Takepuのブログ

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中国マスコミの抵抗

2011-08-04 23:17:57 | 時事
7月23日に温州で発生した中国高速鉄道追突脱線事故で、当局のメディア規制の指示を守らなかったということで、中央電視台(テレビ局)の記者が27日、停職処分を受けたという。4日の香港紙「星島日報」が報じた。
同紙のサイトによると、フランスに本部を置く「国境なき記者団」が英国BBCに語ったこととして、中央テレビ局の王青雷記者が7月25日、「新聞1+1」の番組内で鉄道省の報道官を批判したことで暫時停職になったという。事前に何の警告も説明もなかったという。
中央宣伝部は7月29日、新聞、雑誌、ネットなどすべてのメディアに対して、温州事故の重点報道をただちに
抑え、新華社などの報道のみを使い、事故のよい部分についてのみ報道せよとのとの指示を出した。30日再びメディアに対して、高速鉄道開発と、地下鉄の信号系統の会社の報道を禁止する指令を出した。

ということで、中国のメディアが当局の指令を聞かずに、独自報道を続けている。ついに犠牲者が出たということか。これまで、地方紙や夕刊紙、民間の商業紙などが記事の載っていない白い新聞を出したり、露骨に当局を批判する見出しをつけた記事を出したり、と健闘が目立っている。

下の写真は「経済観察報」。「温州没有奇跡」というのは、救出活動を終了した後に、2歳の女児が発見、救出されたことに対して、鉄道当局が「これは奇跡だ」といったことを批判したもの。「温州に奇跡などない。奇跡ではなくてもっと救出活動を続けたら女児以外にも生存者を救出できたかもしれない」といいたいのだ。


中国の記者にとっては、このことが一番当局の許せない部分のようだ。記者たちが怒っているのは事実。当局の報道規制を跳ね除けて、鉄道省の失態を報道し続けていることも事実。ただ、超えてはいけない最後の一線がある。それは遺族の抗議が全国に波及して中国共産党政権の土台を揺るがすような事態を起こすような報道だ。それから中央指導部の政治家個人を攻撃するような報道だ。

だから温州南駅などで遺族が抗議活動をしているのもあまりおおっぴらに報道していない。関係があるか、ないか確認するすべもないが、新疆ウイグル自治区で多くの死傷者が出る事件が発生した。直接の原因は漢族とウイグル族の対立とトラブルが引き金のようだが、中央指導部に批判が殺到するこのタイミングを見計らって起こした可能性も否定できない。指導部のメディア規制や、おそらく武装警察や軍が8月1日の人民解放軍創設記念日(建軍節)を中心にトラブルを回避するために、監視を強めていたため、中国ジャスミン革命のデモのときのように多くの地域に波及し同時多発的にはならなかったのだろう。

この最後の砦を守るためには、ちょっとぐらいの規制を破る報道は大目に見られているのかもしれない。事故の原因究明や鉄道局の対応についての記事を掲載することで、読者や記者の不満をガス抜き出来るなら、記者の不満を解消して手なずけ、当局に有利な報道に導くことが出来るならいい、との交換条件なのかもしれない。突出が目立つのは、いずれもスタンド売りでその日の販売部数を競う商業紙だ。白い新聞や事故について派手に抗議する新聞が読者に受ける、との販売政策上の判断もあり、部数を増やして競争に勝つために、停刊ギリギリの突出した編集を行っているのではないか。


これは3日付の人民日報系の「環球時報」だが、「全面的に鉄道部を批判することが、必ずしも世論の正義ではない」と、劉志軍・前鉄道相ら、収賄で更迭された鉄道局の幹部らの犯罪を披露して非難の対象をここまでに留め、現在の鉄道省上層部に批判が及ばないようにしているようだ。

温家宝首相が7月28日、温州の事故現場での記者会見で「公開透明」と、今後の事故の原因究明について情報公開と報道への透明性を約束したのが、むなしくバカバカしく思えてくる。このままでは中国共産党は本当に求心力を失うだろう。その前に、すべての罪を鉄道省に押し付けて、昨今伝え聞く「鉄道省解体」を進めて、日本の国鉄をJRに分割民営化したように、独立王国とも言われ、監査の手が及ばない鉄道省の権力を弱体化させ、江沢民派の力をそぐところまで、胡錦濤総書記はもくろんでいるのだろうか。