A DAY IN THE LIFE

好きなゴルフと古いLPやCDの棚卸しをしながらのJAZZの話題を中心に。

Tradition=昔から伝わる遺産を守るか、Innovation=過去を捨ててさらなる進化をするか・・・

2014-10-01 | Thad Jones & Mel Lewis & VJO
Thad Jones Legacy / The Vanguard Jazz Orchestra

伝統と革新をどのように両立させるか? これは何の世界でも同じだが、前に向かおうとすると必ず直面する課題かもしれない。
本来、伝統というものは守らなければならないものだと思うが、伝統とは形に残る遺産だけでなく、それを生み出した生き方、考え方、時には時代背景などすべてが含まれるものだ。

昨今では、昔からやり続けていることを単に「マンネリ」と見下し、前に進むための革新には邪魔なものと見なしがちである。敢えて過去を捨て去ることで新たなステージを迎えることができると勘違いすることも多くある。

特にIT化という大きな時代の流れの中では、アナログは真っ先に捨てなければならないものとなった。しかし、IT化というものはあくまでも手段。目的を持たないIT化は残念ながら形だけのものになり、そこには伝統も文化も無く、一番大事な人と人との繋がりを機能的に便利にする反面、かえって心の通い合う付き合いを希薄にしてしまったように思う。

サドジョーンズは、多くの名曲、名アレンジ、名演、そして名ビッグバンドを残した。
それらの貢献を称えての「Tributeアルバム」は沢山あるが、ビッグバンドはやはりサドメルオーケストラへのトリビュートになる。先日紹介したMonday Night Big Bandはその一枚であるが、このアルバムは本家ヴァンガードジャズオーケストラによる始祖の一人サドジョーンズへのトリビュートアルバムになる。

サドジョーンズがサドメルのオーケストラを去ったのが1978年。残されたメルルイスは旧メンバーであったボブブルックマイヤーを音楽監督に迎え、一時サドジョーンズの曲を封印した。
しかし、後にそれも解消しメルルイスオーケストラもサドジョーンズの曲とアレンジの「deffinitive」決定版として2枚のアルバムを残して、サドジョーンズの遺産は復活した。

メルルイスが1990年に亡くなった後も、残されたメンバー達でオーケストラは存続された。
サドメルの本拠地であったヴィレッジバンガードの名前をオーケストラの名前に冠し、サドメルオーケストラ、そしてメルルイスが残した多くの遺産を引き継ぐことになった。
このオーケストラも、伝統と革新の2つの課題に直面する。

このアルバムタイトルは、「サドジョーンズの遺産」、当然「伝統」が優先する。本家としてどこまで伝統が引き継がれているかが聴きどころになる。
結果は、初期のサドジョーンズのアレンジを見事に再演している。ライブでは無くスタジオできっちり収録されたものであり、演奏しているメンバーも長年演奏し続けているだけあって、まずは「本家」の演奏としてそつなくこなされている。

「Quiet Lady」、オリジナルではペッパーアダムスとローランドハナ、サドジョーンズのソロであったが、ここではスマリヤン、マクニーリー、ウェンホルトで再現している。



そして、このアルバムが生まれるには一つの大事な背景があった。

サドジョーンズの功績をジャズの歴史の中で後世にきちんと伝えるためのプロジェクト”The Thad Jones Legacy Project”がスタートし、その活動の一環としてこのアルバムも制作されたと記されている。単に昔を懐かしんだナツメロアルバムではないということだ。

この活動には後日談があり、このプロジェクトはサドジョーンズが残したビッグバンド用のオリジナル譜面の完全保存版の収集(作成)も手掛けた。もちろん、それにはヴァンガードジャズオーケストラに残されたセロテープで継ぎ接ぎだらけになった譜面も対象となった。手直しが加えられたものも多くあり、別に市販の譜面として別に世に出た中には間違いもあったり、すべて内容の確認が必要であり全体の整合性のチェックなども行われた。更には、一部の譜面が紛失してお蔵入りになったり、レコーディングに使われたがその後一回も演奏されたことが無い曲もあった。サドメルとかって共演したオルガンのローダスコットの元まで譜面探しは徹底されたそうだ。

最終的にはミュージシャンによる最終確認も必要であり、この作業を実際に行ったのはサムモスカ以下のオーケストラの面々、彼等が中心となって多くのそれをサポートするスタッフも参加して実施された。
そして、その作業が完了したのはこの録音から4年後の2003年。それを記念して、新たな譜面でのライブが本拠地のヴィレッジバンガードで行われたとの記事も残されている。

2009年にこのVJOが来日した時、4日間8ステージをすべて違う曲で演奏するというプログラムが組まれた。これが実現されたのも、過去からの遺産をきちんと守るこのような地道な努力があったからだろう。

しかし、サドジョーンズが作ったオーケストラの原点は単に曲やアレンだけではない。
ツアーをしない週一回の定期的なライブ演奏、黒人・白人がほぼ半々のメンバー構成、エリントンのように作曲家&アレンジャーのバンドでもなく、ベイシーのようなソロイスト中心のバンドでもなく両方の特徴を持ち合わせ、アンサンブル主体かと思うと自由度の高いソロパートも存分に設け、今までのオーケストラに無い斬新な切り口が数多く取り入れられた。それらがサドメルの原点であり守られるべき伝統の一つだと思う。

このようなサドメルの特徴は色々な所で述べられているが、アルバムのライナーノーツを読むと、もうひとつ面白い表現があった。
1930年のチックウェブオーケストラ以来、初めて「家で寛いでいる聴衆と一緒にいる感じで演奏するオーケストラ」と。そして「聴衆だけでなく演奏しているプレーヤー自身も演奏することが楽しみなメンバーで編成されている」と。初めて来日した時の評論家の油井正一氏の感想も全く同じ事を言おうとしたのであろう

まさに、初期のサドメルオーケストラの聴衆と演奏者が一体なったライブの楽しさを上手く表現している。実は、これもサドメルオーケストラの守るべき大事な伝統の一つでもある。
ヴァンガードオーケストラは最近毎年のように来日し、そのライブを聴きに行くが、会場となるビルボードの構造なのか、残念ながらそのような雰囲気にはなかなかならない。
本拠地であるヴィレッジバンガードでの演奏を聴く機会は残念ながらまだ無いが、きっとアットホームな演奏を聴く事ができるのだろう。

これらの伝統を踏まえれば何もサドジョーンズの曲ばかりを演奏することだけが伝統を守ることではない。2003年の譜面のRestore記念のライブでも、サドジョーンズの曲に合わせて、ジムマクニーリーやスライドハンプトンの曲も演奏され、TraditionとInnovationというVJOの2つの使命を果たしていると記されている。

今後もサドジョーンズの想いを引き継いで、新たな領域にどんどんチャレンジして欲しいものだ。今年の来日公演では、ボブブルックマイヤーの遺作を聴かせてくれそうなので、これも楽しみだ。



1. A-That's Freedom             Hank Jones 7:21
2. Once Around               Thad Jones 5:53
3. Quiet Lad                 Thad Jones 7:30
4. Central Park North             Thad Jones 8:30
5. Yours and Min                Thad Jones 3:54
6. Fingers                  Thad Jones 14:38
7. Groove Merchant           Jerome Richardson 8:36
8. All My Yesterdays              Thad Jones 4:10
9. My Centennial                Thad Jones 7:33

The Vanguard Jazz Orchestra

Scott Wendholt (tp,flh)
Glenn Drewes  (tp,flh)
Earl Gardner  (tp,flh)
Joe Mosello  (tp,flh)
John Mosca (tb)
Jason Jackson (tb)
Ed Neumeister (tb)
Douglas Purviance (btb)
Billy Drewes (as,ss,fl,cl)
Ralph Lalama (ts,cl,fl)
Dick Oatts (as,ss,fl,cl)
Rich Perry (ts,fl)
Gary Smulyan (bs)
Jim McNeely (p)
Dennis Irwin (b)
John Riley (ds)

Produced by Thomas Bellino, Douglas Purviance
Engineer : Stuart Allyn
Recorded at Edison Recording Studio on May 1 & 2 1999



Thad Jones Legacy
The Vanguard Jazz Orchestra
New World
コメント (1)
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