Takepuのブログ

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薄熙来の罪状とは

2012-04-12 17:59:31 | 時事
「重大な規律違反があった」として10日、政治局委員と中央委員の職務停止と党中央紀律検査委員会での聴取が発表された薄熙来・前重慶市党委書記と、殺人容疑で送致された妻、谷開来のニュースについて、香港や台湾のメディアやネット上ではいろいろな見方が紹介されている。

台湾紙「旺報」は、薄の失脚は最高指導者の胡錦濤総書記や温家宝首相、次期最高指導者となる習近平・国家副主席が、信奉していた胡耀邦・元総書記の名誉回復のために協力した「王子復仇記」(王子=プリンス=への復讐劇)だとの見方を紹介している。「親の因果が子に報い」ということだそうだ。

1985年、党総書記だった胡耀邦は胡錦濤や温家宝を抜擢して政治改革を進めようとしていたが、86年末の安徽省や西安、上海などでの学生デモへの対応が生ぬるい、と批判されたことをきっかけに、保守派長老たち、特に薄熙来の父親、薄一波・中央顧問委員会副主任(元副首相)らからの強い風当たりを受け、その意見を受け入れた小平・顧問委員会主任らによって87年1月16日、「党中央政治局拡大会議」が開かれ、胡耀邦の失脚が決まった。このとき、唯一あえて胡耀邦を擁護する発言をしたのは習近平の父親の習仲勲元副首相だった、とされる。彼らはいずれも「八老」(パーラオ)=八大元老=といわれていたが、この時期の中国最高指導部の胡耀邦総書記や趙紫陽首相をしのぐ発言力と権威を持っていた。小平以下、陳雲、彭真、楊尚昆、薄一波、李先念、王震、習仲勲らで、時期によって多少の入れ替えがある。
今回の薄失脚は、胡耀邦名誉回復への第一歩だ、としているが、それはちょっと言いすぎだろうし、そういう個人的な恨みで薄の息子を陥れたということではないだろう。胡耀邦は完全回復ではないものの、それなりに功績は再評価される政治的雰囲気になっているので、政治体制改革を進めるために一気に名誉回復を進める、というドラスティックな動きを見せるとは思えない。

「英雄の子は英雄、反動派の子はばか者だ」「革命家の子供は革命家、走資派の子供は走資派」と、文化大革命時代に「血統主義」を主張し、紅衛兵活動を進めていた薄熙来は、のちに「重慶モデル」とされた「唱紅歌」(革命歌を歌う)や「打黒」(暴力団や汚職摘発)のやり方でも紅衛兵方式を踏襲し、犯罪を摘発する際に法によらず、つるし上げ、偽証やでっち上げで政敵を陥れるようなやり方をしていた。経済格差に不満を示す市民から喝采を受ける一方で、文革時代を思い起こさせる人々には強い警戒感をもたれていたようだ。

胡錦濤や温家宝がまさにそうで、重慶モデルに一定の理解を示し重慶を視察したこともある習近平は、薄を党中央政治局常務委員会に入れて自らの勢力に取り込もうとした時期もあったと見られるが、王立軍米国総領事館駆け込み事件以降、薄に足を引っ張られるのはたまらんと、政治局常務委員会の大勢となった胡、温ら共産主義青年団派(団派)の方針に乗り、薄失脚に同意したようだ。もし「重慶モデル」というか、紅衛兵方式が正当化されたら、中国のあちこちで下克上、権力闘争が激化し、自らの立場も危うくなりかねないとも考えたのではないか。

高級幹部の子弟をひとまとめに考える「太子党」で、習近平と薄熙来は近しい考え方だ、盟友だ、との見方がされているが、政治思想や改革へのスタンスが同じというよりは、昔からの顔見知りで、既得権益が同じでつるんでいる、と考えるほうが正しい。しかも薄のほうが習より年上で、習としてみれば、党中央政治局常務委員会に入れば薄が煙たい存在になる可能性がある。習としてみれば、自分の味方になって使いやすい人材でなければ、むしろいないほうがありがたい存在だったのかもしれない。

薄の妻について、新華社の10日の発表文は「薄谷開来」と表示していた。中国人だと「?」と思うらしい。中国は夫婦別姓だが、自分の姓の前に夫の姓をつけるのは、香港や外国の習慣だからだ。たとえば、香港返還前のナンバー2、香港人トップのアンソン・チャン女史は中国語では陳方安生という名前だが、陳は夫の姓、方が自分の姓、安生が名前だ。だから英語ではミセス・チャン、マダム・チャンといわれることになる。新華社が今回、あえて「薄谷」と表示するということは、薄熙来の妻だということを強調しているだけでなく、谷開来が香港籍か、外国籍を取っているのではないか、と見られるということだ。一部メディアは、谷が死亡した英国人、ネイル・ヘイウッド氏を経由して薄家の財産を海外に移していたのではないか、との見方を紹介している。その経済問題で軋轢が生じた結果、薄の命令で薄家の使用人、張暁軍が手をかけたのだ、という。薄熙来は典型的な「裸官」だという。

「裸官」とは、今の中国で数々の汚職で蓄財したものを子供の留学など家族を海外に住まわせて、財産を安全な海外に移し、自らは身軽な丸腰となり、ころあいを見計らって、海外に移住(亡命)して中国国内でこしらえた財産を海外で享受する、という中国のあちこちで見られる汚職役人の行動を示すものだ。

この辺まで紀律検査委員会がどう調べを尽くすのか、いずれにしても、ほかの指導者がいもづる式に摘発されることはなく、薄熙来にすべてを押し付けて今回の中国共産党の権力闘争、政変は終わるのだろう。


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