自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

テクノロジーとアートと禅のスティーブ・ジョブズ「Stay Hungry, Stay Foolish.」

2016-10-17 21:02:08 | 自然と人為

 スティーブ・ジョブズが亡くなって5年になる。大型計算機を仕事に使うことが常識だった頃(1976年)、親友のウォズニアックとアップルコンピュータを創業(21歳)し、翌年にはApple IIが爆発的人気で売れ、パソコン時代の幕を開けた。このパーソナルコンピュータの開発に対して、1985年に最初のアメリカ国家技術賞を受賞しているが、受賞のことはどうでもいい程、社会へのインパクトは強烈であった。文字入力でコンピュータを操作するMS-DOSなどのOSが主流だった時代に、グラフィック等のマウスによる操作を標準機能としたマッキントッシュ、通称・略称はMac(マック)の開発・販売に始まり、音楽を聴く世界を変えたiPodの発表が2001年10月、これに電話とネットと画像とマルチタッチの機能を加えて新しい電話の発明とも言える初代iPhone (2)を2007年1月に発表し、「Apple I」から「iPhone」まで、パソコンを日常社会で欠かせない道具に様変わりさせた。そしてiPad(2010年1月発表)では、パソコンの画面の大きさを維持しつつ、究極の小型に変えてしまった。
 参考: iPhone を発表するスティーブ・ジョブス (2007年1月9日)
      スティーブ・ジョブズは「モノづくり」の何を変えたのか


 スティーブ・ジョブズは、秀でた理性と感性を兼ね備え、こだわりと集中力は常人では理解できない程、強烈であった。シリア人を父として生まれ、望まれない子として生後養子に出された彼は、大学の学費に苦労している養父母の姿に耐えられず退学しているが、2005年6月12日、当時50歳のスティーブ・ジョブズは、世界でも優秀とされるスタンフォード大学の卒業式で世に残る講演をしている。
 参考: スティーブ・ジョブズ 感動の名スピーチ 【日本語字幕】(2005年6月12日)
      スティーブ・ジョブス 感動のスピーチ全文 (於:スタンフォード大学卒業式)

 スティーブ・ジョブズ没後 (2011年10月5日、享年56歳) 5年を記念して、NHKはアナザーストーリーズ「知られざるスティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実」を放送している。

「Stay Hungry, Stay Foolish.(ハングリーでれ、愚かであれ)」
 私はこれを座右の銘にしてきました。みなさんの門出に、この言葉を贈ります。伝説のスピーチはこう締めくくられている。この言葉を卒業生はどう受け取っただろうか。そして皆さんも。


 知られざるスティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実(前)より

1.点と点をつなぐ
 スティーブ・ジョブズは高校生の頃からヒューレット・パッカードでアルバイトをし、ウォズニアックと知り合いアップル社を立ち上げたが、ジョージ・クロウも同社で大型計算機の設計全般を任されていた知る人ぞ知るエリートエンジニアだった。彼は1980年、最初にスティーブ・ジョブズから「俺と一緒にマジですごいコンピューターを作らないか?」と誘われた時にはアップルはオタク向けのおもちゃを作っている会社と思っていた。6カ月後に再びマッキントッシュの原型を持って来た。初期段階のものだが、見ただけでどこまで行くつもりか解った。確かにマジですごいと思った。コンピュータの世界で点と点で能力のすごい人を見つけ、その人を仲間にしてスゴイものを創る。カリグラフィー(西洋書道)のティム・ガービンは美しい多様なフォントを創りだした。こうしてマッキントッシュで点がつながったが、設計図通りに点がつながった訳ではない。スティーブ・ジョブズは一人で夢を実現できるとは考えていない。彼が夢を求めてつないだ点は能力であり、能力がつながって光輝いた結果がマッキントッシュだと彼は言いたいのだろう。
 仏教には「一即一切・重々無尽」、一即はすべての時間、一切はすべての空間で、これが幾重にも重なり合って、畳み込まれて存在しているという教えがある。重々無尽の考え方は、この世の中の結果には、それぞれに数限りない因縁が関わりあっているというもので、人と人も関わりの中で輝くことができるが、スティーブ・ジョブズの夢が人と人の関わりを輝かせたと言えるのだろう。



  スティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実(前)

  スティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実(後)

2.愛と喪失
 マッキントッシュはマジですごいコンピューターだった。しかし、その先端の機能に人々はついて来なかった。売れなかったことからスティーブ・ジョブズの強引さにアップル社内の反発があり、「ジョブス自身がペプシから引き抜いてきた当時のCEOジョン・スカリーとの権力闘争に敗れ」て取締役会で追放された。自分の創業した会社を追われ、失意の中でシリコンバレーを去ることも考えた彼だが、愛する仕事が彼を前進させた。ジョージ・クロウを含めて5名がアップル社から参加し、大学をターゲットにした高性能ワークステーション「NeXT」を手掛けるためにコンピュータ会社を立ち上げた。これも売れなかったが、1996年12月にアップルのMacのOSとして採用され、スティーブ・ジョブズを会社に復帰させることになる。またテクノロジーとアートを組み合わせて、コンピュータによるCGで映画を作るという夢を実現するために、「ピクサー」の経営も始めた。そして1995年、初の長編コンピュータグラフィックス・アニメーション映画「 トイ・ストーリー 」が完成した。
 参考: スティーブ・ジョブス アップル社解任後の「どん底」から如何にして蘇ったか?




  スティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実(前)

3.死の覚悟
 2005年にスタンフォード大学の卒業式で講演をした時、彼は死を覚悟していた。2007年1月、iPhone を発表した際の冒頭で、「2年半この日が来るのを待った。」と言ったのはこの講演から2年半という意味ではなかろうか。彼は自分の愛する仕事に夢中で、「誰のものか分からない人生を生きているヒマなど無」かった。ガンに侵された彼は、死の4か月前に新製品を発表しているが、新製品の発表の度に燃え尽きるように痩せていった。
 「iPhone」はコンピューターを作る道具から使う道具に変えてしまった。コンピューターがないと一日も暮らせない時代になった。私などはBASICでプログラムを作らないとコンピューターが使えない時代にパソコンにハマッたので、EXCELさえも使うのが億劫で、インターネットも見よう見まねでやっと使っている。だが今の時代は使うのが当たり前で、指先を器用に素早く動かす訓練はしても、プログラムを作るという意味を知らない人が殆どではなかろうか。





  スティーブ・ジョブズ~伝説のスピーチの真実(後)

「Stay Hungry, Stay Foolish.(ハングリーでれ、愚かであれ)」
 ティーブ・ジョブズの伝説となったスピーチで残した言葉を、皆さんはどう受け取っていますか? 
 この言葉には禅の影響が見られ、宝鏡三昧 洞山良介禅師に、『愚の如く、魯ろの如く、よく相続するを主中の主と名づく』とあり、これは「愚か者のように、間抜けのように、ひたすら同じ事を続ける者こそ、最高の悟りを得るものである」と番組では説明されている。無私無欲で誰もみていないところで一生懸命やるという説明もある。『よく相続するを主中の主と名づく』は、コツコツと1つのことを続ける人が最も強いという意味で、一瞬一瞬の生を最大限に発揮せよという教え」を述べたものだという説明もある。ニュアンスの違いはあれ、無私無欲で一瞬一瞬の生を精一杯生きろということだろう。
 参考: スティーブ・ジョブズと禅




 写真の上から順に、コンピューター技術の右腕であったジョージ・クロウも、美しい多様なフォントを創りだしたティム・ガービンも、CG映画への夢を共有したアルビー・レイ・スミスも、それぞれが味わいのある意味で「Stay Hungry,Stay Foolish.」を解釈している。私の解釈はガービンに近い。「固定観念」はその人の世界を狭くする。立身出世を目指して付けた自信過剰の知識は、その人だけでなく、その人の周辺の人々まで「固定観念」を常識とさせる。無私無欲で、人を殺し、あらゆるものを破壊する軍事研究に人は夢中になれるだろうか。また、政治における自信過剰は利己的な支配欲を生む。
 
 他者を尊重する平和な社会を、我々はどう構築していけば良いのだろうか。情報伝達手段が著しく発達することは、全ての分散処理を可能にする。大都市に人口が集中することは、大停電サンデーモーニング”風をよむ”2016.10.16 録画)だけでなく大地震の被害も大きくする。人口の地方分散は重要な政治の課題であろう。
 政治はテクノロジーの進歩から取り残され、3代も続いて特権階級化して自信過剰となってしまった。その問題についてはここでは触れないが、利己的な政治支配に利益を求めて従う従来の「固定観念」を脱皮して、政治に参加することが我々に課せられた重要な責任だと思う。
 参考: スティーブ・ジョブス アップル社解任後の「どん底」から如何にして蘇ったか?
      未来を垣間見たカリスマ 〜 スティーブ・ジョブズ 第1部 ー 第10話


初稿 2016.10.17 更新 2016.10.20