方は京都駅からサンダーバードで金沢に至り、次いで折り返し運転の新幹線に乗り継いで、富山には約二時間で到着である。この領域に関する日進月歩の知識や情報を得るとともに、旧知の諸先生や新たにお近づきになった先生方とお話をさせて戴いて大変有意義な参加であった。


カタツムリ Chiocciola、2008年

富山国際会議場から10分程歩けば富山市ガラス美術館に至る。イタリア出身の現代ガラス芸術の巨匠の展覧会「リノ・タリアピエトラ ライフ・イン・グラス」( LINO TAGLIAPIETRA A Life in Glass;会期:2019/10/12~2020/2/9)が開催中であった。展示台上のガラス作品にはテグスなどは全く張られていない。細く絞った台部を有する多くの作品をどの様に安定させておられるのだろうと大いに興味をそそられた。係りの御方にお尋ねした所、接着面は特殊な接着剤で固定していること、さらに作品自体が絶妙なバランスで構成されていることをお聞かせ下さった。まさに日本めまい平衡医学会の参加旅行で拝見するに相応しい作品群であった。


鶏冠花(けいかんか)│ケイトウ

2019-10-27 | 漢方の世界

六 紅鶏頭 黄鶏頭 紅葉鶏頭 黄葉鶏頭│「四季の花」秋之部・壹, 芸艸堂, 明治41年

「鷄冠花」はヒユ科、ケイトウ属の一年草ケイトウ、学名Celosia cristata L.の鶏冠状の花穂から得られる生薬である。収渋薬に属し、薬性は甘、渋、凉、帰経は肝経、大腸経で、効能は収斂止血、渋腸止痢、固渋止帯(収斂と清熱に働き各種の出血、下痢、帯下を止める。)である。ケイトウの種子から得られる生薬名は「鶏冠子」で、薬性は甘、凉、帰経は肝経、大腸経で、効能は凉血止血、清肝明目(血熱を冷まし止血する。肝経の熱を冷まして目を明瞭にする。)である。万葉集で詠われた「韓藍」(からあゐ)は大陸渡来のケイトウの古名である。

   山辺宿禰赤人が歌一首
我がやどに 韓藍蒔き生(お)ほし 枯れぬれど 懲りずてまたも 蒔かむとぞ思う
       「萬葉集」巻第三・384

秋さらば 移しもせむと 我が蒔きし 韓藍の花を 誰れか摘みけむ
       「萬葉集」巻第七・1362

恋ふる日の 日(け)長くしあれば 我が園の韓藍の花の 色に出にけり
       「萬葉集」巻第十・2278

隠(こも)りには 恋ひて死ぬとも み園生(ふ)の 韓藍の花の 色に出でめやも
       「萬葉集」巻第十一・2784



紫茉莉根(しまつりこん)│オシロイバナ

2019-10-21 | 漢方の世界

鈴木其一 白蔵司・紅花・白粉花図 三幅対, 東京国立博物館蔵│「鈴木其一 江戸琳派の旗手」展図録, p204, 2016

「紫茉莉根」は、オシロイバナ科、オシロイバナ属の多年草オシロイバナ(御白粉花、夕錦、洗澡花、紫茉莉)、学名Mirabilis jalapa L.の根から得られる生薬である。花期は8~9月で、紅・白・黄色や絞りの集散花序で漏斗状の花を咲かせる。果実は黒色の堅い円形の種子に結実し、内部に粉状の胚乳を含むためにオシロイバナの名が生まれた。夕錦や夕化粧の名は夏の夕暮れに開花することからの名称である。子供の頃に黒い種子をよく潰して遊んだものだが、全草有毒で特に根や種子に毒性があり、誤食で食中毒を来し嘔吐や下痢をおこすので注意が必要である。オシロイバナ、マメ科コロハ属の一年草コロハ(胡蘆巴、学名Trigonella foenum-graecum L.)、そしてコーヒー豆などの多くの植物に含まれるトリゴネリン(trigonelline)はアルカロイドの一種で、近年、薬理学的有効性が研究報告されている。



「紫茉莉根」の薬性は甘、淡、微寒、効能は尿路感染症、関節炎を対象とした清熱利湿、解毒活血である。脾胃虚寒や妊婦には禁忌である。他の部位は、「紫茉莉花」(花)の薬性が微甘、凉、効能は潤肺、凉血であり、「紫茉莉葉」(葉)の薬性は甘、淡、凉、効能は清熱解毒、祛湿活血、そして「紫茉莉子」(果実・種子)の薬性は微寒、凉、効能は清熱化痰、利湿解毒である。
 

吼噦 / 月岡芳年「月百姿」/ 13 The cry of the fox Konkai
Stevenson J: Yoshitoshi’s one hundred aspects of the moon, Hotei Publishing, 2001



薏苡仁(よくいにん)│ハトムギとジュズダマ

2019-10-16 | 漢方の世界

貮 数珠だ満 蕎麦能花│「四季の花」秋之部・壹, 芸艸堂, 明治41年

「薏苡仁」は、ハトムギ、学名Coix lachrymal-jobi L. var ma-yuen Stapfの種皮を除いた成熟種子から得られる生薬である。ハトムギはジュズダマ属、イネ科の一年草で、夏季に穂状花序をつけ茶褐色に結実する。よく似たジュズダマ(数珠玉、川穀)はハトムギの原種で、学名はCoix lacryma-jobi L.である。ハトムギとは異なり花序は垂れ下がらず、また果実は成熟するにつれ苞鞘(花序に腋生する有鞘葉)が固くなり、糸を通して繋げば所謂、数珠玉の形態を示す。
 「薏苡仁」の薬性は、甘、淡、凉、帰経は脾経、胃経、肺経で、効能は利水消腫、滲湿、健脾、除痺、清熱排膿(体内の水湿、痰飲を利尿により取り除き、脾の機能を高め、水腫脹満や小便不利を改善し、筋を緩め関節や筋肉痛を緩和する。熱を冷まして膿を排泄する。)である。配合された方剤には三仁湯、薏苡仁湯、参苓白朮散などがあり、単味は尋常性疣贅(ヒト乳頭腫ウイルスによる”いぼ”)、扁平疣贅(同じくウイルス性疣贅の一種)に有効である。

つなぐとは希望あること数珠玉も     紅加茂 後藤比奈夫



台風一過

2019-10-14 | 日記・エッセイ

近鉄奈良線の車窓の向こうに広がる平城宮跡。現在、第一次大極殿院南門の復元工事が進行中である。

最大級の台風19号が日本を直撃した。週末は午後から大阪と京都市内に出向く予定を断念し、鎧戸を降ろした家の中で蟄居となった。京都国立博物館で開催の特別展「流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」も一日遅れで開幕となったらしい。
 一夜が明けた台風一過の昨日は、雨過天晴にはほど遠い空模様の下、奈良県華道展覧会「令和元年 いけばなで寿ぐ」(10月11日(金)~14日(月)、奈良県文化会館)に伺った。来場者が溢れる会場の中で、大和未生流の須山御家元、流派の出瓶なさった諸先生方にお目にかかることが出来た。会場に所狭しと並んでいる作品群は各流派それぞれの趣がある力作である。その中において遠目から一目拝見して、どの様な花材の作品であっても、大和未生流のいけばなは直ぐにそれと解る。


遠くに若草山、別名「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」と詠われた三笠山である。奈良県文化会館に隣接する奈良県立美術館では「開館300回記念特別展 生誕125年・没後40年 吉川観方―日本文化へのまなざし」が開催中である。



大和未生流いけばな展 2019│奈良華展の花

2019-10-10 | アート・文化


奈良華展の後期展示で竹の盛花作品に携わらせて頂いた。本年は自然災害が重なり、各地では竹の花が咲く現象が報告された。当初御手配下さった花材が入手困難となり、急遽、医院庭の隅に生えている金明竹に出場権を頂戴した。前日に切りそろえて水揚げをした竹を束ねて、明日待たるゝその宝船とばかりに生け込み当日、華展会場へ出陣した。
 幸い三日間の展示期間中に竹葉が萎れることはなく、最終日は生け込んだ竹のみならず、お仲間の先生方より添え花にと頂戴した貴重な花材の残花の全てを持ち帰った。流派華展終了後、華展の興奮が冷めやらぬ内に、自宅の様々な花器に余すところなく生け込むのが毎年恒例のひとり華展である。出瓶作品の竹と花は、二回り小さな水盤に生け込むべく切り揃えて生け直した。

末尾ながら、令和になりはじめての秋の華展開催に際し、御多忙のお時間を割いて各地より御来場下さった皆々様に、流派の一員として心より御礼を申し上げます。