自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

「自然と地域につながる肉牛生産」について論じる

2017-10-22 14:38:09 | 自然と人為
 
 昨日、平成29年(2017年)10月21日、第31回畜産システム研究会が広島県福山市松永で開催された。テーマは「自然と地域につながる肉牛生産」で、規模拡大によるコストダウンの時代からの転換を求めるものだった。しかし、研究会会員の減少もあり、一般市民の参加を求めたが、参加者の目標100名に達しなかったのは残念であった。

 最初にこのテーマを考える問題提起として3本の映画を上映し、まず、「皆と一体、自然と一体」で暮らしているメイナク族は「幸福」や「自然」と言う言葉を持たないことを紹介した。次に戦後引き上げた満蒙開拓団に、一番若くして参加した斉藤晶さんの「牛が拓いた牧場」を紹介した。開拓地で一番農業に向かない石ころだらけの傾斜地を与えられ、肉体を酷使し、お金まで使って努力しても生きていけないどん底の生活だった。そんなある日、こんなに努力しても生きていけないこの山で、小鳥や昆虫はのびのびと生きている。この違いは何だ。そうだ、自分も自然を開拓しようと思わずに、小鳥や昆虫のように自然と一体になって生きてみようと思ったという。苦しくても逃げださないで、自然と一体に生きることに気がつき、牛とともに美しい牧場を拓かれた斉藤晶さんはすごい。

 「アインシュタインからビッグヒストリーへ」は、過去2000年の人間だけの歴史ではなくて宇宙誕生から138億年の歴史を学ぶことで、人間中心の世界観の間違いに気づき、自然を含む価値観を築いて欲しいという願いから、私が動画や番組を切り貼りして上映したものだった。思考枠組みはすぐには変えられるものではないが、日本や世界の教育の基礎に「ビッグヒストリー」組み入れて欲しいと思う。

 「自然と地域につながる肉牛生産」の総合討論は、その様な肉牛生産はどのようにして構築するのかを問うテーマであったが、まず、このテーマに関心がない会員は参加しなかったろうし、参加した会員の多くも現実に生きているので、具体的なテーマとして捉えられなかった方も多かったかもしれない。問題提起して論じるには、問題の全体を捉え、発言者の意見が全体のどの部分にあるのか、瞬時に整理して話を続けなければならない。司会をした私にそれだけの準備と鍛錬が足らなかったことを反省している。

 人にはいろいろな考え方があり、いろいろな経営があるのは当然だが、テーマをどう考えるかと言う論議で、「いろいろな考えがあります」ではこの問題の論議を前進させることはできない。その点が司会者として力不足であったが、この問題提起が参加者の心のどこかに残り、今後の仕事に生かしていただければと思っている。

 まずは、この問題で出された竹の飼料化について、大谷山里山牧場と飼料会社と大学等の研究機関が連携し具体的な検討を始めたい。

 それにしても世界の肉牛生産は自然資源の活用が基本であり、アメリカやオーストラリアは広大な土地の砂漠化防止が目的であり、カーボーイの仕事は、そのための牛の移動と野生化した牛の捕獲だ。日本でも里山が荒れてきているので里山の資源を牛の放牧で管理するために肉牛生産があることを、行政(農水省、地方自治体)や研究は重要視していただきたい。

 放牧していると子牛の捕獲は大変で、カーボーイのようにロープは使わないが暴れる子牛を両手で抱きついて静かにさせる大変な作業がいる。それだけではない、早く子牛を母牛から離乳するとショックで哺乳しても飲まなくなるので、生まれてから子牛と接触し、指をしゃべらすなどが必要だ。また放牧頭数が多くなると5頭でも穏やかな群を支配しようと荒い牛が出てくる。富士山岡村牧場が「牛が笑う牧場」を目指しているとは、そういった牛へのまなざしがあるからだ。これは現場にいない研究者には見えない世界だ。

 畜産の研究や行政は現場と一体になって実施しないと、「自然と地域につながる肉牛生産」は実現しない。今回の研究会を出発点として、日本の肉牛生産も世界に誇れるものに育って欲しい。

初稿 2017.10.22 更新 2017.10.23