童門冬二の手になる『新釈 三国志』下巻を読み終えた。
下巻は臥竜といわれた諸葛亮孔明が草蘆を出て、劉備玄徳の参謀となるところから始まり、関羽の敵を討つため私的な怨念で出撃し劉備が病を得て白帝城で亡くなるところまでを書いている。この時の孔明のことを土井晩翠が詩に書いたことを著者は紹介している。
嗚呼南陽の旧草蘆 二十余年のいにしえの 夢はたいかいに安かりし、 光は包み香をかくし 隴畝に民と交われば 王佐の才に富める身も ただ一曲の梁父吟
風雲野鶴空潤く 風に嘯くは身ひとり、 月を湖上に砕きては ゆくへ波間の舟ひと葉、 ゆうべ暮鐘に誘われて 訪ふは山寺の松の影。
と続く。諸葛孔明の「出蘆の歌」と呼ばれており、27歳で劉備の参謀として加わるまでの孔明の暮らしぶりが細大漏らさず歌われている。
著者は「あとがき」で、「この新釈は、私が三国志に対して抱いているいろいろな疑問や、私なりに考えた解釈を強化するために、日本に起こった同種事件や、同じようなタイプの英雄たちの諸行動を引用しながら、その比較も試みた」と書いている。なるほど、日本の様々な事件、歴史上の人物が登場して、三国志を理解するうえで一助になっている。